第3部 第5話 §12 新しい武器

 その週の金曜日のことだ。

 エイル達が通う大学の講義はない。だが、イーサーは居ない。リバティーを迎えに行っているためだ。

 その間、ドライは畑に出ている。そして、周囲には、耕耘機が持ち出されているのが見える。

 イーサー達を見ているのは、ドーヴァである。

 ドライよりはきめの細かい指導をしてくれる。動作に一つ一つのチェックがはいる。エイルは、ローズの剣ではなく、セシルが仮に作った剣を持っている。彼なりに、色々と試しているようだ。レッドスナイパーは手に馴染まなかったらしい。

 「はぁ……疲れた……」

 表にフラフラと顔を出したのはセシルである。さすがに疲労困憊のようだ。片手には、麻の袋を持っている

 「お?天照様が出てきよったで」

 ドーヴァがそれに気がつく。一度指導をやめ、愛妻の元へ小走りに駆け寄る。

 「お疲れ様やな」

 「ドーヴァ……怪我は?」

 「ん、まぁ姉御の手荒い看護のおかげでな、普通には動かせるけど、一度シードのところにいくわ。神経がやられとるさかいに……」

 セシルは、トランス状態でもある程度の情報を得ているようだ。それ自体は、二人の間では、驚くことではない。当たり前のように会話を交わしている。

 「ねぇねぇ!新しい剣!できたんでしょ?!」

 そんなことにはお構いなしに、はしゃいでいるのは、フィアとミールである。ドーヴァの後ろから、ドット押し寄せる。

 「そうね」

 と、セシルは、その場にしゃがみ込み、麻の袋から、先日出来た、円錐を取り出す。

 「これが、フィアちゃんので、エイル君の……、グラント君のと、ミールちゃんのね……」

 セシルは、ごろごろとそれを並べながら、次々に指を指して行く。

 全く武器の形をしていないそれらに、ドーヴァ以外の一同は、目が点になっている。

 ローズは、室内から、テレビを見つつそんな彼らの様子を静観している。

 「それぞれ、手に取ってくれる?」

 セシルは、疲れているため、無駄な話はせずに、指示だけをする。それぞれ言われるままに、銀色の円錐を手にするのだった。

 すると、それらは、急激に形を変え始めるのだった。彼らは各あわてる様子を見せるが、手にした部分がちょうど、グリップになるため、それを落としたりすることはなかった。剣の色合いは、それぞれ銀であり、それ以外の色はない。装飾品もすべて銀色である。

 フィアの剣は、確かに細いが、レイピアではなかった。つまり、あの自由な攻撃方法が不可能であるということだ。彼女は自分の想像とは異なったそれにとまどってしまう。細身のロングソードである。

 そして、エイルの剣もそうだった。彼は、グレートソードを使っていた。だが、その剣は、普通のロングソードより、少々長めというだけで、個性的な特徴はない。

 ミールの剣は、ロングソードだが、刃の胴が削られ薄目になっている、その分重量が軽い。削り方も、アールがついていて、刃が対象に引っかかることはない。グラントはバスタードソードである。

 剣の長さから言えば、グラントのものが一番長く厚みもある。続いてエイル、フィア、ミールである。重量もほぼその順である。

 そして、それぞれには、もう一つ特徴があり、柄の部分に透明の丸い球体が埋め込まれている。

 「後は、テーブルの上のノートを読んでちょうだい」

 そういうと、セシルは座り込んで、そのまま真後ろに倒れ、深い眠りについてしまう。

 「気合、はいっとったんやな……」

 ドーヴァは、クスリと一つ笑う。


 自分の望んでいた武器とは、全く装うが異なった二人は大あわてだ。何故なら、それが本当に正しいのならば、今まで自分たちが各の武器に基づいて、訓練を積んできたものが無駄になるのだ。

 「姉御!セシルさんのノート!」

 「ん?ああ、そこ」

 ローズは、テレビを見ながら、軽くそれを指さす。バタバタと騒がしい彼らだった。

 それに一番最初に到着したのは、フィアである。ノートの文頭には、それぞれの名前が、ページ順に入っている。まず名前が入っているのエイル、そしてフィア、グラント、ミールの順番である。アルファベット順のようだ。

 「取説なのか?」

 エイルが、思わずそんなことを口にしてしまうのだった。フィアの横から、強引に覗き込んでいる。グラントとミールは、興味がないわけではないが、各の戦闘スタイルが変わるわけではないので、気持ちの差分、二人から遠くの位置から見ることになる。

 フィアが読み始める。

 「まず……、彼女には、炎の守護精霊を持つ資格があり、剣には、守護精霊を留めるためのクリスタルが埋め込まれており……、炎の力を得ることにより、さらなる破壊力が得られるだろう。精霊はすでに、出現しており、私は彼女にその運命を感じずにはいられない。守護精霊の取り込み方については、エイル=フォールマン参照のこと」

 「え?これだけ?」

 「俺は、どうなってる?」

 「え……えっと。彼には、風の守護精霊を持つ資格があり……っと、この辺りは同じかな……。彼の守護精霊は、まだ現れてはいない。推薦人として、召還師ノアー=セガレイを挙げよう。よき風の精霊を導いてくれるだろう。守護精霊の取り込み方法は、実体化した精霊に水晶を向け、自分を守護するよう、強く願うことである。これは他の者にも共通する事項である。なお、精霊が不在の場合、それぞれの剣に、魔力を送ることにより、剣はそれ同等の力を得られるが、エネルギー消費が激しいため、多用は禁物である。魔力のキャパーシティー、コンディションにも左右されるため、具体的な持続時間は、自ら確かめてほしい。尚、鞘の方は、私の部屋にあるので、全員に分配してほしい」

 フィアはこのあと、ページをめくり、グラントとミールを見るが、グラントは大地、ミールは、水といった具合だ。それ以外の文面に変化は見られない。

 戦闘スタイルの変化などについては、何もかかれていない。

 「お前……、スタンダードに戻した方がいいな……」

 と、エイルは、フィアにいう。ショックという色合いではないが、なんと言うことだろうと、げっそりとしたフィアがいる。こんな彼女は珍しい。

 「アンタもじゃないの?」

 フィアが、言い返すと、エイルも肩をがくりと落とす。互いに築き上げてきた戦闘スタイルが、無に帰ってしまうのだと思うと、力が抜けてくる。

 「まぁ、セシルがいうんだもの……、あんた達もう一皮むけるわよ……きっと……」

 ローズは、心配なげに、テレビをダラダラと見続けながら、片手で彼らの感情をあしらう。その手は明らかに、外へと追い払う仕草である。

 百聞は一見にしかずか?確かめてみなければならないのだろう。

 「おい……フィア」

 グラントが、家の片隅に放置されているイーフリートの炎を指さす。

 「あ……そか……」

 フィアは、細身のロングソードをイーフリートの灯火に近づけ、守護するというよりも、自分が力を必要としているという事を念じ始める。皆が息をのむ瞬間だ。

 どうなるのだろう?と、それ以上以下の感情が見つからない。結果が解らないのだから、それは当然なのかもしれない。

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