第3部 第7話 §12 ヨークス戦 本戦
この日は、市民枠の本戦が行われる日付だ。試合は準決勝第二試合まで行われるた。街ではすでにフェスティバルに盛り上がる。剣術大会の一方はそういう一面を持ち合わせている。
ヨハネスブルグのような、広い国では、地方大会なども、存在するが、ヨークスのような都市国家は、そのまま本戦が決勝大会になる。選手層は自ずと薄くなる。市民行事ではあるが、実力者から見れば、本当にお祭り騒ぎなだけである。そして、その決勝に進んだのは、クラーク=マンセルと、マルコス=ドラモンドの二名である。
クラークは、やはりセントラルカレッジのOBで、去年の勝者でもある。予想がついたといえば、そうなるだろう。そういう組み合わせである。
自由枠は、その翌日が決勝トーナメントである。グラントの晴れ舞台である。そして、賭け事の対象でもある。高額の賞金が用意され、勝者投票券該当者には、配当金がある。方式は連勝単式で行われる。
街中では、大量の軍資金を抱えたローズが、投票権の行列に並んでいたことが、一寸した話題になった。
そんな中、フィアはグラントのバッグの中身をリビングの空きスペースで、まるで出店のように広げて整理している。この作業は別にグラント対してだけという意味ではなく、彼女がよくやることだ。
タオルや、アンダーウェアの替えなどである。そんな彼女の肩には、きっちりゴン太が乗っている。
「ホント……フィアさんて、面倒見いいよねぇ」
リバティーは、反対方向に椅子にまたがり、背もたれに両腕をかけ、だらしなく顎を乗せながらその光景を見ている。フィアのそれには関心痛み入るばかりである。
「ん~、気分の問題……かな?」
そういう作業を全く苦にしない彼女の姿は、ローズにも共通する部分がある。彼女は日に三度以上の大量の食事を苦もなく作り上げている。フィアはそれも手伝っている。最近ではミールも少しばかり手伝い始めている。
「気分ねぇ……」
フィアの服装。彼女は普段、スーツを着崩したスタイルが多い。白を好んで着用している。長身の彼女は、それがよく似合う。街を歩いているそんな姿を見ると、トレーニングウェア姿で、こまめに準備を整える彼女の姿は、少々想像しがたいものもある。
イーサー達と、一通り汗を流し終えたグラントが、リビングに姿を現すと、まずそんなフィアの姿が目に入る。
「悪いなぁ。任せっきりにしちゃって……」
グラントは本当に申し訳なさそうだ。しきりに後頭部を撫でながら、お礼の言葉を探しているが、何時もしっくりいく言葉が見つからずにいる。
「いいって。任せると、なんだか、忘れそうだからね」
フィアは笑ってそういう。どうやら、その範囲内にはエイルも含まれているようだ。卒のなさそうな彼でも、フィアから見ればそう思えるようだ。
珍しくローズが居ない、サヴァラスティア家の昼の出来事の一コマであった。
そして、自由枠決勝トーナメント当日。
街には異様な熱気と興奮が渦巻いている。スタジアムを中心に、ストリート中に出店が広がり、経済に一寸した潤いをもたらしてくれる、商業的なイベントでもある。
スタジアムは、多目的に利用される。コンサートやスポーツイベント、そして剣術大会。青空のしたに、様々な舞台が設置されるのである。観客動員数は五万人を超える実に大きなものである。
街中の交通は一度の厳しい規制が敷かれ、公共交通機関が大幅に増発される。だが、ヨークスの街、いや殆どの都市では、鉄道というものがない。AMCと飛空船による、偏った交通システムの発達のためである。また、都市国家の多いこの世界では、国際法がまだまだ未熟であり、国家間の連携がまだスムーズではない。
そのために世界連盟協議が存在しているのである。
鉄道で尤も有名である都市となれば、広大な国土を誇る、プロージャと、ヨハネスブルグになるだろう。そして、ホーリーシティーとリコをつなぐものがある。
ヨークスでは、路線バスが中心である。近々UG呼ばれる、地下鉄の整備が持ち上がっている。尤も都市部のみと、近隣都市になる予定だ。
近隣都市からヨークスに訪れる人々は、殆どは、市外にある空港から、路線バスを利用することになる。
自由枠の決勝トーナメントが行われる時間より2時間ほど前の早朝、選手控え室にはグラント達の姿があった。
選手控え室はここの選手にあてがわれており、スタッフがそこに集結できるようになっている。
興奮気味の選手達が衝突しないための配慮である。
「えっと……、フィールドに上がれるのは選手一名、そのサイドにスタッフ一名だから……」
エイルが大会規約の一つを読み上げる。
「やっぱり、フィアがいいんじゃない?」
ミールの結論である。
周囲より一つ、気後れしやすい性格であるグラントに対して、あまりプレッシャーを与えないフィアのトーン。そして、行動を縛らない自由さがある。
的確で確実である。
的確さと確実さでは、エイルがより勝っているが、行動に対する結論づけが、強すぎる彼では、グラントの力を生かし切れないケースがある。
「まぁ、殆どサポートなんて、必要ないだろうけどな」
それがエイルの考えだった。勝ち上がってくるのは、間違いなくドレン=クルーガだろう。それでも天剣と呼ばれるドライ=サヴァラスティア・Jrには、遠く及ばない。
機会が与えられさえすれば、自分たちはそれよりも遙かに、強いと証明できる。
「それにしても、一日で一四試合もやるんだから……厳しいよな……」
イーサーは、トーナメントの組み合わせ表を見ながら、グラントの試合時間を見る。
一試合は、一本勝負で二十分。インターバルを含めて一時間にほぼ二試合程度行われることになる。
簡単にいうと、七時間試合に費やされるわけだ。それまでの間は、試合会場に缶詰になっていなくともよい。ただ、無闇に出歩く選手もそういないだろう。午前中に六試合行われ、昼には一時間の休憩がある
決勝は、一試合に一時間かけられる。殆どの試合に決着が付くが、希に判定に持ち込まれるケースもある。そこまで耐えきれば、後はスタミナの問題である。
「さて、そろそろ開会式だな……」
エイルが時間を見ると、グラントはバスタードソードを、片手にぶら下げ、選手控え室を後にする。
出場選手の並び順は試合進行と同じ順番であり、二列に並び、グラントは一番先頭であり、クルーガは、一番最後尾である。つまり、そういうことである。
グラントの横には、銀色のプレートメールを着こなした、面長で凛々しい、鼻筋の通ったブロンドの男が立っている。彼はポニーテールで長髪を纏めている。年齢の頃合いは三十手前だろうか。
エイルの情報では、彼の名前はマシュー=ボガード。出身はヨハネスブルグ。残念ながら自国の自由枠で、出場することが出来なかった。現ヨハネスブルグ城兵団きっての凄腕ということだが、上にはうえがいるということである。
身につけているプレートメールは、魔法防御効果があるということだ。つまり、彼の身体に魔法を当てたとしても、あまり効果が得られないということになる。
選手達は、先導員に導かれ、選手用のメインゲートから、太陽のに仮があぶれる、闘技場に姿を現す。
それと同時に、興奮に満ちた割れんばかりの喝采と歓声が、聴覚を麻痺させるほど激しく、辺り一面に響き渡るのだった。
多目的スタジアムは、大会用に編成され、普段協議に使用されているフィールドにまで、客席が設置されており、中央には20メートル四方の舞台が組まれている。
彼等がメイン通路を歩き、舞台へと昇る階段を歩きその壇上にたどり着くと、二列にだった彼等は、左右に分かれてゆき、横一列に並ぶ。
ドレン=クルーガが隊列の中央に位置することになる。そして彼は、壇上に用意されたもう一つの段へと登り、勇ましく選手宣誓をする。はきはきとした言葉であるが、彼の発言は軍事思想を思わせる独特の語り口調になる。
だがその勇ましさが、より観客の興奮度を高めるものとなる。マイクを通さなくても周囲に響き渡るその大きく低い声が、観客の腹にまで響いたのだろう。
そんな観客の中には、サングラスをかけたドライと、何時も通りのローズの姿があった。残念ながら、スタンドのかなり上部に位置し、ベストポジションとは言い難い。周囲が双眼鏡を持ち出している中。彼等は難なくそれを見ている。
「うちの子、緊張してるんじゃない?」
ローズは、普段接することの出来ない観客の異様なオーラに少々飲まれ気味であるグラントを発見する。だが、あまり心配した表情は浮かべていない。
「心配ねぇよ。根っこはしっかりしてる奴だからな……」
ドライは退屈そうだ。彼が普段人混みでわいた祭りに参加することは、珍しいことだ。
酩酊するものは多いが、それは和ではない。ドライが好む祭り騒ぎの場は、やはり酒場である。陽気に周囲がとけ込み、いつの間にか互いの肩に腕が回っている、そんな雰囲気が好きなのである。
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