第3部 第7話 ヨークス大会 Ⅰ

第3部 第7話 §1  カイゼル・ズレポート 抜粋5~7

 - カイゼルズ・レポート 抜粋5 -

 ウィングシステムの基本に基づき生成された細胞と、一般人の細胞を融合させる実験を行う。予想通り、システムは細胞と融合し、一つの新生物となる。これはあくまでも、ウィングシステムと人体とを連携させるための実験である。この実験がすべてではない。これではキメラの生成と、何ら代わりがない。ウィングシステムの能力を引き出すのは、あくまでもシステム本体であり、融和組織ではない。

 これに、本体の有機組織を連動させるためには、やはり生物実験が必要である。人体実験を行うためには、まだ不確定要素が多い。それに、人間の脳波と連動するためのシステムが未完成である。私達は尤も緻密なこの作業を早く終えなければならない。

 現在スタッフ二人が、システムとの連動プログラムを脳に組み込むアルゴリズムをコーディングしている。このシステムの利点は欠点でもある。後天的に肉体に組み込むことで、先天的欠陥に左右されない反面、システムに関する経験が全くなく、生物はシステムのそれに対して、全く赤子同然の状態だからだ。

 システムと人体の融合と同時に、活用のされていない脳組織に、システムの構造とリファレンスを導入する必要がある。


 ― カイゼルズ・レポート 抜粋6 ―

 コントロールシステムの殆どが完成する。それと同時にウィングシステムの本体も完成を見せる。エネルギーの変換効率は、翼の容積に比例する。完成された翼は、鳥のような羽毛を持つ。羽毛の一つ一つが大気中に溢れるエネルギーを吸収し、翼に蓄えられ、強力なエネルギー波に変換される。

 翼から得られたエネルギーは、体細胞と融合したシステムを通り、あらゆるエネルギーに変換される。

 反重力や、エネルギー光線。体組織の更なる活性化、再生能力の飛躍的な向上。

 まだ理論上の域を脱し切れていない。マウスのテストを行い、システム適合までにどれだけの時間を要するのかを計測することで、ある程度の成果は得られるはずだ。脳波と連動すれば、もはや肉体の一部である。

 そういう意味では、結局我々の行っている新たなプロジェクトも、キメラプロジェクトと何ら変わりがないと言えるのかもしれない。実際そのような批判も、チーム内から聞こえ始める。

 だが決定的に違うことは、形成された人格を持ったものが、力を保持することである。キメラにはその選択肢は与えられていない。我々は、己の理性に従い、システムを得ることが出来るということだ。

 そろそろ、ウィングシステムの膨大な情報のバックアップを外部記憶装置に取っておく必要がある。


 - カイゼルズ・レポート 抜粋7 -

 マウス実験中に、予想だにしない結果が出た。それは我々を愕然とさせるデータである。生命活動の停止である。システム導入の際に、多少の違和感があることは、予想できた。だが、実験用マウスは、発狂し暴れ回り、ショック状態に陥り、心停止してしまったのである。強制的なシステムへの刷り込みが、その原因ではないかとの意見が出るが、どうやら、それだけではないようだ。融合時の肉体の拒絶反応である。細胞レベルでの融合は順調だった。だが、その融合速度に問題があるようだ。単純な見落としだ。細胞間の構成の違いが、同一性物情でありながら、組織が二分化され、本来の機能を維持できなくなるのである。やはり脳に対して、システムが異物でないことを認めさせなければならない。 融合中に免疫抑制作用を促し、精神安定を図る薬物の投与が必要のようだ。

 精神安定に関しては、脳内のβエンドルウィンの分泌を促す刺激プログラムを使用することで、解決できそうだ。

 二分化に関しては、細胞の組み替えを段階的に行うプロセスを踏むべきか、すべての細胞に対して、並列して行うべきか、悩むところである。また、前者に置いては、何段階で行うべきかも十分に検討しなければならない。後者に置いては、命令伝達の正確性を要する。どのみちナノマシンに対する再プログラミングが必要であることは、否めない事実である。

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