第3部 第4話 §16 適性検査 Ⅰ
食事が終わる頃には、テーブルの上の食器には殆ど何も残らない状態になっている。多少の好き嫌いはあるようだが……。
「で、兄さんに剣を折られた子達は?」
食後のコーヒーを飲みつつ、セシルが話の本題に入る。
「ああ、イーサーと、エイルだ」
ドライもコーヒーを飲みつつ、同じように一服している、イーサーとエイルを順に指さして行く。
「ふ~ん……、話はオーディンからきいてるけど、君たち災難だったわね」
「いや、いいんだ。お陰で天剣にも会えたし!」
イーサーは、ご機嫌な様子で、ドライに成り代わって頭を下げるセシルの気遣いに照れてしまう。
「全く迷惑だよ……」
だが、エイルはわざわざ憎まれ口を叩くのである。
セシルも色々、風変わりな人間に出会っている。生意気なエイルの言動に、あまり驚く様子もなかったが、一応の視線をドライに送ってみると、ドライは、イマイチ機嫌の悪いままのエイルを指すように、仕方がないといった笑みを浮かべて、視線をセシルに返すのだった。
「所で兄さん、あれ……気になってたんだけど……」
セシルは、ソファーの右後方に描かれた魔法陣の上に結界で保護されたイーフリートの残り火を指す。
「あぁ、この街で起こった魔物事件の張本人だよ。尤も仕掛けた奴は、不明だけどな……、今は此奴の所有物だ」
今度はフィアを指す。
すると、フィアは自慢げにへへへ……と、笑みを浮かべるのだった。
セシルは、スクリと席から立ち上がると、ゆっくりと、イーフリートの残り火の前まで足を進め、炎を保護している結界をじっと見つめる。
「芸術的な結界ね……同一空間に存在しながらこれほど安定していて、炎が生み出すエネルギーを結界に還元しながら、半永久的に状態を保持出来るようになっている。尚かつ必要なエネルギーが供給出来るための、フィルターの役割も果たしている。全てが均等に仕上がっているし……荒さがない……」
「ああ、ブラニーの奴だよ……」
セシルの話からはオーディンのことばかりが出てきていた。恐らく彼女が来ていたことも知らないだろう。ドライのその一言に、彼女は鋭い反応をする。背筋がぴくりと動くのである。
「そう……流石だわ。大魔導師……」
二人の感情的な蟠りは、未だに残っている。時折ブラニーがからかうのだから、余計にそうなるのだろう。だが、互いの実力は認め合っている。
経緯は判らないが、残っているそれをこのまま捨ててしまうのは、確かに勿体ない。
「それに、良い魔力だわ。力強い炎の力。良い資質を持っているわね。あなた?」
セシルの口調が随分変わっている。見つめるエメラルドの瞳を持つ目元が、きりっと引き締まっている。生真面目な彼女の一面である。一切の妥協を許さない雰囲気がある。ドライとは全く対照的だ。
そんなセシルの視線が捕らえたのは、フィアである。
それと同時に、見慣れない顔を一通り見渡す。その中にリバティーも含まれている。だがイーサーに視線が移ったときに、眉間に皺を寄せたセシルが少々首を捻る。何かが納得できない様子である。
彼等を見渡すセシルの表情は非常に厳しい。己の技に命を注ぐ職人のような眼差しだった。
ドライはその様子を見逃さない。
しかし、その場でセシルが言うことは何もなかった。彼女の目が再び穏やかな日常のものに戻る。
「いいわ……。君たち、良い資質を持ってるし。面倒を見てあげるわ」
セシルは、目の前にいるイーサー達を少し見渡して、にこりと微笑むのだった。
叫びそうな大きな口を開いて、それを両手で覆ったのはミールだった。フィアも嬉しさに死す時がムズムズとする。
「でも、適性検査があるの。準備に時間がいるから、それまでは自由にしてて」
セシルの一言で、テーブルの上が空けられる。片づけるのは女性陣だったが、フィアだけは呼び止められる。
「貴女は面白いアイテムを持ってるから、手始めにやらせてもらうわ」
セシルが、フィアを見据えながらテーブルを一撫ですると、茶色い木目調の天板が、真っ白になり、古代文字が細かく書き込まれた半径30センチ程度の魔法円が現れる。
そしてセシルがその魔法円の中心に手を翳すと、銀で出来た底辺半径二センチ、高さ三センチの円錐が、頂点を下に向けて浮かび上がる。
「あの適正、長いのよねぇ……」
彼等からはずれて、小さなテーブルに座っているサブジェイとレイオニー。そのレイオニーがため息をつきながらぼそっと呟くのだった。
「お前の場合は、二つあったし。そのベクトルが逆だったからだろ?普通は一つだって……セシルさんいってるし……」
「そうなんだけど……。さ……仕事仕事……」
レイオニーが急に老け込んで、蹌踉めきながら立ち上がるのだった。
セシルが適正を行うという意味。それは、彼等が唯一無二、一生を共にするアイテムを手にするということだ。
「その円錐の底面、利き手の人差し指を置いて、力を抜いて……」
セシルの指示に従い、フィアは緊張した状態で、円錐の底面に指を置くと、円錐はゆったりと力強く動き出す。
それは徐々に自分自身の方向に近づいてくる。フィアはその指示に従うしかないのである。
そんな検査が三〇分ほど続けられる。適性検査としては、早いほうらしい。
検査が終わると、テーブルに書かれていた魔法円だけが消え去り、元に戻り、銀色の円錐はそのままのこり、テーブルの上に転がり落ちる。そして、円錐にフィアのフルネームが浮かび上がり刻み込まれる。
「この中には、貴女の全てが記されているの、これを元に貴女に相応しいアイテムを創造するから、楽しみにまっててね。はい次!」
セシルは、フィアにウィンクをする。そして次指名したのはグラントだった。
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