第3部 第9話 ホーリーシティー大会 Ⅰ
第3部 第9話 §1 カイゼルズ・レポート 抜粋 8~10
- カイゼルズ・レポート 抜粋8 -
一時暗雲のたれ込めた我がプロジェクトだが、同夜差その危機から脱することが、出来そうである。人体へ伸しシステム導入へのプロセスはどうやら、段階的並列処理をすることで、可能であろうということが確認されたからだ。すべてはマウスの実験でのデータではあるが、その内容は十分に信用の出来る者であるといえる。
だが我々は継続してマウスの観察を行うわけにはゆかない状況を認識することにもなる。なぜなら、システムのすべてを導入し終えたマウスは、危険きわまりない新生物だからだ。
システムに順応できる体細胞を得て、システムの導入を終えた直後、我々はそのマウスを破棄しなければならない。そのために強化壁で覆われた実験ルームの中で、核爆発を行うことになる。元々あらゆる爆発実験に対処するための、部屋だ。その影響は外部には出ないが、このような形で使用することになろうとは、思いもよらなかったことである。
このシステムの利点は欠点でもある。
後天的なシステム故に、条件さえ満たせてしまえばよいのである。我々には対象の選択権がある反面、システムに対する適性検査も行わなければならない。
もう一つの利点。それは、すべての人類に可能性があるということである。好む秩序に変わり果てた世界で生きるための手段ともなりうることである。
システムの制作初期段階では、その成功のみを信じ、邁進してきたが、その完成が間近に迫ると、その将来に対して、考えるべき事柄が、脳内に巡る。自分の中ですら、賛否両論になる。不思議なものである。
- カイゼルズ・レポート 抜粋9 -
我々は実験の完成を目前に、一つの無人した行動に出なければならない。システムに適合した人間型キメラの製造である。サンプルの提供は、首謀者である私となった。
我々はこのキメラに対し、いくつかの処理を施すことになる。それは主に精神的な部分に寄る。好戦的であり向上心があること、曖昧な表現だがピュアであること、人間的な野卑な面、妬みなどの感情抑制などである。
絶えずポジティブな感情思考であることを求めた。なぜなら彼には、システムにおける運動性能のテストを行ってもらわなければならないからである。
そして同時に、成人以上でなければ意味をなさない。少年期への順応性の早さは、我々の求めている一般的適合性への計測を不可能にしてしまうからである。
我々は彼の性格の不安定性を回避するために、数ヶ月で行われるプロセスの一つ一つに倍の時間をかけることにする。一年以上は彼の完成を待たなければならないことになる。
その間に、アルゴリズムをさらに完璧なものに仕上げなければならない。
- カイゼルズ・レポート 抜粋10 -
完成間近の我々にプロジェクトに中止命令が出される。動揺は隠しきれない。理由はメシアプロジェクトの完成である。前記したが、製造されたキメラは二体。いや、偶然にも製造過程で二体になったものだということである。彼らに感情はなく、機械のように命令を遂行する完璧なマシーンであり、人類への危険は一切ないと言われている。まさに完璧なキメラであるといわれている。
つまり我々のプロジェクトや、ルシフェルプロジェクトは、その妨げになるということだ。彼らは我々の生み出したモノを、人類の敵だとみなし、破壊対象とするのである。
我々のプロジェクトの礎になるはずだった、彼はすでに培養液の中から、我々のことを正しく認識しほほえみ始めている。四歳児程度に成長しようとしている。
システムの破棄は、彼の破棄でもある。
私はこのときに、初めて人体を科学的に精製することの罪深さを知る。彼は我々のコントロールにより、自然な成長だと、現在を信じている。無邪気に毎日を夢見ているのである。
ラボの閉鎖直前。私は、密かにシステムのバックアップと、彼への仕様変更、そして私自身をプログラムに転送することを行った。むろん、それは私のコピーであり私自身はやがて朽ち果て死んでゆくだろう。
ラボは自然法規されることになるが、私はシステムを完全に落とさず、ネットワークから隔絶し、培養液内の彼の成長プログラムを変更し、そこを後にする。
何百年後になるかわからないが、コンピュータネットワークが復旧した人類の時代がやってきた頃に、システムが彼を解放するだろう。それが私のせめてもの償いである。
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