第3部 第6話 舞台への道のり

第3部 第6話 §1 カイゼルズ・レポート 抜粋 1~4

 ― カイゼルズ・レポート 抜粋1 ―

 私は今までのコンセプトとは異なるアプローチを取ることにした。今までの研究者は、エネルギー内在型を中心とした研究を行ってきたが、エネルギー内在型の最大の弱点は、個体によりエネルギー保有最大値が、定められていることである。また初期に与えられた遺伝子情報により、同種類の個体でもその能力値の差が著しく、予想だにしない結果を生み出すことがある。メシアプロジェクトがその良い例である。細胞分裂の過程で、個体が二分してしまったのだ。現段階調整を続けているが、もはや、結果の予測は不可能である。


 ― カイゼルズ・レポート 抜粋2 ―

 私の理論が正しければ、私の研究はすでに完成した個体の構造を劇的に変化させ、個体差に左右されない結果を得られるだろう。厳密に言えば個体に更なる能力を追加することになるため、個体差に影響されないという言葉には語弊がある。ただし予想値を大きく下回る結果にならないことだけは、間違いのないだろう。我々のエンジェルプロジェクト発足の時が来た。メシアプロジェクトから一年の後れを取っている。


 ― カイゼルズ・レポート 抜粋3 ―

 メシアプロジェクトと平行して行われていたプロジェクトがもう一つあることの報告を私は受ける。以前にも述べたことだが、エネルギー内在型には、そのキャパシティーに限界がある。メシアプロジェクトには、人間の細胞を用いたキメラを使用している。外観は人間だが、その知能はそれを大きく上回っている。尤も、その個体能力も人とは比べものにならない、個体も多次元多層構造体により、一時物理攻撃に対し極端に損傷の受けづらいものとなっている。実に大したものだ。恐らく、エネルギー内在型としては、まさに技術の粋である。

 平行進められているプロジェクト名は、ルシフェルプロジェクト。恐らくメシアプロジェクトとの対局を意味しているのだろうが、酷い冗談だ。


 ― カイゼルズ・レポート 抜粋4 ―

 一年は早いものだ。ウィングシステムの基礎が完成する。どのプロジェクトにも共通していることだが、ナノマシーンの存在は、不可欠で不可避である。皮肉なものだが、このシステムのために、まさに人類、いやすべての生物は絶滅しようとしている。そのシステムにより我々は、残された地上の人類を救おうとしているのだ。地下数数百メートルに建設された研究所内では、それがまるで嘘のようだが、事実である我々はそれを受け止めなくてはならない。食料も水もリサイクルプラントですべて得られるのだから、命の別状もない。現状なら、我々は十分に生きながらえることが出来るだろう。だが、やはり我々には、大地の温もりや、眩しい日差し、透き通った空気が必要なのだろう。誰もがそれが恋しいと、呟いている。早くそれを取り戻さなければならない。残された人類のために。

 

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