第3部 第6話 §14 グラビティーソード Ⅱ
イーサーは、すぐに腰を抜かして座り込んでしまうが、負けた方のグラントは、まだ体力に裕りがある。
「まぁ、あれだけ足場を揺さぶられたら、つらいわね」
イーサーが感覚的に優れているものを持っていることは、もう解っていたことだ。普段落ち着きのなさそうな彼が、集中をしているときは、相手の動向や癖などを実によく見ている事が解る。意外な一面である。
「うち等も……なんか、まけらんないね……」
フィアが密かに闘志を見せると、ミールもこくりと頷く。
「ゴメン……、イメージしてたよりずっと、扱いが難しかった」
グラントは、タンクトップの破けた部分から見える、イーサーの左胸をまっすぐ縦に走るミミズ腫れに対して、少々オドオドとする。
「いってぇー……。お前何したんだよ……」
「重力場を極端に細く絞ったんだ。刃物のように……。まだ力のコントロールが上手い具合に出来ないから、もっと分散されると思ったんだけど……」
グラントは、発生する力場の範囲を絞るとを、ずっとイメージしていたのだった。
至近距離から放つことことで、刃先よりもう少し長い距離に攻撃が届く。そして、極端な重力変化に晒された物体が、それに耐えきれず、引きちぎられたのである。
「自分を過小評価しすぎだよ……お前は……」
エイルは、少しやりすぎたグラントに対して、厳しい顔をしながらも、彼の肩を二度ほど叩く。
もし彼の性格が勝ち気ならば、傷つけることはあったとしても、事故は起こらないだろう。彼の力がもう少し整ったものならば、恐らくイーサーは今より酷い怪我をしていたに違いない。
「でも、これで一寸は、大会に向けて気合入るよな……、俺もお前も……」
イーサーは、痛がりながらも、笑みを作る。
爽快感が会ったわけではない。だが何となくお互いが友達でありライバルであるということを、意識する二人だった。互いに別々の大会に出るのだから、その先にある代表選手権まで、負けなないという意気込みが自然と生まれる。そこでもう一度対戦だ。
「その前に、ちゃんと自分を磨いておかないとな」
エイルもまた、自分の剣の能力を考え始めていた。
そして、もしフィアのように精霊を得ることが出来れば、グラントの攻撃は今のようなものではとどまらないだろうと考えた。イーサーの肉は確実に引き裂かれていただろう。重力による揺さぶりも、恐らく今の比で無くなるはずだ。
そして、エイルはシルベスターが言っていた一言を思い出す。
力を得ることと力を使いこなす事は、全く別次元のことであると。イーサーが勝負に勝ったのは、まさにそうである。
日が沈む。勝負に決着が付くのを待っていたかのようだ。
食事中になると、イーサーとグラントは、再び口を利かなくなる。だが、先ほどの苛ついた雰囲気はない。お互い思うところがあるのだろう。二人とも口元よりも、脳内の活動の方が活発になっていた。
イーサーは、背中と胸に走る痛みと、肉が引きずり出されそうになった違和感を反芻しながら、何度もその状況をイメージする。
グラントも、技と向かい合っていた。実戦に向いている技であると同時に、コントロールを誤れば、ルールに則った試合でも、相手を殺しかねない技である事に気が付いたのだ。現段階では、試合では使えない。
それは彼の性格上、致命的な弱点である。クリーンな勝ち方を求めているのだ。
大会中どれだけの実力者が出てくるか、それはわからないが、もし、代表選手権でイーサー達と当たることになれば、ダメージを与え、動きを封じ込め、且つ負けを認めさせなければならない。
そうでなければ、先ほどのような結果になってしまう。
それに思った以上に精神的疲労感を感じていた。重力を操ると言うことは、他の魔法と違い、エネルギーの消費が激しいのだ。
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