第3部 第4話 §最終 円錐の儀式
後かたづけの終わったフィアとミールを含め、残りの四人はまるで面接をまつ新入社員のように、テーブルの少し奥に揃えられた並べられた椅子に座らされている。
ドライとローズは、ソファーに腰をかけて、その様子を見ているのだった。リバティーは、大股開きに座ったドライの右足の上に腰をかけている。
こんな事が、順々に繰り返され、イーサーが、セシルの前に座ると、彼女はふぅっと酷くため息をつく。
「流石に五人連続は、疲れるわね……。以前一人で三時間くらい時間を使った子もいるけど……」
セシルはふとそんなことを思い出す。それと同時に外のレイオニーが嚔をする。
だが、作業は続行される。例外なくテーブルに魔法円が浮かび上がり円錐が浮き上がる。
イーサーは元来の利き腕と思われる右手の人差し指を円錐の上に乗せるが、円錐は動かない。動く速度は個人差があるが、それでも動かないことはないのだ。必ず秀でた力の方に動き始める。
「左手で、やってみて」
セシルはそれに関しては、全く驚かない。潜在能力を秘めている手が利き腕でない場合もあるからである。
だが、セシルの指示に従ったイーサーのそれも、全く反応しない。
「ダメね……今日は……」
セシルが、ここで、もう一度ため息をつくと、円錐は魔法円の中に沈み込み、テーブルは元の状態に戻るのだった。
「え~~!俺だけお預けっすか?」
大げさに残念そうなイーサーだった。恐らくこの時を一番楽しみにしていたのは、彼だろう。当てがはずれて、呆然としている。
「人の能力を探るのは、疲れるの。ごめんなさいね」
そういいつつ、セシルはテーブルの向かい側まで、回り込み、イーサーの額に手を当てる。
彼女の手はかなりの体温が籠もっており、そこからエネルギーの消費量が感じられる。
右手でイーサーの額に触れながら、左手を宙に翳すと、一本のロングソードが出現する。デザインも中世時代に見られる煌びやかで、名のある名工が打ち上げたような鋭さを持つ剣で、決して手抜きの品ではない。
「おお!なんだよ!吃驚させないでくださいよ!」
それは確かに立派な一品であるが、セシルのポリシーを守った物ではない。ただ凄いというだけのものである。
「勘違いしないで、貴方の現段階の状態を調べて創り上げた物よ。ここに込められているのは経験。それに、あらゆる状況を想定して創られた、万能な物体に過ぎないわ。貴方のための剣じゃないから」
それは、セシルが彼をがっかりさせないためだけに、創った物だった。
ドライは、それを妙に思った。
誠心誠意疲れ切ったセシルならば、装飾のきいたデザインの剣を創る力はないだろう。それに彼女の言いぶりから、何らかの特殊能力を秘めた剣で、あるに違いない。仮初めであるならば、そこまで作り込む必要もない。
「君も……」
次に彼女が呼んだのはエイルである。
「創造に沢山の時間がいるの。繊細な作業よ。順にいっても、貴方のアイテムが完成するのは明々後日。一日一つしたいの」
セシルは、イーサーと行った作業をエイルにもする。
すると出てきたのは、彼の背丈より僅かに短いグレートソードである。それはエイルが使用していた剣より若干短いだろう。
エイルがそれを手にした感触は、前の剣より軽さを感じるという程度で、真新しさはなかった。ただ握り具合は良い。
「部屋の中で、振り回すなよ!柱を傷つけちまう……」
「判ってるよ」
茶化したドライに、淡泊なエイルの返事。もっとも、それほどの大剣を、室内で振り回すことは不可能で、降れば天井の梁を叩き折りかねない。
間に合わせに創った剣とは思えない、出来の良さである。風をイメージした、薄青い色で全体が調整されている。イーサーの剣は、銀色より機械じみた灰色に近い色合いが基調で、そこにはセシルが読み取った何かがある。
「んじゃ!バリバリやろうぜ!」
色々なことにお構いなしのイーサーが、はしゃいで飛び出す。
「バーカ……」
少し冷めた様子のリバティーが、ぼそっと呟くのだ。
「兄さん?」
セシルが、こっそりとドライを呼ぶ。
ドライは、膝の上に抱いてたリバティーの頭を撫で、彼女をソファーに座らせ、二人でリビングの奥へ行き、そのままドライがセシルを連れて、勝手口の外へ行く。
そこは、ローズの趣味のハーブ園である。
「ねぇ……」
リバティーが、こっそりと出て行く雰囲気の二人に対して、ローズにも注意を促すように、リバティーがローズを突きながら、勝手口の方角を指さす。
「大丈夫。貴女のことじゃないから……、気になるならいってきなさい。私はもう少し、一服したいから……」
ローズは、気にしない様子で、ソファーの隅に追いやられていたテレビのリモコンを掴み、適当にチャンネルをまわし始める。
少し遅れたリバティーが、ハーブ園へ通じる勝手口の前にまで、やって来たときだった。セシルとドライの会話が聞こえる。
「感覚的なんだけど……気のせいかもしれないけど、あの子……変。うんん。完全な人間なんだけど……なんていうか……。不自然ていうか……判らないけど純然……じゃないの……判る?」
「まぁ、訳ありっぽいだろうな……」
ドライは、セシルの言うことは理解していた。だが、自分達という存在があるのだから、色々な方角で驚く事もない。
「で?」
「ん……他の子達も、因子的には覚醒遺伝子を持っているの、グラントと言う子と、フィアって子は、クロノアール側の遺伝子を持っているわ。自然に第一覚醒期に入る確率もないけど……、後の二人は、シルベスター側ね。二人も人間としての活動が強いわ。でももう一人の子は、私たちじゃない……人間」
「そっか……。ザイン達とも、ドーヴァとも違うんだな?」
「うん……彼は人間よ。でも人間過ぎるのよ……」
セシルは、少々困惑しているようにも見える。それは彼女の目があらゆる構造を把握出来る特殊な能力を秘めているからであるが、それを持っても理解できないのである。
セシルが納得できないのは、イーサーが人間として完璧な遺伝子を持っていることにある。
「ありえねぇな……アイツは古代魔法を使える」
「そうなの?……あり得ないわ……」
「はは。オメェ……ホント考え込むなぁ、アイツは世界をぶち壊すような奴じゃねぇよ。アイツにはちゃんといい仲間がいるし、俺の娘もついてんだぜ?妊娠間近だし……」
ドライはそういって、セシルの持っている不安を打ち消すようにして彼女の頭を撫でる。一時期の自分をすっかり棚上げしている。そして勝手に自分の娘を公認カップルとして認めてしまう。
「違う!違う違う!!それ、違うから!絶対に!!」
リバティーは顔を真っ赤にしながら、扉を叩き開けて、ドライの口を塞ぎにかかる。その勢いは今にもドライの顔を、出来たての粘土細工をこね回すように、ぐちゃぐちゃにしてしまいそうだった。
「三日三晩シコシコしけ込んでるだろうが!」
「パパの変態!ドスケベ!ヒトのプライベートぶちまけるな!!」
「特大毛布二つも、クリーニング行きにしやがって!このバカ!盗み聞きしたバツだよ!」
「いやぁ!言わないで!そんなの見ないで!!違うもん!偶然だもん!」
リバティーの赤面が、極限に達する。ますますドライの顔を引っかき回すリバティーだった。その行動には遠慮が見られない。そしてドライも、娘を押さえ込んで彼女の痴情を、更にセシルに暴露しようとしている。
確かに、沢山の謎を生み出してしまったが、ドライの目には生気が溢れている。態と意地悪をして楽しんでいる生活感のある顔をしている。
慌ただしい親子の様子を見ると、硬い表情だったセシルも、吹き出しそうになるのだった。
セシルは思う。今のドライならば、前向きな意志で自分の家族を守るために活きてゆけるだろう、と。
何にしろ、事の暴走が起こらないことを願うセシルだった。
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