第3部 第3話 §15 憶測
―――外では。
「二人とも、筋が良いし、覚えも良いから、あとはもっと経験が必要だな、多人数とやりあってみるとか」
サブジェイは、剣を背中の鞘にしまいつつ、イーサーとグラントの評価をさらっと下す。サブジェイのそれは決して間違っていないし、お世辞を言っているわけでもない。
二人がかりでサブジェイに剣を向けたが、息を切らしているのは、一方的に二人の方だ。だがバテているというわけではなく、ほどよい運動をしたといったものだった。
「さて!ご飯よご飯!!リバティー!熱々カップル呼んできてよ!」
ローズの声が響く。
サブジェイはそれを聞いて、家の中に引き上げることにする。
食事が用意され、家の中には、ブラニー及び子ども達、デッキには、サブジェイ、レイオニー、ドライ、ローズという構図になっていた。
サブジェイが、二人に話さなければならないことがあったからだ。中の切り盛りは、フィアがいるので、何ら問題はない。
サブジェイは、まず今回の地震と、イーフリートが現れた事のつながりと、前回の地震と魔物が出現したことの関連性を話す。クウガのこと、ここ数年の彼等の動向のこと。そして彼の思惑と誤算のこと。
「俺はてっきり低級魔族しか、呼び出せないのだと思っていたんだ。周囲の空間に歪みを与えるほどの、不安定な状況で、まさかイーフリートほどの精霊を召還出来るとは、思っていなかった」
サブジェイは、自分の予想以上に被害が広がってしまったことにショックを受けている。肩を落として、ため息をつくのだった。
「で、今回はエピオニア十五傑も、同時にそいつ等の計画に入っていたってことか」
「ああ、オーディンが街に戻ってすぐにアレだ。間違いない」
「偉く危険な賭けをしたな。オメェの言いぶりじゃ、どのみち街には被害が出ると思ってたんだろ?」
ドライは食欲を落とすことなく、サブジェイの話を真面目に聞いている。からかうこともなく、気に入らない点も正しく説明を求めていた。
「街の大きさ、オーディンの飛行速度、魔物が混乱し、精神的な重圧に耐えきれず暴走するまでの割合……は、十分に考慮してたんだ」
「まぁイーフリートなら、暴走しなくても興奮しただけで、火災は当たり前だからな……、俺も実物は見たことねぇけど……」
ドライは、肉とワインを中心に、時折味覚を変えるために、サラダを食べつつ、サブジェイに視線を向ける。フォークとナイフが手際よく動いているが、五月蠅さはない。
「そう……。殆どは文献上でしか、説明もされていないわ。だから、組み込んだ計算だって格好つけても、実はノアーさんの経験をベースに、組み上げられたシミュレーション程度なんだけどね」
レイオニーテーブルに肘をつき、頬杖をついて、ハッとため息をつく。
「ふ~ん……。まぁ、どのみちお前等の推測の半分は当たっていて、そいつ等の正体も謎で、召還のメカニズムは、魔術師の興したものじゃなく、他の手段を用いられてるってことだな?」
「そうなの。クーガで計測される発動から召還までの時間がいつも一定なの。今回のイーフリートの召還に関しては、クーガを呼び戻さないと、参照できないけど……」
レイオニーは、ボイルされたニンジンをフォークで転がしながら、なかなか見えない答えを持て余している。
「俺とレイオの見解なんだけど……、恐らくグローバルネットからワークアクセスを切り離した遺跡でサテライトシステムを二次経由で利用して、発動させてるんじゃないかなって……」
サブジェイは身振り手振り、それをどう形で表して良いかわからず、目の前の空気を纏めるようにしながら、ドライとローズにその説明をするのだった。
「まぁ……何かあるんじゃないかなぁって思ってはいたんだけどねぇ」
ローズが、目を閉じながら、クスリと笑い、ワインを一口飲むのだった。それはこれから起こる物事を何となく理解した、寂しさが含まれていた。
「いいよ……お袋達は、ノンビリしててよ」
サブジェイはローズの心境を理解し、イーサー達との稽古で消費したカロリーを補充するために、話もをしながら、食事を平らげ始めるのだった。
家の中では、イーサーとグラント、それほど深刻な様態ではないエイルに世話を焼いているミールが、遠慮なしに食事をしており、フィアは彼等のお変わりの連続で、半泣き状態になりながら、給仕に追われている。
リバティーは、深刻になりつつある話を平然と交わしている両親と、天剣と呼ばれる兄、博士(プロフェッサー)と呼ばれるレイオニーを不安げに見つめていた。
そんなリバティーの視線に、ブラニーは気が付く。だが、声を掛ける事が出来ない。彼女があの赤子であると知っていても、何をどうして良いのか判らない。
何が不安なのか?それも判らない。ドライ達に対してならば、少々の突っかかった言い方も許される。
しかしリバティーが、自分の一言で傷ついてしまわないかと、迷った瞬間に、言葉が喉に引っかかってしまい、ついつい声を掛けそびれてしまうのである。
ブラニーがリバティーとの本当の距離感をつかむまでには、もう少し時間がかかりそうだった。
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