第3部 第12話 §8 探れぬ目的
彼等は事件の後のそれぞれの時間を過ごしていた。何故それが起こったのか……、どういう条件なのか、そのことについて、知りうる事実は少ない。
「やれやれ……難儀やなぁ……」
そうぼやいているのは、ホーリーシティーの時計台の最上部に立つドーヴァだった。
彼はこの街の全景をそこから眺めている。
「ここのところの統計といえば……って、統計取るほどの出現回数はないな……」
ドーヴァの悩みは底なのである。
以前はサブジェイとレイオニーが、世界各地で不定期に起こる、時空のひずみを調べ、その異常をクーガで防いでいた。眠そうに欠伸をしながら、後頭部をかきむしる。
「セシル~、なんかわかったか?」
ドーヴァは、唐突に携帯電話をかけると同時に、愛妻に手がかりを求める。
「いつも通り……か……、すまんなぁ」
携帯電話の向こうのセシルも手がかり一つつかめていないようである。
それどころか、レイオニーはルークと出かけてしまっていることを、ドーヴァに伝える。それを聞くとドーヴァは、むすっとした顔をして、電話を切ってしまう。
「ったく……、最近のアイツは、危機感が欠落してるな。てか、ま、しゃーないか……」
レイオニーは決して無責任な女ではない。だが彼女はエピオニアでの事件以来、一般人が持つような危機感を持てなくなってしまっている。自分達でどうにかなると思っているのである。
もちろん今回の事件で、沢山の死傷者が出たことも知っている。それに心を痛めていないわけではない。だが苛まれてはいない。
ドーヴァもまた、酷くそれに苛まれている訳ではない。
ノアーや、ブラニーは、そのことに心を痛めているシンプソンが気がかりであるだけだ。それはルークも同じである。
ドーヴァはピンと来る。ヨークスの二つの事件といい、ホーリーシティーでのこの事件といい、それは彼の身近で起こっていることだ。
具体的に言えば、何か重要な催し事がある直前や、その前に起こっているのだ。
ドーヴァがそこにいるのは、ジパニオスクのVIPが来訪する事に対しての、隠密の警備をしているからである。「ん~~?なんでや?何がしたい……」
珍しくドーヴァの表情から、眠さが消える。
「あぁ。レイオ」
ドーヴァは次にレイオニーに電話を入れる。
「前も、言うたとおもうけど、魔物事件で、エピオニア十五傑に関わるもんが、狙われてるっていうたけどな。それだけと違うのとちゃうか?狙ってるっていうか……なんちゅうか、釈然とせん……、いや、それもあるんやろうけど……、ああ」
ドーヴァは何か自分達が挑発されているような気がしてならなくなってきていた。
「問題は、誰がなんのために……やな」
ドーヴァは携帯電話を切り、もう一度ホーリーシティーを眺める。
「頭目」
そのとき、ドーヴァの部下が一人、彼の側に現れる。
彼等は忍び装束で、ほとんど音を立てることなく、その姿を移す手段を心得ている。
「ああ……、ま、対して収穫なんぞないのは、解ってる」
ドーヴァは、それでもそこから、ホーリーシティーを眺め続ける。
「この街には、長い間世話になっとる……」
そのドーヴァの言葉は、どことなく寂しげだった。何か遠い昔に置いてきてしまったものを、探そうとしているようにも見えた。
この街は、狩れも含め恐らく、ドライ達が本当に人として生きて行く時間を与えてくれた場所である。
だが、眼下に見下ろすそれは、造形ばかりが立派になり、温もりを感じることの出来ないものになりつつあった。
「彼奴等は、どうしてるかな」
ドーヴァは現在の地位に就き、彼を隊長と慕う部下と別れを告げた。尤も現在の彼の部下の中にも、そのころの人間はいる。だが、人の力を超えた能力を要する職務のため、彼と同じ道を進めた者はすくない。
恐らくオーディン達を含め、シルベスターや、クロノアールの力と何らかの形で、関わっていると思われる似人々が多く集まっているのが、ドーヴァの配下ではないだろうか。
「そうや。お前等、後はオーディンとシンプソン、サブジェイから適当に指示をもらえ、それと数人後で俺の所に来い」
どこへ行くのか?などとは、聞かない。厳格さがあるわけではない。だが、ドーヴァの命令は絶対である。そうしなければならないのである。彼等は自主的にそうしている。非常に統率力の取れた部隊である。
ドーヴァの命令を聞くと、彼の配下は姿を消す。
「さて、俺の勘は、どこまでさえとるかな……」
ドーヴァは、ポツリと呟き、狩れも同じようにそこからふっと姿を眩ませるのであった。
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