第3部 第12話 §7 望むのは、ただそれだけ
しかし、そんなルークでも、一つ心配の種が出来ていた。それはシンプソンのことである。
混乱のうちに終わってしまったホーリーシティーの剣技大会。
それにあわせ来訪していた、ジパニオスク。
その目の前で起きたあの事件である。確かに不可解で、シンプソンにはなんの責任も亡いことだが、それを攻める者達がいる。
この街はシンプソン=セガレイという一人の強力な支柱によって支えられてる。
だが、本来は王国ではないのである。彼はあくまで市長であり、いつまでもその地位にあり続けることに対し、妬みを持つ人間がいるのである。
彼等は、この事件のその非を責めた。議会では、さんざんな野次が飛ぶ。
だが、そんなシンプソンも延々とそれを受け続ける訳ではない。その日の討議が終わると、彼はそこから解放される。この日は、早朝からそれがあり、二時間ほどで彼への質疑応答は打ち切られる。
それが終わるとシンプソンは日常業務に入る。
だが、この時、側にいたのはサブジェイである。ルークの代わりである。
レイオニーのわがままから実現した組み合わせである。
二人が居るのはシンプソンの執務室である。
「そろそろ、潮時ですかね……」
と、シンプソンは、肩の力を抜いて簡単に笑う。だが少々元気がないのも、また事実である。
「何いってんだよ……、何も解っちゃいない連中さ。この街は、シンプソンさんや、親父達がいたから、これだけの街になったんじゃないか……、なんなら俺が全員ぶっ飛ばしておこうか?」
サブジェイは、弱気なシンプソンの言葉を頼りなく思いながらも、軽い葉っぱをかける。
「でも……」
「はぁ……」
だが、そんなサブジェイも、ふと疲れた溜息をはいて、腰掛けたソファーに深く凭れ、ボンヤリとした表情を浮かべる。
「この街もかわっちまったなぁ。オヤジやオーディンさんを知らない人が沢山増えて……、俺が小さかった頃は、やっと街に成り立てだったのに……。気が付いたらホントの街になってて……、今じゃ世界の都市までに、数え上げられて……」
「そうですねぇ……」
シンプソンが落ち着いた様子をみせて、相づちをうつ。
先ほどのシンプソンとは、その様相は一変してるかのようにみえる。だが、別に彼が「潮時」だと言ったのは、自分に自信がないと言うわけではないのだ。
確かに彼一人がこのまま市長という椅子に腰掛け続けることは、独裁と取られても、仕方がない部分がある。
ましてや富の分配の事もある。
レイオニーの研究や、ルーク、ブラにーの事も含め、彼はそれを支援している。
二人ともエピオニア十五傑に数えられており、名誉を得ているが、この街に存在し、市長シンプソン=セガレイと交流がある限り、彼等もその恩恵を受け続けることになる。
「なぁシンプソンさん。それでもやっぱり、街はシンプソンさんが、市長であることを望んでるから、こうしてここにいるんじゃないの?」
「もちろんそうですが…………」
シンプソンは一度そこで言葉を切り、コーヒーを口にする。彼が好むのはアメリカンであり、その味わいはルークと対照的である。
「サブジェイ?人は安定を求めるものです。今この街が問題なく機能してるからこそ、私を支持しているわけで、私以外にそれを成し得ることの出来うる人材がいれば、それはそれでいいのではないのでしょうか?この街は大きく発展し、前進しているように見えますが、保守的になってしまったのではないのかと、私は思います」
次々に新しい力が現れ、彼等がいくつもの問題を解決して、前に進む。本来そうあるべきではないのだろうか?とシンプソンは思うのである。
「尤も、私も安定を望む保守的な人間の一人です。私にとってこの街は家でもあります。ドライやオーディンがいつ帰ってきても、それを実感できる場所であって欲しいと、望んでいます。でも望むことは、ただそれだけなんです」
シンプソンが求めるものは、貪欲な名誉や富ではない。ただ、街が暖かな雰囲気に包まれ、自分達やその仲間が、底に住んでいて良かったと思えるものにしたい。それだけだった。
「お金は必要ですけどね」
シンプソンはそう付け足す。それはまた間違いのない事実である。
「ドライの農場に行ったときに、思ったんですよ。ノンビリしていて、大らかで、心地よくて……。二人が居て、リバティーちゃん達が居て……」
確かに、あの場所はゆったりとしている。デッキにあるテーブルで本を読み、リビングでテレビを見たり、畑を耕してみたり、日がな一日バイクを走らせてみたり。
それでいて人との交流が決して切れていない場所。そして、自分達の力で生きている。
「そうだなぁ……シンプソンさんも、なんだかんだ言って、歳だしな」
「そうですよ?」
シンプソンは、皮肉っぽいサブジェイのそれに対して笑う。
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