第3部 第6話 §17 故郷にて Ⅱ
二人は墓園を出て、ふたたび車で、ヨハネスブルグの街を移動する。
「今度は、ドライとおいでになられてはどうですか?」
「自分の墓にも顔を出さない奴が、セルフィーの墓に来るわけがないだろう」
オーディンは、面倒くさそうに払いのけるドライの様子が何となく目に浮かぶのであった。だが、それをもどかしく思うこともない、仕方のない奴だと思えてしまうのだ。
「お優しい方ですよ。ドライは……」
ニーネは、自分たちの心中を十分に理解してくれる彼の姿が、自然に浮かんだ。面倒くさがっている様子は、それほど変わらないが、すべてを無神経に茶化してしまう男ではないことを知っているつもりだ。
ドライがオーディンの心を傷つけることなどないと、信じているのである。
「そうかな……」
「そうですよ」
自信のなさそうなオーディンに対してニーネは、すっきりとそう言うのである。
「さて、戻るとするか……エピオニアに」
少し疲れた。目を閉じたオーディンの横顔がそう言っている。
オーディンは、一度エピオニアに戻り、次にはヨハネスブルグの隣国であるジパニオスクへと赴くつもりであった。会談の一つは、そのためのものだったのだ。
彼が訪問者となることへの賛同は得られた。
「ジパニオスクが、世界連盟協議に参加してくれれば、すべてが上手く行く。だが、あまり他国と交流を持たぬ国故、慎重に事を進めなければ……」
ドライが大地に、自分の思いに任せない流れがあることを知ったように、オーディンもまた、人の心の中にそれを感じて過ごしていた。
少々疲れている。それがオーディンの本音だが、人が豊かに暮らして行ける世界を作りたい、それもまたオーディンの想いでもある。何が正しくて、何が間違っているかは解らない。
オーディンは少し苦みを含んだ笑みを浮かべて、ニーネに微笑みかける。やらなければならないことは、まだまだ沢山あるのだ。
ニーネは、そんなオーディンの額を軽く撫でて、彼の労をねぎらう。
だが、それは彼の表面でうごめいている人間的な悩みであり、自分たちの行く末と比べると、それほど複雑な問題でもない。
やがて、車は空港に向かう。
ヨハネスブルグの空港は、世界でも有数の広さと設備を誇っている。世界の三大拠点と呼ばれる一つである。
残りの二つホーリーシティーと、プロージャである。新榮であるヨークス、聖都と呼ばれるエピオニアの規模は、単一都市という条件もあり、もう少し小さなものになる。プロージャと呼ばれる国の空港も規模は大きいが三大都市には及ばない。
空港には十数艇の飛空船が見える。広い国土をつなぐため、国内線も実に多い。
飛空船のモデルは、海を行く帆船が基本になっている。ただし帆がない。
オーディン達の艇は、数人乗りで、白く美しい。金の装飾がいくらか施されている。その周囲を護衛船団が囲んで停泊している。
オーディンとニーネを乗せた車は、護衛車両に挟まれ、港内入り、直接艇に向かう。
オーディン達の乗り込む、白い艇の横には、小さく剣のような紋章が入っている。これはエピオニアの紋章である。ホーリーシティーの艇ならばは、六芒星が刻まれている。
車から降りると、広大な敷地に強い風が吹いている。車から降りたニーネが、吹き散らされそうな風に、前髪を抑え、目を細め、それに耐える。
やがて二人は、艇に乗り込むためのタラップを上り始め、オーディンは乗り込む直前に、後ろを振り返り、少々高い位置から見渡せる、遠方のヨハネスブルグの市街地を見つめた。
「セルフィー……、また来るよ」
オーディンは、再び前を向き、ニーネと共にが艇に乗り込む。その数分後、ゆっくりと大地から離れ、上空に上がり始めるのだった。
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