第3部 第9話 §10 前だけを見る
そのころイーサーは、尋常でない汗をかきながら、セシルと対峙していた。
セシルは力の加減こそしているが、絶えずイーサーに危機感を与え続けている。
だが、イーサーのとっている行動としては、光線で生み出された剣を盾にして、セシルの攻撃を防いでいるだけだった。
「あの子の反応速度、かなりあがってるわね」
シェルの中でレイオニーがイーサーの分析をし始めている。だが、それはセシルの求めている結果ではなかった。彼女の求めているのは、もう一つ与えた銀の円錐の使用方法である。イーサーがそれを生み出すのを待っているのである。
「やっぱり実戦経験がないと、力ってのはそう向上するもんじゃないよ。俺なんて、何回ルークさんに殺されかけたか……」
シェルとクーガはオンラインで繋がっている。ため息がちなサブジェイの声がスピーカーから聞こえてくる。
確かにルークは、サブジェイを殺さなかっただけだと言えるのかもしれない。だが逃げずについてきたサブジェイをルークは、随分かわいがっている。無論無愛想なのは変わりない。
「ぼやきは、無視」
レイオニーがずばっと切り捨てる。
「イーサー……」
リバティーは、少しイーサーが解らなくなる。確かに彼の望みはサブジェイのように強くなることだが、物事には憧れて留まって残るものがほとんどである。リバティーには、彼の持つ目標がそんなものの一つでよいのではないのだろうか?と思え始めていた。
苦しそうにセシルに向かって、何度も立ち上がるイーサーの姿は、見るに堪えがたくなり始めていた。イーサーは、天剣に憧れる一男子でよい。それで良いのではないかと思っている。その気持ちが彼の名前を小さく呼ぶ声によくでていた。
レイオニーには、リバティーのその気持ちがよくわかった。
「男の子は、とことん走るときに走っておかないと、昔ばっかりにしがみついちゃうの。ね、サブジェイ」
「ん?あ~……かもな」
何となくさえないサブジェイの返事である。彼にはまだ一つやり残した事がある。ドライをねじ伏せることである。それは複雑な問題が絡み、今は成し得ることが出来ない。
「覚えてる?初めてエッチしたときのこと……」
レイオニーは、マイクの向こうのサブジェイに向かって。意地悪そうな声でそういう。
「な、なんだよ……それ。リバティーの前で、変なこというなよ……」
どもって照れのはいるサブジェイの声。
「それまで、サブジェイ。ドライとパパに勝つまで、初エッチはお預けだぁなんて息巻いてたのよ?」
レイオニーは構わず話し始める。
「だぁから!いいだろう!おま……!」
レイオニーは、小うるさくなりそうな、サブジェイとの通信を一方的にシャットアウトする。
「いいじゃない。辛かったり、寂しかったり、嬉しかったり、楽しいから。そういうのも、感じたりするんじゃない。その分、後でいっぱい彼に甘えればいいんだし。今は、頑張れ!って、応援してあげなよ」
ルークとサブジェイが修行に励む毎日の事は、レイオニーも忘れはしない。疲れ切ったサブジェイが愛おしくて仕方がない時期があった。一晩中彼を抱きしめ癒し続けたこともある。
イーサーは、未だに走り疲れていない様子であった。膝が立たなくなるほどのダメージでも、諦めずに次を望んでいる。
「彼奴、なんであんなに前ばっかりみれるんだろう……」
リバティーにはそれが少し切なかった。忘れ去られているような錯覚に陥るほど、イーサーはセシルしかみていない。
何気なく過ごしてきた夜が殆どだったはずである。
「愛しちゃったんだから、仕方がないよ」
レイオニーは、ぎゅっと腕に絡んでくるリバティーに自分の頬をすり寄せた。
いつの間にか、自分の方だけをみていて欲しくなる。その寂しさに気がついたとき、たまらなく心が締め付けられ、泣き始めてしまう。それに耐えられなくなる。
今のリバティーには、彼がそれほどに熱くなれる理由が解らなかった。
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