第1部 第1話 §7  ドライの義足2

 彼等は奥にあるテーブルに行き、それをを囲むように座り、それからドライは、窮屈そうにそのラバーを外す。


 すると驚いたことに、中からは、仰々しい機械じみたパーツを組み合わせた金属の固まりが出てきた。当然ながら、これを初めてみるローズと、鍛冶屋の店主は目を丸くして驚く。


 どうやら溶接さえすればイイという代物ではないらしい。


「ドライ、これって、古代魔法の……」


「ああ、錬金術でもニアリーエンシエントマジックを使う古代魔道師たちの成せる技だ。見てろ」


 ドライが、ズボンを捲り上げ、義足を、足に組み込まれてある金属板にあて、両手で押さえ、ニヤリと笑う。


 すると、義足の足首の部分が、前後に動く。その際に外に出ているファイバーケーブルのような物が光る。恐らくそれが運動命令を伝達しているのだろう。


 そういうデモンストレーションを何度となく繰り返す。


「比奴は、俺が助けてもらった村に、偶然いた錬金術師に作ってもらった物だ。全く良く出来てやがる。でもそれだけに、こういう時が大変なんだ。それで、此処へ寄ったんだが、見た目も中身も普通の鍛冶屋みたいだし……、無駄足だったかな」


 ドライが義足の修理を諦め、再び立ち上がり、歩きだそうとしたときだった。元々大きな期待はしてなかったのだろう。ただ伝があるなら、その可能性を信じたかった。それに鍛冶屋はここだけではない。


「確かにうちじゃ無理だ。でも彼なら……」


 顎に手を当て、少し記憶を探っている感じで、声を出す鍛冶屋の店主。どうやら心当たりの人物がいるらしい。


「なんだ?何かいい方法があるのか!?」


 再びテーブルに身を乗り出すドライ。その顔が鍛冶屋の近くまで押し寄せる。すると店主は吃驚して頷く。それから用意したメモ用紙に何やらを書いてくれた。どうやら紹介状のようで、彼の名前らしき物を書いている。それからサインも、である。


「きっと彼は、良い腕してるから、それくらいの物なら修理してくれると思うんだが……」


「だが?」


 店主の言い方に、疑問符で返すドライとローズ。二人で彼の顔をのぞき込む。


「……が、住んでる所が厄介でね……、地図書いて解るかどうか……」


 と、言いつつも、ご丁寧に地図まで書いてくれている。しかし地図には、丸く楕円に囲んだ部分に、森と書かれ、その中央に、川らしき線が、一本引かれ、更に森の中の川の両側に、二本線を引き、渓谷と書かれただけだった。最後に申し訳ない程度に、方角と点を書く。


「おいおい、何だよこれ……」


「まるで、こどもの絵みたい……」


 ローズとドライが、その地図を上下左右にクルクル回しながら、一応の確認をしている。点は、渓谷の右付近にぽつんと書かれている。どうやら川の付近を行けばたどり着くらしいが、寸法も何も解らない。


「お、一つ忘れてた」


 店主は、森の中に丸く円を囲って、湖と書いた。点の位置が、湖に行くまでと、多少は位置に限定が見られる。


「殺すぞ……てめぇ」


 ドライが少し切キレかかっている。本場の睨みで、鍛冶屋を捉える。


「そんなこと言われたって、こう言う所に住んでるんだから、仕方がないじゃないか!彼はあまり街の人間と接触したがらんのだよ」


 今にも鍛冶屋の襟首をつり上げそうなドライを、ローズは押さえながらいった。


「まぁまぁ、ドライ、在り来りの設定よ。あてになりそうな人は、必ずと言っていいほど、人嫌いで、頑固で、此方の目的につけ込んで、無茶な要求してきて、挙げ句の果てにエロジジィなのよ」


 ローズは溜息半分でドライを説得する。一人で賞金稼ぎをしているときの彼女と違って、何だかリラックスした雰囲気が見られる。


「最後のは違うけど、まあそんなところだ。お嬢さん良く知ってるね、彼の知り合いかい?」


「口から出任せ……」


 ローズは肩をすくめ、両手の平を天井に向けて、首を横に振り、外人ジェスチャーをする。


 「なんで、もっと探しやすい場所にいねぇんだよ。むかつくぜ」


 ドライは、鍛冶屋から出るくらいまで、そんな感じでぼやいていた。


 「まぁ、とにかく人の足じゃ無理だね!馬か何かじゃないと!」


 鍛冶屋から出る直前、店主がよく透る大きな声で、二人の背中に呼びかけた。

 と、言うことなのである。二人は、地図と紹介状を持って、鍛冶屋を出た。

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