第5話お友達の間に挟まる

「これが紅葉ちゃんのお部屋かぁ……!」

「ここが紅葉さんのお部屋なのですわね!!」



紅葉の部屋に連れて来たら、2人が恍惚の表情を浮かべて不自然に深呼吸を何度かしていた。

気にせず紅葉の部屋を改めて見直す事にした。一般的な家庭と比べて部屋はそれなりに広く、子供3人で入っても手狭に感じることはないだろう。

しかし、一つだけ問題がある。腰掛ける場所をどうしようかという問題だ。床に座らせるのはだめだ。エルフは基本的に自分たちが他種族に対して抱かれている幻想的なイメージを異様なほど大切にしているからだ。そんな病的なまでに種族としてのアイデンティティを持っているが故に人の目がある場所で地べたに座るなどエルフとしての矜持が絶対に許さないはずだ



紅葉の家である以上、主導を握っているのは俺。わざわざ矜持を傷付ける必要もないのだから、俺が客人に対して配慮する必要があり、腰掛ける為の場所を見繕い、誘導する方が良いだろう



と考えていると、突然にドアがノックされて母がスッと顔を出して、何か差し出してくる



「大したものは出せないけど…… はいこれ 紅葉の小さい頃のアルバムよ。盛り上がると思うから」



「母さん 今はそれどころじゃ……」



現状の俺は何てことないただの人間だ。だからこそ少しでも早く事体の把握に努めて、この身体を本人に返さなくてはならない。紅葉の過去にかまけている時間などある訳がない



「我がクロイツェル家の名にかけて、確かに預からせて頂きました 紅葉さんのお姉様」



「わくわく! わくわく!」



「妹をよろしくね〜」



「……」



声の弾み具合から、どうやら母では無く姉と勘違いされている事に、ある種の悦に浸っているらしい。

女性というものは、どうして老いを異様に嫌うのだろう。不変の俺からしたら、生を色んな形で経験できて羨ましいのだがな……



そういえば俺の配下にも1人いたな。若さに執着する余り40年毎に転生を繰り返すようになったやつが。理由が「貴方様の記憶の隅に留めてもらう為に、自分は若く美しくなければならない」等とそんな事を言っていた気がする



「真に受けるなよ あの人は姉じゃない。母だ」



「「えぇぇ!!?」」



ニーナだけじゃなく、セイーネも姉と勘違いしていたらしくすごい驚き具合だ。尚更無用な勘違いは早めに解けて良かったとむねを撫でおろす。さてと改めて部屋を見回す



腰掛け椅子は一つだが、ベッドなら複数人が座れる。俺は椅子で彼女らをベットが自然だろう



「じゃあ2人はベッドにでも適当に座ってくれ」



配慮されてると気に負わないように軽い感じで適当に促す



「「じゃあ遠慮なく」」



俺は椅子の方を引っ張り出すが、それを見てセイーネが自分の横に座れと言いたげにパンパンと隣を叩く。わざわざ3人で横一列に座る必要あるだろうか



動かない俺に対してセイーネが言を発する



「こっち……!」



「んえ……?でもな」



「こっち……!!」



「……はい」



有無を言わさぬ迫力に俺は首を縦に振るしかなく、セイーネの隣に腰掛けた。今の語気には魔歌より強力な抗い難い何かが秘められている様に感じた。

これにてベッドの奥側から順にニーナ、セイーネ、俺の形となっている



「む それは些かズルではなくて」



「じゃあ ニーナちゃんもやればいいんだよ」



ニーナが何やらセイーネに対して不満そうだ。何かズルをしたのか?視線同士で火花が散り、何故か一旦立ち上がり俺の横に立つ



「いきなりどうした」



「奥に詰めてくださいまし、セイーネさん」



「……はーい」



「ほら、紅葉さんも」



訳が分からなかった。なぜニーナは座っていたにも関わらずわざわざ立ち上がり、俺の横へ座ったのだろう。この一連の行動は非効率的だ。座る場所に何か意味でもあったのか?



……!そういうことか。この部屋の主人は俺であり、そんな俺を真ん中に置くことで、あくまで主役は俺だと慮ってくれているのだ。子供ながら、流石はエルフといったところ



現在2人が俺を挟む形で同時にベッドに腰掛けている。息がかかるくらいには距離感が近い。そんな3人が雁首揃えて、紅葉のアルバムをしげしげと眺めていた



「うわぁ〜!見て見て ニーナちゃん この写真、何歳くらいの写真なのかな」



「3……いや4才くらいですわね」



「そうだな」



「あ、これ、この間の学年種別魔法大会のやつだ!

紅葉ちゃんかっこいいな〜」



「ですわね。私たち下級生部門で優勝候補と名高いロマーニャさんを相手にあそこまで善戦出来ましたもの。あれは実質勝ちですわ」



「そうだな」


♢♢♢


気付けば、日が暮れていた。階下から香ばしい肉の匂いが漂ってくる。



『紅葉さーん! 暗くなると危ないですよー!』



「わかったーー!」



父に届くくらいの声量で返事をしたのちに、2人に向き直る



「今日はわざわざ心配して見に来てくれてありがとな」



「これもクラスリーダーの務めですもの。気にしないでくれて良いですわ!それでいつ学校には来る予定ですの?」



「1週間は様子見ぇ休むつもりだ。まあおいおいな」



「寂しいけど分かった! イーネ待ってるから 紅葉ちゃん! また学校で!」



「また学校でな」



朗らかに別れを切り出して、2人は帰っていった。

何やら大事なことを聞き忘れている気がしたが、それよりも先ずは夕食を済ませるのが先であろう



俺は軽やかな足取りで階段を降りていった

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