第3部 第12話 §5  思い出すのはあの時の……

 少し火照った顔をしながら降りてくるリバティーに対して、フィアはクスリと笑ってしまう。

 まるで彼女の方がこの家に、リバティーよりも先に住んでいたかのようなゆとりを見せている。だが、ローズがより神秘的な美しさを得ていた事は、知らぬ事だった。

 「吃驚したぁ……」

 リバティーは、先ほどまでローズが倒れ込んでいたソファーの上に腰を下ろして、全身の力を抜く。視線はボウッと上を向いたママだった。

 「姉御とアニキ、いいよねぇ。いつもアツアツでさ……」

 ミールも、二階から聞こえるだけのローズの声と、フィアの笑みで大凡の様子を察知していた。一体どうしたら何十年も、そんなホットな関係を続けているけるのだろうか?と、先を見すぎて、はっと溜息を吐いた。

 グラントはこういう会話には、一切加わらない。わざと聞こえないふりをして、テレビの方に目を向ける。

 「節操がないだけだろ……」

 エイルは、わざと冷めた様子で、呆れ果てた様子をしている。

 「俺は!同じくらい、お嬢のこと愛してるぜ!」

 まるでアピールをするように、イーサーは、ソファーの真ん中に座っているリバティーの横に腰をかける。

 リバティーは少し、左にずれて、二人が真ん中に坐れるようにする。

 まるで大事な宝物を放さないかのように、リバティーをぎゅっと抱きしめる。

 リバティーはジットリとした視線をイーサーに送るが、特に彼を突き放したりはしない。それがイーサーの愛情表現だということを十分理解しているからだ。

 彼女がイーサーにそういう視線を向けたのは、旅先からの疲れがあったからに、他ならない。

 だが、自分の思いを自慢げに仲間達に振りまいているイーサーの表情は、とても明るい。リバティーはその表情が好きである。いつも自分と居るだけで嬉しそうなイーサーの笑顔を見てしまうとホッとする。

 いつの間にかジットリとしていたリバティーの目は、仕方のない甘えん坊を見るような、暖かいものに変わっていた。

 「そう言えば、最近イーサーの目尻柔らかくなったね……」

 リバティーは、イーサーの目尻あたりを指先で撫でる。

 「へへへ……そっかな」

 そう言いながら表情が和らいでいるリバティーを見ると、イーサーは、さらに嬉しい。

 しかし、それをやれやれという、半ばあきらめきった表情で見ているのは、エイル達である。

 「そう言えば!そのソファーで、二人の初エッチがあったんだよね……」

 フィアは、数ヶ月前に起こった誰もが忘れたと思っていた事象を、口に出す。

 「あははは!いわないでよ!」

 リバティーははにかんだ笑みを浮かべて、顔を真っ赤にしながら両手を前に出して、その話題がそれ以上進まないように、押し返した。

 フィアはニタニタと笑いながらリバティーを見ている。

 だが、そのときのことを一番思い出したのは、やはりリバティーである。

 「イーサー……ベッドいこ……」

 リバティーは、イーサーの腕に絡む。

 その生々しい発言に、一番耳を赤くしたのは、テレビに集中しているはずのグラントであった。話に加わらないつもりであったとしても、聞こえるものは、しっかりと聞こえてしまうようである。

 「……」

 エイルは、いつまでも純情一本のグラントに対しても、少し溜息をつく。

 「はい!お嬢とイーサーの分だよ!」

 ミールが、ピザ二箱と、オプションの詰まっているケース一つ、缶ビールを数本乗せて、ソファーのイーサーの膝の上にまとめておく。

 そのときに、ビールの缶が二つほどバランスが崩れて、床に転がりへこんでしまった。

 「さてっと。ウチ等は、買い物いくか」

 フィアは立ち上がり、隣に座っているグラントの背後にまでゆくと、彼の肩を、一つだけ叩いて、同行を求める。

 「あ~~えっと」

 ミールがイーサー達から、フィアに視線と体を動かした時だった。

 「俺疲れてるから、パス……」

 エイルが、大げさに体を沈めるように椅子に深く凭れた。

 エイルが行かないのならば、ミールはつまらない。

 「っと……」

 ミールが迷ってしまう。行動を起こしかけたのに、エイルが動いてくれないからである。

 「いいよ。グラント居れば、困らないし」

 フィアは、軽く手を振って、グラントを連れて出て行く。

 「あ。ごめんね」

 ミールは手を振りながら、出て行く二人を見送りながら、エイルの横に腰をかけた。

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