第3部 第4話 §2 二人の朝
―――サヴァラスティア家、早朝。
「う……ん」
リバティーは、目を覚ます。身体は起きたが、目を開いてはいない。自分を包むように抱いている、温もりと重みを確かめると同時に、閉じた瞼に飛び込む、うっすらとした朝の気配に気が付く。
「は!!」
リバティーは、刮目し、テーブルの方を向く。
そこには、既に着席したドライ達が、慌ただしい食器の音を立てながら、朝食を食べている。一番見えるのは、ドライの背中である。
「きゃ~~~~~~~~~~!!」
リバティーは叫ぶ。そして、素早く毛布を自分達の頭部に覆い被せるのだった。
「んだ!?なんだよ!」
イーサーは、強烈に高い叫び声に、危機感を感じ、思わず起きあがろうとする。
「バカ!起きないで!!」
すぐにリバティーが、イーサーを自分の胸元に引き寄せる。引き寄せられたイーサーは、リバティーの柔らかみに包まれ、昨夜のように、心臓が飛び出しそうになる。
毛布の中のやり取りを、一同目を点にしつつ、眺める。
そこで、そうしているのならば、それは当然の結果であるはずだろう。二人は毛布の中で、コソコソと話し始める。
「なんで、起こしてくれなかったのよ!」
「起こすもなにも……あのまま寝ちまったし……お嬢が……眠れるまで……その…………止めちゃ……ダメ……だ……って……」
イーサーが、ぼそぼそと、情けなく恥ずかしがらずに、尻すぼみに、リバティーと顔をつきあわしながら、上目遣いで、責任を逃れようとしている。
「君の……良かった……んだもん……」
リバティーも、昨夜の出来事を鮮明に思い出しながら、顔を赤らめつつも、照れたイーサーと視線を離せずにいる。二人は、夕べの感動を思い出しつつ、周囲の状況を忘れて、キスをする。
別に互いに恋愛感情があるわけではない。刹那的な感情が寄り添っただけだった。だが、それは予想以上に二人を釘付けにしてしまったのだ。
「ご馳走様ぁ……っと」
ドライが、一番に食べ終わり、そう言って椅子を引き立ちあがる音がする。二人は現実に引き戻されるのだった。イーサーが、動転して、身体をビクリと動かす。
ある意味、当たり前だった。父親の前で娘を手込めにしているのである。普通の父親から見れば、イーサーはまさに敵そのものである。不道徳極まりない行為である。
動転したイーサーを毛布に隠しつつ、リバティーは、周囲の様子を窺うために、毛布から目から上だけをヒョッコリと出す。すると、ソファーの横を通りすがったドライと視線が合ってしまうのだ。
リバティーと視線があったことで、キョトンとしたドライの視線がある。
イーサーは、どさくさ紛れにリバティーの胸元にかくまってもらう体勢を取る。が、そもそもリバティーもイーサーの頭部を抱きかかえている。
「ぼさっとしてると、学校遅れるぜ。早く飯食えよ!」
ドライはそう言って、部屋へと向かう通路へと歩いてゆくのであった。
そして、あからさまなスケベな笑みを浮かべているローズの好奇な視線。フィアもチラチラと見ては、リバティーと視線が合うと、小さくVサインを作ってくる。意味が分からないが、多分勝利を祝っているのだろう。
その向こう側のグラントは、完全に沸騰しそうなほど、真っ赤な顔をして、何も見ていないことを、主張するかのように、天井ばかりを見て、食事を勧めている。
ブラニーは、マイペースだ。エイルはクールそうにしているが、ミールも興味津々にリバティーに視線を合わせてくる。
大人数で座れきれないため、個別に用意されたテーブルでは、サブジェイとレイオニーが、食を進めているが、軽く照れの入っているサブジェイと、好奇心がそそられて、期待を込め、わくわくしているレイオニーが、自分を注目しているのである。
そのうち、イーサーの手が、もそもそと動き出し、毛布から手を出して、ズボンを脱いだと思われる地点を探るのだが……、何も掴めない。一応手の届く範囲に、脱ぎ捨てたらしいことは、覚えている。
「お……お嬢、俺のズボンない?」
だが、状況がよく解らずに、気持ちばかり焦っているイーサーは、場所を正確に把握できない。
毛布から目から上だけを出しているリバティーだが、ズボンが見あたらない。
「ああ、アンタのパンツととズボンとタンクトップは、洗濯してるわよ……」
とてつもなく、意地悪な笑みを浮かべつつ、ローズがはっきりと聞こえるように、そういう。
「イーサー!アンタが、出ればオーケーじゃん!」
ケタケタと笑いながら、あられもないイーサーの姿を想像するミールである。
別にそれ自体が恥ずかしいわけではないが、これほどみっともない話はない。
恥ずかしくなったリバティーも、もぞもぞと、毛布へ潜ろうとしたときだった。
「おら!いつまで、イチャイチャしてんだ?これ穿いて、ちゃんと着替えてこい!」
それは、ドライのトレパンである。リバティーに渡しつつ、ドライはイーサーの頭の形がかたどられている毛布に手を落とし、彼の頭をぐりぐりと撫でる。
それから、リバティーの顔を覗き込む。
ドライはリバティーから視線を外さない、真っ赤になっているリバティーを詮索する目ではなく、何かを聞きたがっている様子で、優しく見つめている。
「今日……このままじゃ……ダメ?」
まるで興味本位の悪戯が見つかってしまったような、困った表情にも見えるリバティーの視線。
リバティーのその言葉に吹き出したのは、グラントである。彼の中でも色々な想像がなされていたようだ。
「だぁめだ!明日土曜だろ?一日くらいしっかり学校行ってこい!」
ドライはリバティーの頭もクシャリと撫でるのだった。ドライの態度は、まるで軽い悪戯をした子供を扱うような、ものだった。状況を広く受け止めつつも、ケジメはつけろと、言いたげである。
イーサーは、みっともなく、リバティに渡されたトレパンを毛布の中で、ごそごそと、着替え、ズボンを穿くと漸くみっともなく姿を現す。
「ドライ?!」
せっかくの冷やかしのネタが消えてしまったローズが、それでも、それが嬉しそうな機嫌である。
リバティーは、その間に、身体が見えないように、毛布で身体をくるみ、ゆっくりソファーから起きあがり、部屋に戻ってゆこうとする。
「お嬢~、早くしないと学校遅れるよ~」
フィアが一声掛ける。どうやらあまり余韻に浸っている時間はなさそうだ。
リバティーは、室内に戻り、ベッドに座り、一度横たわり、少し夕べのことを思い出す。
それは、間違いなく、深い男女の営みだった。
「初めてだったのに……、アイツ……」
リバティーは少しだけウットリとする。身体の気だるさが、二人の親密度を悟らせる。
「お嬢……すっげ……可愛かったよなぁ……俺、やばいなぁ……」
イーサーも、改めて一人になると、夕べのリバティーを思い出す。沈静化していた気持ちがムズムズとうずき出す。
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