第3部 第12話 §4 リラックスタイム
場面は記憶から、再び記憶から現実へと戻る。
「ほら……、リラックスして……」
ローズが掌で、ドライの両目を塞ぎ、彼の視界を暗闇に閉じこめる。だが、その分、彼の目の前にはローズの体温がある。
ドライの目から意識的な緊張が消え、完全にリラックスした状態になると、ローズは衣類を脱ぎ始める。
ドライの聴覚は、正確にそれを捉えていた。
安らぎを感じるこの場所で、愛するローズとの時間は訪れる。
ドライもまたリバティーのよに、これからどうなって行くのか?という、漠然とした不安を抱えていた。
ただ、彼の不安はリバティーのように曇天ではなく、大空の中に微かに浮かびかけた雲のようなものだった。
それに、彼が思う不安は、自分自身に降りかかるものではなく、やはりローズのことやリバティー達の未来のことである。
しかし、それは自分一人で悩むべき問題ではない。それは直ぐにローズが教えてくれる。素肌のローズが、彼に絡む。愛おしいその温もりは、側にあると抱かずにはいられなくなる。
ドライとローズが睦み合いってからしばらく時間が経った頃に、待ち遠しかった食事が漸くリバティー達の手元に届く。
届けられたピザは、Lサイズで八枚。そのほかのポテトやサラダ、チキンなどがてんこ盛りである。
「……、誰がこんなに食べるの?」
ミールは、冷や汗を流す。テーブルの上に並べられた宅配ピザの群れが、壮観な景色を作る。
「パパとママで絶対、二箱消えるし、サラダもチキンも……ビールも……だし……、私も一枚は食べちゃうかなぁ?」
リバティーはけろっとしている。確かに自分達を含めて、消して小食とはいえない。リバティーにそう言われて、何となく納得をするミールだったが、やはり尋常ではない。何しろオプションが無駄に頼まれている。
「俺も一枚くっちゃおっと!」
イーサーが物色し始める。
「まぁ、うちとミールは、併せて一枚となんかあればいいよね……」
と食べそうに思えるフィアがいうが、確かに彼女はイーサーのようにがっつくこともない。
「っと、パパとママに持って行ってあげなくちゃ……」
リバティーはピザのケース二箱と、オプションのケースいくつかとビール数本を積み上げ、二階に行く。
「お嬢~~」
フィアが再び声をかける。
だが、リバティーは忙しそうに、抱えたものを、もって行く。
「あ~あ……」
フィアが少し苦い顔をしながら、リバティーを制止しそこねたことを、後悔する。
「パパ?ママ?」
二階に駆け上がったリバティーは、右腕でどうにか、それらを持ちつつ、扉を押し開ける。
が、その瞬間リバティーは硬直する。
ベッドの上で、体を起こしたドライとそれに身を寄せいているローズがそこにいるのである。営みの最中ではなく、それは一つの行程を経た雰囲気がある。
だが、その二人の状態に問題がある。
シルベスター化したドライとローズが居たのである。
ドライは兎も角、ローズがそのような状態になれることを、誰が予想しただろうか。
しかし、リバティーが言葉を失ったのは、その事実ではなく、
銀色に輝く髪そして、同色のオーラをうっすらと身に纏いながら、銀の瞳を向け、ゆったりと見つめるローズのその美しさである。きめ細やかな肌が包まれたオーラで、神秘的に白く光っているように見える。
そして、ゆっくりとドライが、リバティーを見つめる。
「ご!ごめん!」
動転したリバティーの心臓が、爆発しそうに脈打ち、開けた扉を反射的に閉める。
その表紙に、不安定な右腕の上にあった、ピザとそのオプションメニューのケース、ビールは、床にばらけてしまう。
「あっと!あちゃ~~」
幸い、何かがこぼれてしまったということは、なかった。ただ、ケース類が落ちつきなく、床に落ちた音がする。
「こぉら!」
動転し、尚かつ、散らばったものを集めて、気持ちの整理がつかないままのリバティーを、開けた扉越しから、顔を出し、しかりつけるローズ。
「ノックはしなさいって、いってるでしょ?」
そこには、普段通りのローズが居る。ただ、姿はシーツ一枚を体に巻いただけの状態である。
「ゴメンナサイ!でも、パパもママもおなかが、すいてるんじゃないかなぁって……」
リバティーは、ローズがシルベスター化していることの説明を彼女に問いただすことが出来なかった。
それだけ気が動転してるのであるが、ショックというものは、無かった。
それ以上に、身を寄せ合っている二人の姿が、神秘的で美しく思えたのである。
「アリガト……。夜まで、ドライと二人でゆっくりしていたいの。晩ご飯は……そうね……」
ローズは考え始める。
「後で、買い出し、行ってくるよ!」
下からフィアの声が聞こえる。
「ふふ。頼むわね!んじゃ、ゴメンね……」
ローズは、リバティーの頭をさらりと撫でて、両手でピザ一式を持ち、部屋の中へと戻って行く。
今のローズには、ドライしか映っていないようだ。
今更ながらだが、ローズにもドライにもそういうときがある。二人はいつまでも恋人のようだ。いや、それよりもより深い愛情で結ばれている。
「ふぅ……やれやれ……」
二人が始終そう言う関係を保てることを、リバティーも当然知っていたはずだった。
だが、ローズは、先ほどなど、ソファーの上で疲れを露わにしていたばかりであった。どこからその体力があふれ出てくるのか?と、若干呆れ気味になってしまうのだった。
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