第3部 第6話 §5 勝負は時の運
その少し前の出来事、サブジェイ達は、一度ホーリーシティーの戻るという。イーサーの家から取り出したデータの解析があるためだった。リバティーは、サブジェイの手からイーサーの家の鍵を預かる。
「ごめんな、俺、兄貴なのに、全然話してやれなかったな……」
「ん~ん。いいよ。夏休みにみんなで遊びに行くね」
サブジェイの瞳は、ドライと同じ色をしている。表情に柔らかみがある。二人は、互いの存在を確認するようにしっかりと握手をする。
がっちりとしたサブジェイの手は、逞しく強く鍛え上げられた男の手である。レイオニーはその手に守られているに違いない。その手はリバティーをほっとさせる手だった。
「じゃ、遊びに来いよ。多分夏中は、レイオと分析で動けなくなるから、必ず家にいる」
サブジェイは、クーガに乗り込み、レイオニーは、シェルの方に乗り込むみ、二人の準備が整い、サブジェイはリバティーに手を振り、クーガのシールドをしめ、走り始めるのだった。
あっという間に小さくなるクーガ。当分はあえないだろう。少し寂しく思えてしまう。
「貴方も、握手。仲直り……かな?」
リバティーが次に手を差し出したのはジュリオである。
忌み嫌われることを覚悟で行った行為に対してリバティーはそう返してきた。彼女は強制的に自分の気持ちを切り替えるために、そうしてきたのだ。理由はともあれ許せないものはあるが、それを胸の中にため込んでも、醜い偏った自分の気持ちだけが膨らむだけだ。イーサーとのいがみ合いの時に、それはもう理解している。彼を許すことで、そう言う自分を切り捨てようとしているのだ。
思いもよらない行動に、少々大人になったような気がする我が娘を、ドライは、少し驚いた様子で見ているが、ジュリオはそれ以上に驚いている。そして、照れくさそうに手を差し出すのだった。
握られたジュリオの手は、サブジェイと全く異なっていた。
今にも悲鳴を上げそうにいじめ抜かれたジュリオの手には悲壮感がある。一見すれば鍛え上げられているように見えるが、その手にはすでに限界が訪れているのがよくわかる。
イーサーの手はそれに比べて未熟さはあるが、ジュリオのように苦痛で悲鳴を上げていない。
剣士としての限界。それはジュリオの悲鳴でもある。リバティーはそっと手を離す。まるでそれ以上彼の手が壊れるのを恐れているかのようだった。
「さぁ、色々してたいけど、エピオニアに戻るよ。これでも女王の護衛三剣士だからね」
ジュリオは地面を蹴ると、あっという間に飛び去ってしまうのだった。
「アイツ……速いな……」
ドライは、その切れ味のある飛び去り方に、彼の非凡さを感じずには、いられなかった。
その間、イーサー達の間で、短いやりとりが交わされる。
「すまん……」
まずエイルが謝る。だが、結局その決断はエイルだからこそ下せたに違いないと、誰もが思う。確かに抜け駆けになるが、エイルを責める気になれない。
「なんで、黙ってたんだよ。旅費くらいどうにか……」
「ならないならない……学童支援金と、孤児支援金は、殆ど学費に消えちゃうんだし」
フィアが、イーサーの頭をグリグリと撫でる。相変わらず何も考えてなさそうなその軽い頭を、落ち着かせようとしている。
「そう言えば、ココでの賃金て、いくらなんだろう。少しは手伝ってるんだし……」
グラントが現実的な話を思い出す。確かにドライ達は、労働に対する賃金は払うといっていたのだ。ここ数日は確かに家族気分で、好きなように寝起きをしている。
それは、ローズがそれに対して非常に温かい心で向かい入れているからである。それがあまりに心地よすぎるのである。
「とにかく……ゴメン」
エイルは、謝ってもまだ納得できない様子だった。だが、大会に対する気持ちには変えられないのである。
「水くせぇなぁ。俺はてっきり、みんなで来年だ!って思ってたし……ま、いいか」
「私は辞退……かなぁ。ゴン太をもう一寸使いこなさないとだめだし。おいしい話だけど……」
フィアは、背もたれにもたれかかりながら、割とすっぱり諦めムードを漂わせる。
もし、今、自分がそれに対する争奪戦をしたところで、剣の助力抜きでは、競いきれないものがあると感じていた。ただ彼女が感じていたのは、ジュリオとの戦闘の時に感じた、戦闘スタイルを変えることはないという、一つのヒントを得たことである。剣の重さとバランスに馴れるだけだ。思う以上に指先にしっくり来ているのである。
「あれ?そういえば、ゴン太……どこいったんだろう……」
フィアは、不意にイーフリートのことを思い出す。剣の状態以外の時は、生物と活動している。何処かに散歩にでも出かけているようだ。
フィアは席を外すし、まず部屋の方を探すために、階段を上って行く。
チケットの行方は、イーサーとグラントとミールに絞られる。
「んじゃ、ぱっと……決めるか?」
「う~~…………」
ミールが唸る。現実問題として、イーサーと彼女では剣技では、競えないものがあった。明らかな体格差がその原因である。尤も戦い方は、いくらでもある。
剣技大会のルールは、魔法のみの攻撃は禁止されている、剣に纏わる攻撃方法でなければならないのである。
エンチャントなどは、剣を使用しているために、許可となる。ミールは確かにその手の攻撃は得意だが、実戦ではイーサーに勝てたことはない。
それはグラントも同じである。エイルが漸く、イーサーと互角に渡り合えるのである。
「んじゃ、ジャンケン?」
イーサーが簡単に握り拳をつくって、降っている。
「まてよ!そんなので決めてもいいのかよ!」
相変わらずのイーサーの軽さに、すでに辞退をしているエイルがたまらずそれを制止する。
「勝負はそのとき次第!運も実力のうちだって!エイルが出るってなら、俺も譲れないぜ!」
イーサーは楽しそうだ。だが、これはフェアなチャンスである。
「よし!」
グラントも立ち上がり、ミールもその勢いに呑まれて、三つどもえになる。
「負けないからね!最初はグー!!ジャンケンホイ!!」
一発勝負。イーサーがグーを出す。ミールもグラントもチョキを出してしまう。そして、そのままガッツポーズを作り、腕を天に突き上げて、拳を振るわせて、感動に浸る。
「うっしゃぁぁぁぁ!!」
「なんでよ!あんた、いつもパー出すじゃん!!」
イーサーは、力んだまま拳を作ったままなのだ。ミールは信じられない出来事に、半泣きになっている。
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