第3部 第12話 §13 立ちはだかる壁
なんという軽やかさと豪快さだろうか。
それがドライ=サヴァラスティアの剣なのである。
ドライの剣は再びエイルのシールドに、直撃する。
「見て!あれ!」
ミールがそれに気が付く。
「くそぉぉ!」
エイルが力んだ声を上げ、しっかりと踏ん張りつつ、剣をドライに向ける。
今までクールな表情に見えたドライの眉間に皺が寄っている。だが、ミールの注目したものは、それだはない。
明らかにエイルの張ったシールドに、ドライのブラッドシャウトが、食い込んでいるのである。
「うそ……だろ……」
グラントも息を呑む。同じ系統の力を持つ者であれば、それがどれほどのものなのか、十分理解できる。
「はぁあああ!」
エイルはさらに魔力を集中する。シールドを破られないようにするために、必死である。
「どうした!?それで全力か?!」
ドライの剣が徐々にシールドを裂き始める。
「せい!!」
一刀両断。
ドライは、大地に立て膝をして、座り込むようにいして、剣を振り切る。シールドを完全に破壊されたエイルは、衝撃の全てを体に受け止めることになり、大きく弾き飛ばされ、制御できないエネルギーと共に、大きく背中を大地に付け、数メートル滑り、漸く止まる。
戦意。
エイルはそれだけを糧に、直ぐさま立ち上がり、構えようとするが、その先にはすでにドライはおらず、彼の気配を感じたのは、背後である。
直ぐさま反応し、後方を振り返る。
飛んできたのは、剣ではなくドライの拳である。
眼前にそれが近づき、一瞬全ての視界が暗転し、気が付けば空が見えている。
瞬間だが、ぎりぎりの間でシールドを張ったのを覚えているが、それではドライのパワーは防ぎきれない。
ブラッドシャウトを左手に持ったドライが、右手を幾度か降っている。どうやら、痺れたようだ。
「ま、こんなもんだろうよ」
ドライは大の字になって仰向けになっているエイルを見つつ、そう呟く。
エイルの気力が無くなると、イクシオンは精霊の姿に戻る。だが、エイルを守るために、両者の間に立つが、それはあまりに小さな存在である。
そして、ドライも精霊に攻撃をする気はない。
ただ精霊は忠実にエイルを守ろうとしているのである。それは彼等の絆である。
「よせ……そいつは敵じゃない……」
エイルの意識はハッキリしている。ただ、体中が脱力感に満ちている。
見つめていたイーサー達も呆然としている。体に無駄な力が入っていた事に気が付く。それがどれだけ洗練された力であるのかを少しだが理解した。
「どうだ?バカ気てんだろ?力の源とかなんだとか、謎とかよ。テメェがどうであろうと、俺と五分もまともにやりあえねぇ。先ばっかりみてんじゃねぇよ。そんでも、強くなりてぇんだろ?」
ドライは、大の字になっているエイルの頭をクシャリと撫でる。決して悪意に満ちた手ではない。むしろ暖かみのある手である。
「見る夢なくなっちまったら。俺達どーすりゃいいんだよ……」
エイルのその若々しい想いは、ドライの胸をぎゅっと締め付けた。
ドライにとって、剣は生きる糧であり、それでしか生き様を証明できなかった彼が追い続けていたものである。だが、彼はマリーという存在を知り、ローズという存在を得る。
彼にとって剣より、それが大切な存在であり、守りたいものであり、夢でもある。そしてローズの温もりがその胸中にあることが、安らぎなのである。
彼はそれを守るために、剣を振るい続ける。剣を振るうことそのものが、もう目的ではないのである。
エイルが言う夢。恐らくそれは、この剣技大会の全てが終わる頃に、ハッキリと形になっていることだろう。
「剣の道にゃ、そんなもんありゃしねぇよ。見る夢守るために、あるんだよ」
ドライはもう一度エイルの頭を撫でる。
ドライのその言葉は重かった。重圧感があるわけではない。ただ、体にしっかりとそれがのし掛かってくるのが解る。
それを見ていたイーサーが、途端に身震いを起こす。
「アニキ、かっけぇ~!次、俺俺!俺の相手してよ!」
イーサーは飛び出すようにして走り出して、エイルを引き起こしているドライの側に駆け寄る。落ち着き無く自分を指さし、ドライにやる気を見せる。瞳は少年のようにきらきらと輝いている。
イーサーは、良くも悪くも本当に無邪気な面がある。
「あ?!」
鬱陶しい。ドライは一瞬身をかわすようにして仰け反り、イーサーと近距離でいることを嫌うが、すぐに嬉しそうに、待っているイーサーのそれに諦めてしまう。
何より大事なサヴァラスティア家の一員である。
嘗て、人を寄せ付けることのなかった自分に、これ程親近感を持って寄ってくるイーサーの人なつこさに、ドライの目も緩む。
「しゃーねぇなぁ。」
「其奴、しつこいから、ガツンとやんなきゃ、わかんねぇからな」
エイルが、ドライに向かって、ほくそ笑むような笑いをし、ミール達の元へと歩いて行く。
「へへ……」
イーサーは、力を十分に試した雰囲気のエイルを見て、嬉しそうに笑う。そのレベルのエイルとやり合うのが、楽しみだと言いたげな表情である。
イーサーは、戦うことを純粋に楽しめるようだ。今の標的は、ドライである。
無論勝てるとは、思っていない。だが、新たに身につけた力で、その差は少しでも縮まっているはずだと、彼は確信している。
「そういや、アイツの新技とか、ちゃんと見てないよな?」
戻ってきたエイルが、重たげに腰を地面に下ろし、イーサーを見る。
「うん。魔力で出来た剣と楯……みたいだけど。バタバタしてたし、リザードマンのこともあったし」
リザードマンと戦っているときは、それなりに必死だった。それにイーサー自身もそれをひけらかす事をしなかった。いつもの彼ならば、それをオモチャのように見せびらかして、喜び勇んでいるはずだった。
ドライは、イーサーの瞳に、一つの遺志が籠もっていることに気が付く。恐らくそれは、重苦しく構えなければならないものではないのだろう。
ドライは抜かれたイーサーの剣に違和感を覚える。魔力よりもより濃密で異質なエネルギー。確かに、リザードマンとの戦いの時から気になってはいたのだ。
だが、こうして相まみえると、それは予想以上のエネルギー密度である。
「まぁ、来いや……」
ドライはエイルの時とは違い、右手を大きく引き、左前に構える。突き出された左腕は、イーサーに距離感を感じる圧迫感を与える。
イーサーは、エネルギー密度が高く、ほとんど質量のない剣を、数度八の字に振り回し、楯を前し、ドライと同じように、右手を大きく引いて力を貯めた。
剣に重量がない。それは速度を示す。恐らく物理的な破壊力はないだろうが、動きは速い。容易に想像できることだ。
イーサーは、今まで質量のある剣を使っていたはずである。そのことに違和感を感じないのだろうか?
いや、彼の目にはそれは感じられない。彼が持つ柔軟性がそれを克服させているのだろう。
イーサーは、速度を付けて剣を振るう。ドライは下方上方、突きなどを含めた多彩な攻撃である。
ドライを含め、彼等は半両手刀剣、もしくは半片手刀剣のような使い方をしているが、イーサーはそうはせず、徹底的な片手刀剣の戦い方になっている。それは、彼が所有している霊子力の楯があるためだ、彼は左腕を完全に防御に使っている。
ドライは、ある程度それを躱し、イーサーの剣とブラッドシャウトを交えさせた時、その違和感が何かをハッキリと知る。
イーサーの持つ力は、魔力とは異質のものだということだ。
何故ならばエイルの剣のように、魔力を纏っているならば、ブラッドシャウトとぶつかった瞬間に、魔力が弾かれるはずである。だが、それがない。
だが、エネルギーだからといって、決してブラッドシャウトを突き抜け、ドライに届くことはない。
「げ……」
それはイーサーにとっても意外な事だったのだろう。
「物質を斬るんだろ?当然だな」
どうやらイーサーの力は完全にコントロールされたものではないようだ。これならば物理的な力で、防がれてしまうのである。
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