第24話 初バイト
金曜の放課後、食費を使い込んでしまった俺は、お金を稼ぐべく、森野と共に最寄り駅から電車で20分位のところにある、派遣会社の事務所に向かっていた。
「先輩、ちなみにバイトのご経験は?」
「あるワケないだろ?小遣いに困ったことないんだから。」
「……。」
森野は俺に分からないようにと逆方向に顔を向けると、小さくため息をついた。
でもな。身長差があるから丸見えだぞ?
失礼な奴だな…。
「あっ、ここです。このビルの3階に事務所があります。」
駅からそう遠くない、ビジネス街の一角に5階建てのビルを見つけると、森野は指を差した。
一階が飲食店のそのビルは、二階以上に会社のテナントが入っており、3階には
ピーエル企画(株)とあった。
エレベーターで3階まで上がり、森野が、事務所のドアを開けた。
「こんにちはー。昨日バイトの件でお電話させて頂いた森野です。」
「おー。森野さん、こんにちは。」
森野が挨拶をすると、ジャケットにパンツ姿の30代位の男性が入口近くで、感じ良く出迎えてくれた。
10畳位の広さの事務所の部屋の奥には業務用のデスクが何台かあり、若い社員二人がそこで事務仕事をしている。
応対してくれた男性は、入口近くにある、会議用の大テーブルにパイプ椅子を二脚用意してくれ、俺達に座るよう促した。
「この間はお仕事ありがとうね。また今週末にお願いできるのかな?」
「はい。ぜひお願いします。それで、その、友人にもできたらお仕事を紹介して頂けると有り難いんですが…。」
森野は隣の席にいる俺を指して言った。
「森野の友人の里見です。宜しくお願いします。」
「ああ、こちらの彼氏さん?イケメンさんだねー。私、ピーエル企画の企画マネージャーの保科です。よろしくね。」
俺は保科という男性から名刺を渡された。
「まぁ、森野さんから話は聞いているかもしれないけど、ウチは短期のアルバイトを紹介する会社でね。まぁ、時間が空いたときに、手軽にお小遣いを稼げるって事で、学生さんにも沢山利用して頂いています。怪しいバイトじゃないから安心してね。」
保科さんは俺ににっこり笑いかけた。
「それで今週末ってことだけど、もしかして同じ場所に、二人一緒に入りたいってことかな?」
「ええと…。はい。できれば、一緒のところでお願いしたいです。」
森野が答えると、保科さんは少し困ったような顔をした。
「うーん。そういう要望結構多いんだけどね。お友達同士でおしゃべりしちゃったり、職場放棄しちゃったり、苦情が出ることがあるんだよね。特に、君達カップルでしょ?
大丈夫かな?」
「ちっ、違います!」
「カップルじゃありません!」
保科さんの問いに首を横に振って全否定をする俺と森野だった。
「彼はただの友人です。それにあの、一緒に入りたいというのは、この人バイト初めてなので、フォローしてやりたいと思ったからで…。お仕事は精一杯やらせて頂きたいと思っています!」
森野はそう言うとペコリと頭を下げた。
フォローって…、頼んでないんだけど。森野だって、そんなにバイトの経験ない筈なのに、どこか上から目線な発言に若干引っかかりつつ、食費の件ではこちらに非があるため、大人しく黙っていた。
「あー、そういう事?うん、まぁ、森野さんしっかりしてるし、大丈夫かな?」
保科さんは俺達を交互にみて苦笑いすると、テーブルに置かれた分厚いファイルから、
一枚書類を取り出して俺達に見せた。
「じゃあ、近いところで土日二日間のお仕事があるんだけど、どうかな?ちょっと里見くんの方にはキツイお仕事になっちゃうかもしれないんだけど…。」
「大丈夫です。やらせて下さい。」
俺は真剣な表情で、頼み込んだ。
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