第3部 第8話 §12 シード=セガレイ
「一寸用事があったのよ。あの子達はノアーが面倒を見てくれているわ。私も直戻るけど」
ブラニーが簡単な補足説明をした後、ドライ達は再びリビングへと移動する。シード達が訪ねたのは、その後のドライ達の生活が中心であり、瞳から曇りがとれたドライの現在の様子が窺えたからだった。
シードは、その後の自分の経緯も話す。彼がエピオニアを去った後、出来ることを随分考えたこと。その中で医師という道を選んだこと。彼は現在セインドール島の北部に住んでおり、小さな村に住んでいるが、人の出入りが絶えない生活となっている。何故なら彼の魔法医療が高度な物に達しているからである。
元々、彼が二十歳の時には、シンプソンに継ぐ治癒回復魔法のの持ち主であった。その域ではシンプソンの方が譲らないものを持っていると言うことだ。
著名な人間も彼の元を訪れるらしい。
「ところで、彼等は?」
「ん~~あぁ、一寸した経緯でな。今じゃ纏めて家族さ」
ドライが説明を面倒そうにしながらも、それを面倒に思っていない様子で、軽く笑みを浮かべながら、水割りを飲んでいる。
ジャスティンの目の前にも、それがおかれている。いや、その場にいる大人全員におかれている。用意してくれたのは、珍しくリバティーである。彼女はお酒の準備の手際だけはいいようだ。
「あぁ……まぁ、いいや。飲めよ」
ドライが、ジャスティンが水割りに口をつけようとしたときに、一瞬ためらった様子を見せる。リバティーには、それがどうしてかわからない。シードは少々苦笑するが、彼女のそれを止める様子もない。
「ねぇ、パパ。話ししてよ。ジャスティンさんが、私の名前を付けた時のお話」
「そうだなぁ」
ドライは、もう一度さらりとした、その感触を口に含み、一呼吸おく。
それから、自分が以前の部下を庇い、瀕死の重傷を負ったときの話をする。そのときには、すでに、シードとジャスティンが、激しく燃え上がった炎のような急速な恋の最中だったことを冷やかしついでに交えて、ジャスティンが、自分の命の恩人であることを、語る。
「オメェの名前にはよ。自由っていう意味があるんだよ。何にも縛られずに、柵無く……な。だろ?」
ドライがジャスティンに振る。
「ええ。父さんやドライやセシルさんのように、色んな事に縛られずにって」
「ふーん」
ジャスティンがそれを口にすると、重みがあった。自分の名前に重みを感じたのだ。だが、少々ほろ酔い加減になりつつあるようだ、頬の当たりがほんのりと赤みを差して、色っぽくなりつつある。
「あ~~~……」
ドライが少し逃げ腰に張り始める。
「?」
ドライをやりこめられるのは、ローズ以外にないと思っているリバティーには、その珍しい様子の行く先を予想することが出来なかったが。シードだけは、可笑しそうに笑いをこらえ始める。
「さぁ、私はそろそろ、孫達を迎えに行くわ」
「ちょ!まて!」
ドライが珍しくブラニーに縋る様子を見せるが、彼女はあっさりと姿を消してしまう。
「本当によかった、元気そうで……。凄く心配したのよ?」
もうジャスティンの目が潤をもって、ドライを見つめ始めている。
「済みません。ジャスティンお酒に弱いんですよ」
シードが、席を立ち、玄関に向かって歩き始め、同時にリバティーに手招きをする。
「まて!女房だろうが!」
だが、ドライが動きを見せようとした瞬間、真横に座っていたジャスティンが飛びついて、ドライを椅子ごと倒してしまう。
「いいん……ですか?」
リバティーが、シードに気を遣った一言。
「泣きじゃくって、寝ちゃいますから」
シードは穏やかな笑みを浮かべている。そんなシードはシンプソンにそっくりだ。だが、何かが違う。
「僕も混ぜてくれないですか?」
シードが声をかけたのは、エイル中心に剣の訓練をしている、イーサー達だった。
シードとシンプソンの決定的な違いは、戦闘に対する意識である。シードは好戦的な面を持っている。
スーツの上着を脱ぎ、シャツを脱ぐとアンダーウェア姿シードがそこにいた。細身に思える外見とは違い筋肉は隆々としている。
「うお……」
思わず声を上げたのはイーサーである。
「体術ですが、いいですか?」
「上等……」
メラメラと燃えたのはエイルであった。剣を鞘に収め、その場におくと、礼もなしにシードに飛びかかる。彼にはシードのそれが挑発的に見えたに違いない。
シンプソンはそういうことをしない。そう言う部分でいうと、シードは好戦的といえ、彼のノアーの息子と疑いたくなる時がある。
オーディン、サブジェイ、ドーヴァ。いずれにせよ戦士であるよって、戦闘センスが高いことは、言うまでも無いのだが、そのカテゴリーに含まれないと思われる彼でさえ鍛え上げられた肉体を持ち、類い希なる戦闘センスを発揮するのである。そして、それがシルベスターや、クロノアールの血族というものなのだ。
シードの脚舞は、優雅なものだった。両手を大地につき長い足を旋回させたり、高く振り上げられ鋭く降ろされたり、両手は受けに使われる程度で殆ど攻撃には使用されない。それでも、イーサー達は翻弄される。
彼がそういう戦闘スタイルを取るのは、彼の両手が攻撃のためにあるためではないからだ。
ジュリオと違い、彼は自分のポジションをよく理解していた。器用な男なのである。それに満足していないことは、その好戦的な動きで十分理解できる。だが、非常に理解力のある男だ。
これはつまり、体術の稽古というわけだ。
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