第3部 第12話 §14 実力差

 だがしかし、それと同時に、ドライの持つアンチマジックシェルでは、その攻撃は、防げないことになる。

 今度は、ドライが攻める。

 イーサーがドライの剣を受ける立場となるのだ。剣がぶつかるたびに、イーサーは、剣を弾かれそうに思うが、意外に手から離れない。だが、次に真上から、振り下ろされたドライの剣に対して、たまらず楯でそれを防ぐ。

 白く半透明に輝くその楯は、ドライの剣を受けると、激しく、光を散らす。だが、砕けることはない。それにイーサーにダメージを与えることもない。

 完全に自立して、それ自身でダメージを受けている。事実楯はイーサーの側にあるが、彼の腕に密着しているわけではないのである。

 「うお!」

 イーサーは驚いている。

 ドライの攻撃を受けたはいいが、それを受けきれる自信があった訳ではなかった。

 一見地味な遣り取りだが、確実なものがある。

 だが、次にドライはふっと姿を消す。しかしそれは、姿を消したのではない。地面を見れば解る。

 大地は大きくけり込まれ、圧力がかかり、凹んでいる。それで動きの方向が解る。しかし気が付いたときには、イーサーの真後ろに大きな影が出来ている。

 振り向く間でもなく、その気配を感知したイーサーは、ゾッとする。凄まじい圧力である。

 イーサーは、振り向きざまにバックステップで、ドライとの間合いを開けようとするが、ドライはぴたりと張り付き、イーサーの正面にいる。

 そして、攻撃をを加えるドライ。剛刀ブラッドシャウトを振り回し、イーサーの楯にそれをぶつける。

 イーサーは、なかなか間合いを取ることが出来ない。

 よって思いきって、足を止めて、シールドの防御力を生かし、攻撃に転ずる。

 

 物理的な破壊力で、最強であるドライの剣だとしても、イーサーの持つ楯の前では、まるで無力であった。それが照明された瞬間でもある。

 ドライの攻撃を止めると同時にイーサーは、反撃し始める。だが、ドライはそれをブラッドシャウトでいとも簡単に弾いてしまうのである。

 スキルでは、まだまだドライに敵わない。それに攻撃に転じたと思っても、ドライは、イーサーのシールドの弱点である、正面以外の方向から攻撃を仕掛けてくる。

 イーサーはドライの動きにつられるようにして、彼を正面に起きたがるが、ドライは極端に速度を上げ、直ぐにイーサーの死角に飛び込む。

 それを繰り返されると、イーサーは息を上げ始める。

 運動量はドライの方が圧倒的に上だ。だが、動いているドライと、動かされているイーサーの差は、歴然である。それは手数の差にも繋がる。

 「終わりだな……」

 次の瞬間、ドライは完全にイーサーの背後を取り、彼の延髄に剣を突きつける。

 エイルの時とは違い、ドライはフェイントの連続であった。

 「ちぇ~~……」

 イーサーは、もう終わってしまったのかと、ガッカリした様子で、戦闘態勢を解く。

 負けて当然だったが、それでも自分の思うとおりに動けなかったことは悔しい。

 「オメェはもうチョイ、反応速度を上げないとな。じゃねぇと、三百六十度のディフェンスができねぇな。足の使い方がワリィな。あ~、後でドーヴァなんかに、聞くといいんじゃねぇか?」

 ドライは正直、イーサーが他の者、特にエイルと比較して、体裁きが悪いとは思っていなかった。だが、エイルには破壊力のある魔法があるのに対して、イーサーの持つ魔法は、それほど破壊力のあるものではない。

 それはつまり、ドライを足止めすら出来ないということである。

 魔法は確かにドライに通用しないが、ブラッドシャウトの性質上、魔法を跳ね返すため、ドライはどうしてもその反動を受けなければならない。ディフェンシブに戦えば、それほどでもないダメージも、攻撃的に魔法と打ち合えば、その負担は大きいのである。

 イーサーにはそれがないため、ドライは容易に連撃を繰り出すことも出来るし、スムースに次の動作に移行することが出来る

 無論ドライがイーサーの後方に回り込むことが、容易に出来たのは、ドライ自身の能力の高さもある。

 それは、客観的に見ていればよく解ることだった。

 もし、エイルがイーサーと同じ能力を持っていたとしても、恐らくその結果に大した違いはないだろう。

 「ホラ!次、来いよ!」

 珍しくドライが、誘う。時にはそういうのもいいのではないか?と、彼は思っていた。

 特に鋭い指摘が出来るわけではない。だが、彼自身が思ったことを、素直に口にした。


 「あ、んじゃ、あたしお願いしよっかな?」

 ひょっこりと動き出したのはフィアである。

 ドライは少し離れた位置で、立っている。歩いて行くフィアとの距離が縮まってゆくにつれて、その距離が自分達との距離感に思える、エイルだった。

 イーサーは、それをあまり気にしていない。そこに追いつくつもりで居るからだ。

 「アニキ、やっぱつえぇよなぁ。速いし、力あるし……」

 「ああ」

 完全に動作を見切られている。それが一番正しい表現なのかもしれない。

 引くことも一つの駆け引きとして利用しているだけで、攻められているから、引いているわけではないのである。

 イーサー達は攻め手を得たようで、実は隙を作り出されていたでけであるのだ。

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