第3部 第10話 §6 全員飯抜き
リバティーは、自分が山車にされたことや、危害を加えられかけたことに対する憤慨の気分など、どこかに置き忘れたかのように、まだボンヤリしていた。
「サブジェイ?」
生真面目なセシルのサブジェイへの投げかけ。
彼女が余りルークやブラニーと顔を合わせたくない事は、サブジェイもしっている。ルークに対してのそれは、ブラニーのように心理的なものではなく、その対応の悪さに対する苦手意識のほうがより度合いが強いからだ。ただ、一目はおいている。
「っと、目標も達したわけだし。後は君自身の努力かな……」
サブジェイが、少々不機嫌になっているセシルの視線を躱すようにして、イーサーに話を振る。
それを聞いたイーサーは素直な様子でコクリと首を縦に振るのであった。
イーサーが、貼っていたシールをがすでにその形状をなくし、肉体の戦闘態勢が解除されていることに気が付いた頃には、銀の円錐は、ブレスレットに変化し、彼の左手首に存在していた。
落としていた剣を拾い上げると、再びチョーカーとして彼の首に戻る。
目的を達したということ、それはセシルとの特訓も終わりだと言うことになる。結局のところはルークが姿を現し、カタが付いてしまったのだ。セシルの面目は丸つぶれであるが、彼女はそれぞれに役割があると言うことを、十分認識している。いや、役割という意識については、彼女が最も高いのだろう。
ルークには、剣士を育て上げる才がある。
イーサーに関しては、セシルなりに知らなくてはならないことがあったのだ。完全ではないが、イーサーの資質というものに関して、今回知ることの出来た事実があった。
それはイーサーという存在に対する確信に繋がる一つの出来事であるといっても過言ではないのだろう。
「種子を植えよ……育てよ……良き樹木とせんがために……か」
単純な詩である。ロイホッカーが詠ったものだ。だが、その術をどれだけの人間がどれだけ把握しているだろうか?そのために、何をすべきなのだろうか?ただ、するべき時にすることをする。それだけのことなのである。
だが、それが最も大事なことなのである。そしてそれは、永久に続く。何が良くて何が悪いのか迷い続ける試行錯誤もある。それがどれだけ大変なことなのか。その詩には、それが込められている。
セシルは、クーガシェルに乗り込みサブジェイに送られてゆく、イーサーとリバティーの後ろ姿を見つめ柄、ふとそんな詩を詠んだ。
新しいスキルを身につけ、気分のよいイーサーと、少し安心感の見えたリバティーが戻った。
場面は、ドライの家に戻る。
だが、二人の気分とは相反して、リビングに集まっているエイル達の雰囲気は少し険悪なものがあった。
正確に言うと、険悪な雰囲気を出しているのは、エイルとグラントである。
彼らはエイルの予選を終えて帰ってきているのだ。その事実は、誰もが知っていることである。
だが、問題はその結果である。
「ただいまぁ!っと……あれ?」
イーサーが元気のいい挨拶とともに、リビングに入ったとしても、迎え入れる返事はない。
中でも一番機嫌が悪そうなのは、ローズである。
フィアとミールは、機嫌が悪いというよりも、むしろ口を開けない状況にあるといっていいだろう。
「あんた達、いつまで、だまりこくってる気?」
それは、エイルとグラントに向けられた言葉である。状況としては、テーブルを挟んで、ローズの前に四人が並べられている状況であり、グラントとエイルは、真ん中に座らされている。
「大したことじゃ、ないんだけど……。ん~いや、大したことかもしんないし、なんていうか……」
フィアが苦笑いをしつつ、頬のあたりを掻きながら、事情の説明をしようとする。
「俺とグラントとの考え方の違いだよ。一々言う義務なんてねぇよ。ちゃんと決勝トーナメントに進めてるんだからな」
それに対して、グラントはぐっと唇をかんだまま、何も話そうとしなかった。それは確かにエイルの言うとおり、二人の考え方の相違で、ローズに解決を望む問題ではないかもしれないと、思ったからに他ならない。
ただ理由は、エイルの勝ち方にあるのだ。彼は敗者に対する礼儀を欠いた戦い方をしたのだ。
全力で迎えることと、力を見せつけることは、意味が違うのである。エイルの勝ち方は、まさに後者だった。
「アニキ??」
全く視界に入れてもらえなかったイーサーが、状況の説明を彼に問う。
「あ?ああ。今夜は彼奴等飯抜きだとよ……」
ドライはローズの横に座っていたが、すっと立ち上がり、イーサーとリバティーの肩を抱いて、そこを出よとした。
「違う!全員抜き!」
ローズが一喝と同時に手のひらを、テーブルにたたきつける。テーブルの上にる、調味料が少々びっくりして、カシャリと音を立てる。
「あぁ?!マジか!俺もか?!」
「全員たら、全員!!リバティーもイーサーも!!」
「うっそ~!!」
「え??俺もっすかぁ?」
とばっちりと言えば、とばっちりだ。確かに二人になんの責任があるのだろう?と、問いただされれば、全くない。
「ええい……、ったく。いいじゃねぇか。ガキの喧嘩の一つや二つで、オメェよぉ……」
少々泣きが入りつつ、ドライはローズの横に、背を丸めて、テーブルに手をつき、眉間にしわを寄せて、膝を組んで、座っているローズの機嫌を伺いつつ、顔をのぞき込む。
「ねぇ、どしたの?ねぇ」
リバティーは、一番近くにいる、ミールの肩にすがりつきながら、夕食抜きの危機を回避することを考えている。
「だからね……発端がね……」
「お嬢とイーサーには、関係ないだろ?あくまで、俺とグラントの……」
エイルが、ミールを一睨みしてから、目を閉じる。
「解った!もういい!」
ローズがテーブルを叩いて立ち上がり、部屋から出て行く。
この時点で、誰が原因でそうなっているのか、イーサーとリバティーは、理解する。
「はぁあ……、リバティー。ブラニーんトコでもいって、飯食わせてもらってこい。オメェ等もよ」
ドライはやりきれない様子で、ふらりと立ち上がる。
「パパは?」
「ああ?なんつか……気分じゃねぇ」
ドライもリビングから、出て行く。理由は簡単である。ローズが全員と言えば全員なのだ。それは、自分も含まれているということである。
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