第23話 事態の発覚
「おお、俺ももしかしたら、足出るかと思ったんだけど、チタンコーティングのフライパンと材料で3万4649円でぎりぎり大丈夫だった。計算ピッタリですごいだろ?」
俺はお釣りの小銭を握りしめて、わなわなと震えている森野の肩をポンと叩いた。
「すごいだろ?じゃなーいっっ!!」
振り向きざま、森野は涙目で喚いた。
「先輩!あの食費一ヶ月分だったんですよ?
あと、残り18日間351円でどうやって生活するんですかぁっ!」
?!
俺は森野の勢いに気圧されつつ、反論を試みた。
「一ヶ月分?嘘だろ?残りさ3万5千円しかなかったぞ。君、前半で使い過ぎたんじゃないか?」
「一ヶ月の食費と日用品代に6万円頂いていました!貰い過ぎな位ですよ。まぁ、最初は調味料とか色々かかりますからね。それでも月末には少し余らせる予定で、今まで上手くやりくりしていたのに…。
使い切っちゃうってどういう事ですか!?」
「………!!」
ここにきてようやく俺にも事の重大さが分かってきた。今までお弁当込みで、
3食13日間2万5千円でやりくりしていたのを、月末まであと18日間351円でやっていかなければならない事になる。
青ざめた俺を見て、逆に森野は少し冷静になったようだった。
「いえ、先輩を責めても仕方ないですね。
悪気があったワケではないですもの。最初に食費の事ちゃんと説明しておかなかった私も悪いです。
取り敢えず、現状を確認しましょう。」
森野は台所をウロウロと歩き回り、今ある食材を調べ始めた。
「米は一ヶ月分ありますね。お茶も調味料もあり、野菜も少し残っている。特売で100円の卵を毎週買えば、餓死する事はなさそうですね…。」
森野は心配そうな俺に振り向いて笑顔を向けた。
「うん、先輩。大丈夫です。毎日卵かけご飯と具無し味噌汁、お弁当にごま塩ご飯で頑張れば、なんとか生活していけそうです。」
「あ、ああ…。そうか!」
俺は取り敢えず勢いで返事をしたが、それって『大丈夫』なのか?
「ちょっと、失礼します。」
それから、森野はバタバタと自分の部屋に戻り、どこかに電話をかけ、誰かと話をしているようだった。
いたたまれない俺は、その間汚れた食器を食器洗い機にかけ、チタンコーティングのフライパンを洗ったり、しおしおと夕食の後片付けをしていた。
洗い終わった食器を棚に戻そうとしていると、森野がまたキッチンに飛び込んで来て、興奮ぎみにまくし立てた。
「先輩、先輩!本当になんとかなりそうです。
春先に派遣会社を通じて短期のバイトをやったことがあって、そこに今電話をかけたら、今週の土日でお仕事が貰えるそうです。
翌日払いだから、すぐお給金を現金で貰えます。だからもうお金の事心配しないで下さいね?」
「!!そ、そうか、よかった!」
俺はホーっと安堵のため息を漏らした。
「土日の間は不便かけますけど、卵かけご飯でなんとか凌いで、家でお留守番していて下さいね。明日、面接に行って来ます。」
「森野。」
「はい?」
「そのバイト、俺もさせてもらえないか?」
「ええっ!?」
森野は信じられないものを見る目付きで俺を見た。
*あとがき*
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