第3部 第4話 §3 ローズとブラニー
イーサがー一人で、夕べの事を思い出している間に、案の定リバティーは、最後のバスを逃してしまうことになる。
「パパァ……」
リバティーは、ドライがただの農夫ではないと判ってから、その態度が一変している。無論彼の計り知れない過去の経緯に不安はある。以前なら、同じ頼み事でも、ローズにしていたはずだ。
鞄を抱えながら、甘えるリバティーの声に、ドライもついつい娘が可愛くなってしまう。
が、である。
キッチンで、洗い物をしていたはずのローズが、ドカドカとテーブルの側を横切り、表に出る。
どうしたのだろう?と、ドライとリバティーが、窓の外を眺めると……、ローズが、ドライのバイクを蹴倒して、がしゃん!という、重たい音とがする。
「わ!バカ!テメ!なにすんだよ!!」
「いい?ドライのバイクは、壊れてるの!」
と、横切りつつ、ローズがそういって、再びキッチンに戻ろうとする序でに、リビングでまったりとしている、連中に一睨みを効かせる。ドライは、あまりの横暴に反撃する間を失ってしまうのだった。
「あ、っと姉御洗い物手伝う~♪」
まず、フィアが敏感に、ローズの視線の意味を知り、キッチンにパタパタと足音を立てて、走ってゆく。
「エイル……身体まだ、いたいよね?ね?」
次にミールが、エイルにサインを送りながら、無理矢理彼を引きずって、部屋に戻ってゆく。
三人があっという間に、散ってしまった。
サブジェイと、レイオニーは二人でまったりとして、食後のコーヒーを楽しんでいる。そんな中、レイオニーは、朝の茶番を見て楽しんでいる。
グラントだけが、まだテーブルに就いたままだ。
あまりに、露骨な当てつけをするローズに、リバティーはイーサーを意識してしまう。ローズが向けたい方向性は、既に誰もが理解している。
リバティーは、ふとグラントに視線が行くのだった。
「え?あ、俺?」
と、その瞬間またもやローズが、キッチンから姿を現して、表に走ってゆき、一台のバイクを蹴り倒すのだった。
「ローズ……楽しそうねぇ」
レイオニーが、運動量の多いローズを見て、小さく呟くが、サブジェイは反応しない。それが自分の親だと思うと、顔から火が出そうになる。極力視界に入れないようにしている。
「姉御……」
グラントが、横暴極まりないローズに、恐縮そうに声を掛ける。案の定ローズは、気の利かないグラントに対して、威嚇の視線を送る。
「いや、アレイーサーのっすよ?」
そう、ローズの蹴り倒したバイクは、イーサーのものだったのである。それを聞いたローズのこめかみがひくりと、動く。
そして、何事もなかったように、表に出て、バイクを起こすと同時に、残りの四台を、次々に蹴り倒してゆくのだった。
レイオニーがこれを見て、クスクスと笑い出す。
ブラニーは、何事もないかのように、食後の読書をしている。
「ウダウダやってないで、学校行く!!ほら!いったいった!」
ローズは、リバティーとイーサーを纏めると、そのまま二人の背中を押して、家の外へ追い出してしまうのだった。そして、自分も一緒に外に出る。
「今日はお弁当ないからね!それと、二人の晩ご飯は用意しないから、食べてきてね」
そう言うと同時に、イーサーのズボンの後ろポケットに、お金をねじ込むのだった。そして、普段開け放していることの多い玄関を閉めて、鍵を掛けるのだった。入れないつもりだ。
「もう!そんなんじゃないよ!」
夕べの行為があって、そう言われてしまうと、少しがっくり来るイーサーだが、確かに強い恋愛感情があるわけではない。彼女を抱いたのは、男性としての性がさせた部分が大半を占めている。酷く落ち込む訳ではなかった。
「お嬢、行こうぜ!早くしないと、遅刻するんだろ?」
「う……うん」
リバティーは、ローズに嗾けられっぱなしだということが、面白くないのと、夕べの感覚のため、照れてふくれながら顔を赤くし、イーサーのバイクの後ろに跨る。
距離感は平気だった。自然に腕が彼の腰に回り、背中に抱きつく事が出来る。夕べの出来事のためか、親密度を否定する気持ちと裏腹にしっくりと来る。
ローズは、バイクが遠ざかってゆくのを確認すると、一つ仕事が片づいたように、軽く域を吐いて、もう一つの問題に取りかかることにする。
と、その前に、いったんキッチンに戻り、紅茶セットとできたてのアップルパイをトレイに乗せて、ブラニーの横に座り、腰を掛ける。
それから、彼女の書物を取り上げるのだった。
「大して、目に入ってないんでしょ?一ページも捲ってないし……」
何をするのか?と、反論しようとしたブラニーだが、その一言で、全てを封じ込まれてしまうのだった。
ローズはため息をつく。
「サブジェイ?そろそろクウガがこっちに着いてるんじゃない?」
「ん?そうだな……、外に出るか」
サブジェイは、レイオニーが立ち上がると、残りのコーヒーを一気に口の中に流し込むのだった。
「お袋、オヤジ。一寸俺達、クウガ取ってくるよ」
少しタイミングが良すぎるが、ブラニーの性格はよく知っているつもりだ。自分達を見守ってきた自負のある彼女は、その弱さを見せないように、クールさを装っている。簡単に言うと意地っ張りなのだ。
「さてと……俺達も畑仕事だ……行くぜ」
ドライも動き始める。相手にしているのは残ったグラントだけだ。
グラントは、特に返事をすることはなかったが、素直にドライの後ろをついて行く。畑仕事という面では、イーサーより、彼の方がよりなじんでいる。彼は自分の一面を発見したようで、楽しんでいる。
フィアは、ローズの代わりに、後かたづけをしてくれているため、キッチンから洗い物の音がする。
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