第27話 恐怖の下駄箱ミッション
「火の元よし。電気よし。……ありゃ?」
家を出る前の最終確認をしていた私は、リビングのテーブルに置かれた自分のお弁当箱の隣に、それより少し大きめの、紺色のナプキンに包まれたお弁当箱を発見した。
「先輩、お弁当忘れてるよ…。」
同居している事が学校でバレないように家を出るときは、時間差で先輩が先に行ってもらうようにしていたのだけど…。
うーん、一応連絡してみるか…。
私は携帯で先輩にL○NEメールを送った。
『先輩。お弁当忘れてますよー。』
私はゆるキャラ動物シリーズのネコが微妙に困った顔で、『やっちゃたねー』と言っている絵文字を続けて送った。
すると、すぐにピロン、ピロンとL○NEの着信音が鳴り、先輩からのメールが送られてきた。
『あっ、本当だ。すまん。忘れた。』
L○NEの公式キャラクターの狸が、両手を組み合わせて、焦っている絵文字がそれに続いた。
「あはは、焦ってる!絵文字可愛い〜。」
私は続けてメールを送った。
『どうしますか?今日は学食にしますか?』
確か、先輩はこの前バイトの給料もらって少しは持ち合わせがあったはず…。
ピロン。
『うーん、今日は何が入ってる?』
ん?お弁当のメニューかな?えーと…。
『唐揚げ、卵焼き、野菜の煮物、炊き込みご飯です。』
ピロン。
『唐揚げか…。すまないが、もしできるなら届けてもらえないか?』
あれっ。唐揚げ好きだったのかな?いつも何も言わないで食べているのに。
『それはいいのですが、教室はまずいですよね?どこに届ければいいですか?』
同居がバレないようにしてるのに、皆のいる前でお弁当持って行ったら意味ないもんね。
ピロン。
『そうだな。教室はちょっと…。下駄箱に入れておいてもらえないか?2-A出席番号は15番、名札に里見と書いてある。』
あぁ、なるほど!下駄箱ね。
『了解しました。お昼までに下駄箱に入れて置きますね。』
私はゆるキャラのネコが親指を立てて、
『了解です!』と言っている絵文字を送った。
ピロン。ピロン。
『すまない。よろしく頼む。』
公式キャラクターのネコが、汗を流しながら
ペコリとお辞儀をしている絵文字が、続けて送れれてきた。
おおっ。絵文字、同じネコで返してきた!
L○NEだと先輩いい人だなぁ…。
「よし。森野林檎。ミッション承りました!
あっ。もう、こんな時間!ヤバッ。」
私は慌てて自分と先輩のお弁当を手提げに入れると、玄関に急いだ。
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「りんご。朝ぎりぎりだったわね。」
一時間目後の休み時間に夢ちゃんが話しかけに来てくれた。
「ああ、うん。ちょっと色々あって。
夢ちゃん。私大事なミッションがあるの。ちょっと下駄箱に届け物してくるね。」
「もしかして、里見先輩絡み?」
夢ちゃんは気に入らなさそうに鼻を鳴らした。
夢ちゃんは里見先輩の事をあまり好きじゃない、っていうか嫌いだ。
「あ…う…うん。」
「どうせ忘れ物か何かでしょ?本当に手のかかる先輩だね。」
夢ちゃんすごい。ドンピシャだ。
「りんご、程々にしなよ。忘れ物を下駄箱に届けてあげるって…お母さんみたいじゃない。」
「はは…。」私もそれはちょっと思ったよ。
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私はお弁当を入れた手提げを持って、急いで下駄箱に向かった。
「えーと、確か、2−A 15番ね…。 」
お目当ての下駄箱はすぐに見つかったのだが…。
先客がいる。
ちょうど里見先輩の下駄箱の前に、可愛いピンクの封筒を持った、ツインテールの女生徒と、その人を取り囲むように二人の女生徒が立っていた。
3人とも制服のリボンが緑なので、どうやら二年生の先輩方らしいと分かる。
「あ〜どうしよう?あ…あたし、恥ずかしくってぇ。」
「もぉー。真由美ぃ。勇気を出して!里見先輩に告白するって決めたでしょ?」
「そうだよー。ほら、頑張って!」
二人の女子が手紙を持ってモジモジしている女子を励ますように言った。
おおっ!どうやら二年の先輩が里見先輩にラブレターを渡そうとする現場に出会ってしまったらしい。
やっぱり先輩モテるんだな。二股事件のせいで評判が落ちちゃって、面と向かって先輩に近づく人はいなくっても、陰でこっそり想ってる子は結構いるのかも。
私は、なかなかラブレターを渡せない様子の真由美先輩とその仲間の先輩達の様子を下駄箱の陰に隠れて覗う事にした。
「真由美。あたし達は、あんたがどんだけ里見君の事を想っていたか、知ってるよ。
選択授業のクラスで、里見君と同じグループになれた時はさ。人見知りのあんたが、いっぱい発言してたよね。」
「私も見てたよ。真由美すごい頑張ってた。」
「よしみ、ななこ、ありがとう〜!」
おおっ。厚い友情だ!
「調理実習でクッキー作ったときはさ、三人で手作りのクッキー里見くんに渡しに行ったこともあったよね。
結局恥ずかしくて直接渡しに行けなくて、匿名で里見くんの机の上に置いてきちゃったけどさ。」
「あの時の真由美って、本当に女の子してて可愛いかったよねー。」
「ホントホント!」
「や、やだぁ。二人とも〜。」
んん?可愛い…かぁ…。確かに奥ゆかしいけど、匿名で手作りのクッキーはもらう方怖くないかな?
そこはちゃんと名前書いとこうよ!
「里見くん、今フリーでチャンスじゃん?この時を逃しちゃダメだよ。」
「そ、そうだよね。今がチャンスだよね。」
「ま、真由美。下駄箱開けるよ。手紙入れてね。」
「う、うん…。」
彼女のドキドキがこっちにまで伝わってくるようだった。
うぅっ、頑張って!
「3…,2…,1。ハイッ!開けたよ。」
「あ、あたし、あたしやっぱ無理ぃーっっ。」
「あっ、真由美ぃー。」
「待ってよー。」
真由美先輩は踵を返して逃げ出し、その後を仲間の先輩達が追いかけて行った。
結局渡さんのかーいっっ!!!
私は盛大に突っ込みたい気持ちだった。
「あ、私も早くしないと…。」
授業開始まであと、5分になってしまった。
里見先輩の下駄箱に向かおうとしたとき、急に辺りが騒がしくなり、次の授業が体育のクラスの体操服姿の生徒達が、下駄箱に大量に押し寄せてきた。
こんなに大勢の人がいる中、先輩の下駄箱にお弁当を入れるなんて、絶対無理だ。
「はぁ…。」
私はお弁当の包みを手提げに入れ直すと、トボトボ教室に戻った。
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あれから、三時間目は体育の授業で着換えがある為休み時間に下駄箱に近づくチャンスはなかった。
四時間目が終わると、私は「今度こそ!」と
手提げ(弁当)を持って下駄箱に向かってダッシュした。
夢ちゃんについてきてもらえれば、心強かったのだけど、昼休みは、委員会の集まりがあるので残念ながら無理だった。
真由美先輩、あの後手紙入れられたんかな?
下駄箱に向かうと、幸い二年の下駄箱の辺りに人影はなさそうだった。
2-Aの15番の下駄箱の扉を見ると、確かに『里見』とマジックで書かれた名札が入ってるのを確認できた。
意を決して里見先輩の下駄箱の前に向かい立つと…。
あ、あれ?
すっごい緊張してきた…!
他人の下駄箱を勝手に開けるって、すごい勇気いらない?
し、しかも、誰かに見られでもしたら…。
周りをキョロキョロと何度も確認しながら、私は下駄箱の扉に手をかける。
心臓がバクンバクンと早鐘をうっている。
もはや、緊張して、吐きそう。
さっきの真由美先輩、こんな思いだったんだ…。
早く入れちゃえよ!と実は内心少しイライラしていたの。ごめんね。
ガコン。音を立てて、下駄箱を開けると、中は、真ん中に仕切りがあり、二段になっていた。下段には先輩の革靴が入っていて、上段には何も入っていない空間があった。
真由美先輩の手紙は入っていないようだった。
私は上段にお弁当の包みを押し込んで、急いで下駄箱の扉をしめた。
「ハァ、ハァ、ハァ……。」
私は荒い息をして、2、3歩後退った。
ミ、ミッションコンプリート!!!
「あれ?森野さん?」
「きゃあああっっ!」
ガッツポーズをとったところに急に声をかけられて、私は思わず悲鳴を上げた。
振り向くと、そこには私でも知っている有名人、生徒会の副会長で二年の東恭介先輩が立っていた!
よ、よりにもよって、こんな目立つ人に見つかるなんて!!
「ごめん、驚かせて。一年の森野さんだよね…。そこ、二年生の下駄箱じゃない?何してるの?」
「あ…、いや、あの…。」
私は何かうまい言い訳をと思いながら、頭が真っ白になってしまって、何も思いつかず、アワアワしてしまっていた。
「もしかして、里見浩史郎絡み…かな?」
東先輩は興味深そうに瞳をキラッと光らせた。
ごめんなさい、先輩!
ミッション失敗です!!!
*あとがき*
いつも読んで頂き、フォローや、応援、評価下さって本当にありがとうございます
m(_ _)m
今後ともどうかよろしくお願いします。
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