第3部 第7話 §2  ラボにて

 レイオニーとサブジェイが、ホーリーシティーに帰り着いてから、数週間が経つ。行われているのは、膨大な情報の解析ばかりだ。だが、話はホーリーシティーのラボに帰り着いた頃に戻る。

 「カイゼルさんのレポートばかりね。彼の開発していたシステムに関するデータは、未だ、暗号化された信号の中……か」

 レイオニーは、ラボで、ただただデータの解析が終わるのを待つばかりだ。椅子にもたれて、ペンの尻で、こめかみの辺りを掻く。

 「カイゼルさんは、イーサー君の父親……なのか?同じ名字だし……」

 サブジェイは、椅子の横に

 「あり得ないわよ。どう見ても最終戦争と呼ばれる時の話だわ。つまりシルベスターやクロノアールが生まれる前ね。おじいちゃんが元気なら、はしゃぎ回ってるわね」

 「じゃ、血縁者……か。じいちゃんは、気持ちは元気だよ。ラボに来られないだけでさ。後でレポートの写しを持って行ってやるさ」

 サブジェイは、トレーに乗せていたコーヒーをレイオニーに渡し、そして自分の分も手に取り、味わい深く深その味を少し口の中に含んだ。

 レイオニーは、それを聞いて微笑む。

 レイオニーが、イーサーの家で行ったのはデータの吸い上げだけである。そのほかの機能などに関しては、一切手を出していない。

 それはやはり、そこがイーサーの家だからである。

 探求心を駆り立てる場所でありながら、それは彼の生活の場なのである。その場所をただの遺跡として、解析することに躊躇いが生じたのである。

 遺跡に関するマニュアルなどは、恐らく、暗号化されたデータが、解析された時点で、明らかになり始めるだろう。レポートは、その一部である。しかも、すべてが読めるわけではない。

 データは細かく分割され、ランダムな位置に格納されている。

 一部の欠損があれば、ファイルの連結は不可能であり、データーとして再生することが出来ない。データの断片の組み合わせを懸命に続けている最中である。

 相当な時間を要しそうだ。ただ、その間はサブジェイとのんびりした時間を過ごせそうである。

 「ココにいても退屈なだけよ?」

 側を離れようとしないサブジェイに対して、レイオニーはクスクスと笑いながら、そういう。

 彼も自分の側にいたいのだと言うことを十分に理解しているのだ。

 サブジェイは、レイオニーのように特殊な頭脳を持っているわけではない。勉強をした範囲では理解できるものもあるが、空気のような自然のものとして扱える訳ではない。レイオニーにはそれが出来る。

 恐らくこの次、同じような体験をした場合レイオニーは難なく対処していってしまうだろう。

 「じゃぁ、久しぶりにルークさんに一揉みしてもらおうかな……」

 「ふふ。『天剣』は、飾り?ルークさんいやがるわよ」

 「大丈夫だよ。ここじゃ、あの人も俺以外やり合う相手がいないんだから」

 サブジェイも軽い笑いを入れながら、歩きながら手を振って、ラボを後にするのだった。

 ルークが嫌がるのは、サブジェイの方が強くなったからに他ならない。ドライと同じように天性の強さを持ち、ルークの元で、地獄のようなトレーニングを積んだサブジェイは、まさに最強の剣士である。

 ただし、シルベスターの力を目覚めさせている訳ではないため、シルベスターモードに入ったドライやオーディンには、到底敵わない。それは、ルークにもドーヴァにも言えることである。

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