第3部 第4話 §5  教育指導 Ⅰ

 リバティーとシャーディーは、教室に入る。そこには、昨日つるんでいた残り三人もいて、リバティーの机の周りに全員が集まっている。教室の人口密度は、教師を省いて三十人程度である。

 教室は、黒板と机椅子。どこの学校とも、代わりのない作りをしている。

 尋ねられる事は、イーサーのことばかりだ。

 「え~?!一緒に住んでるの?あの日から?うっそぉ!」

 興味津々な驚きが、隠されることなく教室中に響く。それ以外にも雑談の響く声もするが、来ていない者もいるようで、授業開始間際になっても、埋まらない席がある。やはり昨日の騒動で、被害を受けた者もがリバティーのクラスにもいるようだ。

 やがて、チャイムが鳴り、不機嫌極まりない数学教師リチャードが、入室すると同時に、リバティーを一睨みする。するとリバティーが、不敵な笑みを浮かべ、臨戦態勢に入るのだった。

 昼食時。

 リバティーは、校庭にこっそり忍び込んだイーサーと、木陰に隠れた場所で、大量に買われた、パン類とミルクコーヒーで、お腹を満たしつつあった。

 「リチャードの、あの顔ったらなかった。問題全部瞬殺してやったもん♪」

 爆笑しながら、敵を叩きのめしたことに対して悦に浸るリバティーだった。でも、次の瞬間、ふっと冷めた様子を見せる。

 「ねぇ……これも、パパとママの血のせい?」

 そんな彼女は、少々寂しそうだった。

 同時にイーサーの脳裏には、ドライとローズの凄まじい運動能力が思い出された。

 「アニキって、そんな頭要さそうに見えないぜ?」

 と思わず、そんな言葉を口走ってしまう。

 「うわ!却下!違う!そんな意味じゃなくってさ!!」

 イーサーは、慌てて否定する。確かにドライの言動や、者の考え方はいい加減で適当な面が多い。言動行動共に、すぐにローズに封じられて、弄ばれている状況も目立つ。

 「ふふ……いってやろ!貸し一つね!」

 「うわ!まった!お嬢!俺のカツサンドやるからさ!」

 イーサーは、慌てて手元にあるそれを取って、リバティーに差し出す。その慌てぶりは、尋常ではなかった。もし、今の言動がドライにばれたら、追い出されるかもしれない。彼からすれば破門と同じ意である。リバティーから見ると、それは滑稽な姿だった。

 リバティーは、慌てるイーサーが差し出したカツサンドを取り、ビニルの包装を開封する。

 「そう言えば、家には書庫なんてのがあったなぁ。ママのエッチな小説が半分と、それ以外の蔵書。魔法学のが多かったかなぁ」

 リバティーには、あまり縁のない書庫だった。この街の学校は剣術には力を入れているが、魔法は歴史に関して語られるだけで、魔法となると選択科目になる。彼女が専攻しているのは、理数系学科である。

 「へぇ……、俺ん家(おれんち)には、変な古代の機械がごろごろ転がってるだけで、本とかは、全然て感じだな……」

 ドライに書物、自分には古代の遺物。全く無縁に思えるものが、側にある共通点がある気がしたイーサーであった。

 「君ん家かぁ。面白そうだな……。学校終わったらいこうよ!」

 リバティーの表情が明るくなる。

 「お、おう」

 閃きと同時に出されたリバティーの大声に、気圧されてしまうイーサーが、少しだけたじろぐ。

 カツサンドを平らげたリバティーは、紙パック入りのミルクコーヒーを、ぐいっと飲む。

 そこには、まだいくつかのパン類が残されている。イーサーは、自分達の食べる分量を全く考慮していなかったようだ。目移りする物を、手当たり次第に掴んできたのだろう。

 「そろそろ、教室に戻るわ。君も見つからないうちに、早く出た方がいいよ」

 リバティーは立ち上がり、軽くズボンを叩くと、袋に詰められた残りのパン類を、イーサーに投げ渡す。コーヒーパックは、片手に持たれている。

 リバティーは、教室に戻ってゆく。だが、五時間目が始まる前に、彼女は教官室に呼び出されてしまう。

 呼び出したのは数学教師のリチャードだ、用件はもう判っている。朝の態度だ。それにイーサーとの関係だ。当然保護者の呼び出しが掛けられ、その到着を待つばかりだ。

 リバティーは悪びれず、何が悪いといった、態度で、数人の教諭と個人指導室なる固執に、身を集めていた。

 「私のプライベートを、先生方にお話するつもりは、ありません。あしからず……」

 その一点張りだった。

 「き、君はその~~、成績も優秀なことだし、大学推薦も見込みもあることだし……」

 はっきりしない口調で、穏やかに物事を進めようとしているのは、国語の教師チャールズである。普段から温厚で人当たりの良い、小柄で脹よかな、リバティーから言えばどうでも良い先生である。

 暫くすると、事務員に案内されたローズと、なぜかブラニーがやってくる。ドライは来ていない。

 ローズは相変わらずのウェスタンスタイルだ。ブラニーも白いブラウスにタイトな黒いズボンとヒール。到底二人とも、父兄に思えない様相で、畏まっているとも思えない。

 「で?うちの子が何しでかしたの?」

 ローズは、ズカズカと室内に入り込むと同時に、リバティーの横にひょいっと腰を掛けて足を組んで、厳格な表情を作りきっているリチャードの顔を下から見つめる。少し睨みが効いている。

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