第1部 第1話 §7  ドライの義足

 二人はその後、食事に出かける。ドライはローズに肩を借りながら、店を眺めては、二人で、ああでもない、こうでもないと、揉めながら、街を歩き回る。


「朝からなんだが、とにかく血液になるのもが欲しい。肉から野菜から……」


 ほんの少し眠っただけだというのに、ドライは元気だ。治療も功を奏したのだろうが、やはり相当なタフネスを秘めている。この世界で名を馳せるだけのことはある男だということだ。


「そんなの朝から食べたら、胸焼けおこすわよ。と……、言いたいところだけど、私もお腹すいてるし……、それで手うつか……」


 何となく色目を使ってみせる、チャッカリしたローズであった。別に強欲であるのではない。ただ、ドライの無尽蔵に近い預貯金を知ってしまえば、意地でも減らしたくなってくる。


 当然そういう色目の意味を理解するドライだった。


「解った解った」


 と、ドライは気前の良いことを言ったが、いざ店にはいると、ローズは片っ端から、高い物を食べ始めた。上等な肉に、年代物の酒、それこそ朝から食する物ではない。だが、ドライもそれに引けをとらない量を食べた。


「よく食うな……」


「うん……」


「俺より食ってるじゃねぇか?」


 この際どっちでもいい。気持ちいいほど図々しく食べていくローズは、ある意味気持ちが良かった。ヘタをするとちょっとした依頼分くらいは、飛んで行くのかもしれない予感は十分にあた。


 二人は。兎に角食べた。店の者の開いた口が塞がらない。

 彼等は、その運動量も並外れているが、食欲の方も同じく並外れている。


 二人は食事の後、今度は、彼の義足の修理をして貰うため、鍛冶屋まで行く。ローズは、馴れない町の情景を思い出しながら、目的地を探す。


「確か、そこの角を曲がって、あ……ホラ!」


 二人は、目的の鍛冶屋を見つける。表向きは、一般的で、繁盛しているかしていないか、まあ生活を何とか営んでそうに見える。とにかく中に入る。


「おい!誰かいるか!客だぜ」


 ドライは元気良く声を掛ける。半ば自棄に聞こえる。すると、中から普通の商店主が出てきた。身体も大柄ではないし、武器を扱っていそうな感じもない、唯一貫禄があるのは、上唇に生えた、もじゃもじゃした髭だけだ。良く見ると、壁にはフライパンや、鍋が掛かっている。


「なんだね」


 殴り込みっぽいドライの口調に、少しばかり、むっとした表情をみせている。


「おやじ!ここ、義足の修理なんかやってるか?ちょい特殊なんだが……」


 ドライが、義足を手に持ち、店主に見せる。別段変わった義足でもないのに、イヤに神経質なになっている。


「ああ、留め具が壊れてるんだね、見た目で解るよ。それくらいなら……」


 と、今度は客だとわかったのか、普段町の人間と話をしているような、穏やかな口調と表情に変わった。


 「ああ、ちょい待ち、これには特殊素材をかぶせてある。とにかく椅子に座らせてくれ、説明はそれからだ」


 「ああ、構わないよ」


 もったいぶったドライのその態度に、店主は問題無いと、首を横に振る。





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