第3部 第12話 §2 ヨークスの我が家へ
― 本編 ―
「久しぶりの我が家ねぇ!」
そう言って、サヴァラスティア家に到着早々、荷物を投げ出して、お馴染みのソファーに身を投げ出したのは、ローズだった。無防備に仰向けの状態で、ばたりと倒れ込むローズ。一安心した顔をしている。
「結局此奴、連れて帰ってきちゃったなぁ……」
イーサーは、頭の上にドラゴンを乗せながら、適当に荷物を転がして、ダイニングテーブルの椅子に座る。
イーサーが座ると、ドラゴンの妖精は、テーブルの上に降り立ち、体を巻いて眠り始める。
エイル達は、到着と同時に、それぞれの精霊をバッグの中から解放する。
ミールのリヴァイアサンなどは、バッグを開くと同時に、勢いよく飛び出し、周囲天井付近上空を、に参集して、開放感を味わっている。
フィアの精霊であるイーフリートのゴン太は、甲高い猿の鳴き声で、いつもの仕打ちに抗議をしてみせるが、フィアは、笑っているだけである。
エイルのイクシオンは、トコトコと歩き始めるが、特に騒がしく歩き回る様子はない。
あまり反応を見せないのは、グラントのバハムートである。
そうしているとまるで置物のようだ。
「リバティ、飯適当に頼んでくれ。冷蔵庫も空っぽだからな……」
ドライは、必要以上に多きな旅行鞄を引きずりながら、自分とローズの部屋に戻り始める。
余談であるが、結局大きな旅行鞄に詰められていた服のほとんどは、着用されることはなかった。使用されたのは、普段着でだけである。
中には、気まぐれだけが詰まっているような状態である。
「はぁい……」
リバティは、面倒くさそうな返事をしながらも、携帯電話をバッグの中から取り出して、アドレスを検索し始める。
「みんな何食べたい?」
リバティの声も少し疲れている。
「なぁんでも……」
「この辺でデリバってるのピザだけじゃん……」
ファイもミールも疲れている。だが、ミールのそれしかないというのは、リバティも十分に知っている。
彼等がぐったりしているのは、なにも旅行の疲れのためだけではない。
季節は夏本番にさしかかっている。ホーリーシティーは、ヨークスと違い少し標高の高い所に位置する街であり、ホーリーシティーにいたときは、あまり感じることはなかったのだが、二週間という時間は、その気温差の変化を彼等に、体を持って知らしめたらしい。
こちらの風土も、ホーリーシティーも、湿度はそれほど高くはない。だが、ヨークスの気温はホーリーシティーよりも高い。三十度を超えてからの二度ほどの気温差は、しっかりと彼等の体にのし掛かっている。
ただ、まだ喘ぐほどの暑さではないのは、確かである。気のゆるみが、尚そう感じさせたのだろう。
「じゃぁ、適当でいいよね……」
リバティは、携帯電話にメモリーされてある、ショップの中から、それを選び出し、電話をかける。
「忙しいよねぇ……、明日はお嬢の入学試験だし、それが済んだと持ったら、こんどはエピオニアだもんねぇ」
フィアが、多忙に思えるスケジュールに、少々溜息がちになっていた。
「あ~そんなのもあったっけ……」
と、当の本人が、何となく思い出すように発言する。
「何いってんの。合格したら、いっぱい手続きあんだからね……」
俯せになったままのローズが、少し掠れた声で、無責任なリバティに対して、今後の予定もまだまだ詰まっていることを、教える。
「じゃぁ、お嬢は合格発表が出るまで、こっちで待機なわけだ?」
エイルが、鋭くそれに対して切り込む。
「え~~~!!」
と声を上げたのは、リバティだけに留まらず、イーサーも体を起こして、丸くした目をエイルに向ける。
「編入の合格発表を見に行かなきゃならないわけだし……」
そう、言葉を付け足すエイル。
「それくらい、飛んであげるわよ……」
ローズは俯せになりながら、面倒くさそうに、彼等の不満と不安を一蹴する。
飛ぶとはつまり、エピオニアから、ヨークスまで瞬間移動するということである。
「良かった。お嬢いないと、つまんないもんなぁ」
誰よりも、安心した声を出したのはイーサーだった。再び椅子にもたれかかり、のんびりとし始める。
「そんなんでいいのか?ホラ、エピオニアの大会っていったら。言ったら最後のチャンスで、凄い選手とかさぁ……」
グラントは、大会にあまり関心を寄せていないようなイーサーの発言に、遠慮しながらも、それを正すよう、求める。
「そりゃ、まぁ……」
グラントにそう言われると、イーサーも何となく大会に意識を傾ける様子を見せる。
「よせよ……、今の此奴は、お嬢のことしか考えられないんだからさ」
エイルがあきらめきったように、溜息を吐きながら、グラントにそれ以上無駄な気配りをさせないようにする。
「全くだね……」
フィアが笑い出す。
「ちぇ……、んなことあるもんか!」
「あるある!」
ミールが追い打ちをかける。確かに、それは図星で、そこにリバティがいると言うことが大事だった。
ピザの注文を終えたリバティが、携帯をテーブルの上に置く。
「ん?」
ローズが、一つの異変に気が付く。
ドライが下りてこない。
いつもならば、ビールの一本でも取りに下りてくるはずである。ローズはそれが気になる。
何気なく、ふらふらしているドライでも、生活のリズムはあるのだ。何もないときは、ほとんどリビングのテーブルに足を投げ出して、椅子に座り、テレビをぼうっと見ている。そうでないときは、二人でのんびりとしている。旅行バッグの中身を丁寧に片付ける質でもない。
「んしょっと……」
ローズは体を重たそうに、ソファーから起きあがり、二階に向かうのだった。
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