第3部 第12話 §11 無駄な努力

 先日のエイルの行動などから、それは何となく理解していた。

 エイルは正直、満足な答えが返ってくることなど、ドライには期待もしていなかった。はぐらかすならば、無理矢理にでも聞くつもりでいたのである。

 「ああ、俺達自身のことだよ」

 エイルは、戦闘態勢に入らないドライに対して、肩の精霊を武器化させ、いつでも刃を振るえるように、僅かに構える。

 イーサーはキョトンとしている。確かにエイルがいろいろ悩んでいた事は、彼も十分に知っている。しかしそれは、今のエイルの表情から、もう解決されたものだと思っていたのだ。

 エイルの目は、事実を受け入れる覚悟が十分に出来ている、強い光を持っていた。

 グラントは、エイルが思っていることを、何となく理解していた。何故なら彼はヨークスの大会で世界有数と呼ばれる実力者と戦ったからである。彼はそこにもう少し壁があるように感じていたのだが、事実はそうではなかった。グラントにもまた、大会を制したという、満足感はない。

 ただ、夢が現実になった喜びがあるのも事実である。しかし、その後の高揚感が無いのである。

 「そうじゃ、ねぇだろうがよ。真っ直ぐ言いたいこと言ってみろよ、探ってんじゃねぇよ」

 ドライは、少しだけ面倒そうだったが、それでもはぐらかしたりはしなかった。単刀直入に言わないエイルを歯がゆく思った。エイルはドライの口からそれを言わせようとしているのである。ドライにはそれが解っていた。

 エイルには、事実を受け入れる覚悟は出来ているが、それを自らの言葉で決めつけたくはなかったのだ。

 ドライにそれを悟られている。

 「俺達も、あんた達と同じなのか?って事だよ」

 言葉の攻め合いで、ドライに負けることが悔しいエイルだった。まるで尻を割ったかのように、そう言う。

 「だったら?テメェどうするよ?」

 「そうじゃない!だから、俺達にいろんな事してくれんのか?!人間じゃないからか?」

 「やめなよ!」

 ミールが、ドライに突っかかる、エイルを止める。気が付けばエイルの手はドライの胸ぐらを掴んでいた。

 「かもな……オメェ等見てると、どっかで血が騒いでる」

 「アンタ、いっつもそうだよ!寝ぼけた目してたり、ボウッとしてたりしてるくせに、その奥では、何か知ってますって、面してる!」

 「そんなんじゃねぇよ……」

 ドライは興奮するエイルに対して、少し溜息がちになる。別に彼の存在が疎ましいわけではない。ただそれは誤解なのだ。

 経験は勘を育てる。不必要な選択肢は、容易に削られて行くのである。彼はそれを受け入れている。何より壊れて行く世界の最前線で生きた過去がある。シルベスターという存在に縛られた自分がいる。今更それ以上に、何があるというのだろうか。そして、その中で愛するローズがいつも側にいる。どれだけ激しい生き様をしても、世界を制する力を手に入れても、彼が手に入れることの出来たのは、それが全てなのである。そして、それで十分なのである。

 エイルは、力を持て余してる。誰よりも明晰な頭脳を持つエイルである。彼はその底を知りたがっている。彼等には、ドライ達のように、全てを燃焼し尽くすような戦いの経験がないのである。

 エイルはそれにむず痒がっている。

 「正直、テメェ等が、俺達のように不老不死であるのか、人として寿命を迎えるのか、人の倍生きて死ぬのか?なんてことは、俺にもわかんねぇよ。ただ、戦い続けてりゃ、いずれ目覚めちまうかもな、シルベスターと、クロノアールの血がよ」

 ドライが、サブジェイ達が静観していた事実を、エイル達に告げる。確かに、ドライも静観を良しとしていた。だが、それは触れてはならない事実だからではない。知れば何かが変わるというももではないからだ。それは知っておいても知らなくても良い事実の一つであると思っている。ただ、エイルはそれに気づいた。だから語らねばならなくなっただけのことである。それを話す時が来たのだろう。

 「で?それを知ったら、テメェは剣を置くのか?」

 「それは……」

 エイル以外には、感づいていながらもほとんど唐突に近い事実を突きつけられた結果になる。

 リバティーは、イーサーの手を握る。不安の深淵に突き落とされないために、必死に捕まっている。

 「まぁ、うだうだ言うなら、俺をぶっ倒せるようになってからでもいいんじゃねぇのか?」

 ドライは、バイクのサイドのホルダーから、ブラッドシャウトを抜く。

 「ヒヨっこ相手に、マジにゃなりたかねぇが、毒抜きもしれやらねぇとな……」

 イーサーは、自然と喉を鳴らす。今までは、身体的なダメージがありすぎるため、ドライが汗をかく前に、彼等は床に倒れることばかりだった。

 だが、精霊の力を手に入れてからは、初めて彼と剣を交えることになる。

 歩いて行くドライの後ろをエイルがついて行く。

 「え……ってことは、ウチ等お嬢と同じ血筋なわけ?」

 ミールはエイルほど、それを強く受け止めているわけではない。確かにエイルは先を見すぎている。エイルが愕然としている事実の一つに、自分の力が実力以上のものが、関わっていたと言うことである。つまりそれは才能や、努力ではどうにもならない次元のものであるということだ。

 エイルは自分達が今まで積み重ねてきた努力が、一瞬に打ち壊されたような気がしたのだ。それは意味をなさないものだったと、言われたような気がしてならなかったのである。

 ドライは、ある程度歩くと足を止め、エイルの方に振り向き、ブラッドシャウトを鞘から引き抜き、矛先を地面につけて、エイルを見る。

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