第3部 第6話 §15 大会に向けて
それは睡眠を取る間際まで続いていた。
ベッドに横たわるイーサーの左胸には、クッキリと太さ五ミリ程度の腫れが、まっすぐ縦に走っている。そして血が滲んでいる。背中には広範囲の鬱血が見られる。
リバティーは、胸に傷を指先で撫でながら、そこに治癒の魔法をかけている。
素肌のスキンシップにすっかり愛着を感じている日々が続く中、イーサーは、ぼうっと天井を見つめる時間が続く。
「俺もなんか、考えなきゃなぁ~、大会規則として、魔法単独は使えないし……、今の俺の魔力じゃ大した技は使えないし。今日のアイツ、攻めにくかったし……」
イーサーが、イヤに慎重になり、ヒットアンドウェイを繰り返していたのは、そのためだった。
考えごとをしながらも、自分の胸を治療してくれているリバティーの頭を撫でる手が休まず動いている。
「頭悪いんだから、色々考えても仕方がないじゃん……」
言われてしまえばそうなのだが、真剣に考えるくらいの、頭は持っているつもりだ。ため息がちなリバティーの言葉に、さすがのイーサーも頭に来て、ムウッとした顔をして、リバティーに反論しようとするが、彼を見ているリバティーの視線は別のものを訴えている。
「リラックスしたほうが、閃くかもしれないよ?」
ことその視線の意味に関しては、よく理解できるイーサーだった。彼女が何を望んでいるのかを把握すると、文句の一言もなくなってしまう。
彼女に夢中になるまで数分と掛からない。また彼女の意識が最初にフェイドアウトするほど真っ白になるにも、十分とかからない。
充実感を感じ、互いに息吹を分かちあった一時を過ごし終えつつあるイーサーは、リバティーを抱き伏せたまま、ゆったりと彼女を愛し、次の息吹を彼女の中に吹き込む。
「お嬢……愛してる……」
リバティーの言うように、彼女を十分愛した直後、イーサーの脳内にアルファー波が広がり始める。心地よい脱力感、感じる温もり。リバティーの両腕もしっかりとイー差を引き寄せたまま、彼を離そうとしない。
リバティーは自分を抱き伏せる彼の両足に、自分の両足を絡め、強く背を抱く。
イーサーのその言葉は感情的で厚みがない。だが、何より素直なその一言が心に響く。彼の重みが側にあることが何よりほっとする。
「大好きだよ……イーサー……」
そのときにリバティーが思い出すのは、ジュリオと向かい合ったイーサーの姿だった。
何度ジュリオに倒されたことだろうか。それでも自分の防御壁となるために、彼は立ち上がった。その心がうれしかった。彼以上に自分の単純さを思いながらも、一月と、時間を共に過ごしていない自分のことだけを考えてくれる彼がいたことに、満足している。
普段は、全くの唐変木に思えるほど、気持ちを察してくれないことを思い出すと、不意におかしく思えた。もう少し周囲の気持ちも察してやれば、いい男だと思ってしまう。肩でクスクスと笑うリバティー。
「ん?お嬢?なんだよ……笑いだしてさ」
「ん~ん、なんでもないよ。寝よ」
リバティーはもう一度イーサーの背中をギュッと抱きしめ、お休みのキスをする。
大会の予選が行われるまでの数日、グラントを中心にイーサー達の特訓はさらに熱が入るものとなる。大会に出場しないフィアとミールだが、彼らに刺激されていることは確かで、それぞれ表情が引き締まっている。
部内ではやはり浮いている存在であるが。声は一段と大きい。
推薦状を巡ってイーサー達の間に溝が出来ることを望んでいたマルコスだが、どうやらその思惑は外れたようだ。大会間近に迫っているグラントのサポートに他のメンバーが回っている。
大学に侵入?した、リバティーもイーサー達に付き合っている。尤も彼らの様子を見ながら、棒きれでシャドーをしてみたり、息抜きがてらに、イーサー達に軽いトレーニングを受けているだけのようだが、それでも少しずつ様になりつつある。
こっそりミールの剣を持たせてもらうが、それでも重さにふらついてしまう。
「ヘヘヘ。お嬢は腕立て伏せからだね!」
ミールは笑っている。リバティーがふくれっ面をすると、そこに笑いが起こる。
その日の午後、イーサー達が家に帰り着くと、サヴァラスティア家の庭に、照明灯が設置されていた。夜でも訓練が出来るようにだ。幾度かスイッチを入れたり切ったりするドライの姿があった。
「よぉ。ガキ共……早かったな……」
ドライは、ライトを眺める。
「すっげ!めちゃ本格的じゃん!」
イーサーが、ナイター設備のためのライトを見上げて、興奮し出す。
「お前等、朝早いだろ?夜も体力有り余ってるみたいだしな」
ドライはイーサーとエイルをチラリと見て、意味ありげな笑みを浮かべる。身に覚えのある四人が、少しだけ顔を赤くして、照れてドライから視線をはずす。
「お嬢が大きい声出すすぎじゃない?」
「ミールさんの声が高いから、パパに筒抜けなんだよ……」
二人がぼそぼそと話す。
「二人の部屋に挟まれてる私には、両方とも筒抜けだよ……」
フィアが、ぼそりと、
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