第8話前世で殺したあいつのそっくりさん

俺の知ってるルコア・ルドルは"ダンピール"

つまり人間と吸血鬼の混血種であった。

"英雄"と呼ばれる優れた才を持つ者たちは、例外なく全員が混血であった。一人一人が一国の軍を優に上回る強さだ。生物として設計された限界を最も引き出したのが彼らといえるだろう。ならばその英雄の更に上に位置する"大英雄"とは何か。



大英雄は勇者でないにも関わらず、戦いの中で魔王である俺を殺すことが出来た数少ない者たちの事を指す。

当然、神側から見たら完全なる想定外の異分子であるので殺した際に魂は回収しても輪廻の輪に還さず、そのまま砕いた。それなのに……目を閉じて両頬を叩く。そして深呼吸を3回した



(いやいや あり得ないだろ。もう一回よく見ろ。多分アイアンベアーに殺されかけて、気が動転して見間違えた。そうだ。そうに決まってる)



恐る恐る薄目でチラリと相手を覗き見る。

すると巨大な二つの果実が眼前にぶら下がっていた。いやこれは胸だ。へたり込む俺と前屈みになって顔を覗き込むルコアの無駄に大きな胸の谷間が丁度俺の目線と同じ高さにあったのだ。それにしてもこの谷間。目が離せない。あれ?なんで俺こんなに凝視しちゃってるの。視線が吸い込まれる。何かの魔法か!?



「君人間だろ!気になるなら触ってみるかい?ぼくは気にしないよ」



「は。はぁ〜!?いやいや、胸なんて、そんな、触りたい……わけではなくて、興味が無い訳でも、なくて……その ゴニョゴニョ」



「娘っ子。こいつはチジョってやつだ。変なことされる前に逃げろ!」



「え〜〜!!!ショック!」



立ち上がろうとして、足に力を入れようとするがなんだか上手く力が入らない。なんだこれ、ガクガクする



「どうやら娘っ子は安心したせいで腰が抜けたみたいだ。チジョ 嬉しいだろ?家まで送ってやってくれ」



「嬉しいけどなんだろう。素直に喜べない

それにしても災難だったね、えっと名前は」



ルコアが俺の身体をお姫様抱っこして軽々と持ち上げる



「も、紅葉。こっちはグツグツ」



「紅葉くんにグツグツくんね……よし覚えた。ぼくの名前はルコア・ルドル……あれ?そういえば、名乗ってないのに何で紅葉くんはぼくの名前を知ってたの?」



「あ、その、あれだ。有名だろ!ルコア……さんは」



その言葉を聞いて少しだけルコアの表情が翳る



「ルコアで良いよ。ぼくと君は今日から友達だ。それにしてもこの国でもぼくの名前って知られてるんだ。ほんと嫌になるなぁ」



「オイラは知らねえぞ!教えろ チジョ」



「その言い方やめない?流石に傷付く

あ〜言い辛いけど、あれだよ。ぼくは現雷帝だからね」



「雷帝!?」



グツグツが驚いた様に目を大きく丸くした。なんだろう、それは凄い役職なのだろうか。恐らく帝ってついてるし、どこかの王様かなにかかな?アイアンベアーを瞬殺した腕前を見ても相当に強いし十分あり得る話だろう



「へえ、あんたがあの世界に9人しかいないと云われる九帝なのか。でもチジョ……「怒るよ?」



「そんな偉いルコアはなんでこんな所にいるの?」



「ん〜?なんか色々面倒になっちゃってさ。それで尊敬する先輩に会いにきたんだ。この辺に住んでるって聞いたけど道に迷ってね。」



その言葉には少し疲れた色が含まれていた。

これ以上踏み込むのは流石に無神経だろう



「そう、なんだ」



「そうだよ〜

まあ、紅葉くんみたいに可愛い子と知り合えたし結果オーライ、だよね」



しかし見れば見るほど似ている。

左右対称のオッドアイでしかも片方が魔眼。キテレツな帽子を被り側頭部から生える鹿みたいな鬼の角まで何から何まで一緒だ。

起源覚醒魔法が1番近い状態だが、外見がここまで類似する例を今まで見たことがない。



我が家に辿り着いた時、玄関の掃き掃除をしていた父と目があった。抱えられた俺を見て、血相を変えて駆け寄ってくる



「紅葉さん!どうしました!?何があった グツグツ!」



「す、すまない。オイラがついていたのに」



「父さんそんなに騒がないで。魔物に襲われた所をこのルコアに助けてもらったから怪我はしてない。平気だから」



ルコアの手から父の元へ渡される。重さを噛み締めるように父はギュッと俺の、紅葉の身体を優しく包み込んでいた。母とはまた違う安心感のようなものを感じた



「危ない所を助けて頂き本当にありがとうございます。良ければお礼も兼ねてご飯でも一緒にどうですか?」



「いやいや、ぼくはそんな大層なことをしたわけじゃないので」

 


父の提案をルコアは申し訳さなそうに辞退する。助けてもらったお礼は今度するとしよう、そう思っていると、家の中からドタドタと誰かが忙しなく走ってきて、勢いよくドアを開ける



「どうしたの紅葉ちゃん!なにがあったの、ママに事細かくその状況を教えて頂戴!問題があっても大丈夫よ。ママに任せれば全部解決!なんたってママはとっても強いんだから!」



「母さんうるさい。」




「怒ってもダメでーす。ママだって怒ってるんだからね!紅葉ちゃんはそもそも病み上がりなのに外に出たらダメじゃない!ただでさえ人間は他の種族よりひ弱なんですからね!心配させた罰として後でママのほっぺにチューしてもらいますからね!わかった!?」



「母さん!あの!他人前なんですけど!」



「もう!だからなによ。私たち家族の仲良しっぷりは他人の前だろうとなんら憚ることはないわ!!見せつけてやろうじゃない!」



「あれ?紅羽先輩?」



ルコアのその一言で、先程まで煩わしく騒いでいた母が嘘みたいに静かになった。どうやら顔見知りらしい。それにしても、先輩?確かルコアが会いにきたのも、先輩って言ってたよな。もしかして……



「……ルコアじゃん。久しぶり。最後に会ったのは私が剣帝を引退した時だから、15年ぶりくらいか?なんだよ、突然だな」



いやいやどんだけ取り繕っても、もう手遅れじゃないかな?だってあんな醜態晒して無かったことには出来ないだろう。


しかし母、こんなんで剣帝ってことはとっても凄い人なんだ。父ももしや偉人なら、そこに何か俺が憑依した秘密があるのかもしれないな



にしても、俺は結構人の強さを測るの得意なんだが、母って魔力も並だし、体捌きも普通。特別強い感じはしないのだが、帝ってのは強さで選ばれてるわけではないのか?



「お久しぶりです。会いたかったです、紅羽先輩」



大人の対応だよ、ルコア。お前まじで良い奴なんだな。なら俺もそれについては何も言うまい



「ところでルコア、さっきお前何か見た?」



「……見てませんよ」



「よろしい、じゃあ飯 一緒に食べるか?」



「……はい!」



こうして、俺の命の恩人であるルコア・ルドルを招き入れて、我が家の朝食が始まった

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