第3部 第3話 再会Ⅱ
第3部 第3話 §1
畦に腰を掛けたドライ。そして、その周囲を囲むように、イーサー達が居る。リバティーは、オーディンと、ほぼドライの正面にいる。
オーディンとリバティーは完全に畑の上で、座る場所がないので、オーディンは畦に放り出していたマントを敷いて、二人でそこに座ることにする。
ここにいないのは、エイル、ミール、フィアの三人である。
「だりぃなぁ。買い物後回しにさせて、彼奴等も呼んで来いよ」
ドライの視線は自然とイーサーに行く。今ドライにとって一番使いやすい存在といえる。
呼び戻されたエイルはカンカンである。買い物に行ってこいと言われたり、後回しにしろと言われたり、どこまで振り回せば気が済むのか?と、思わず投げかけたくなる。
ドライが農夫をやっていることに関しては、どちらでも良いことだが、ドライがどれほどの男なのか、知ることは出来る。
彼等の目指す天剣と同じ容姿を持つ、その男の生き様だ。それは知る価値がある。ただ、それはエイルの勝手な想像で、ドライが武勇伝を話すとは限っていない。
「長引くのか?」
いらついたエイルの一言。
「どうだかな……、そうだオーディン。一筆書いてやってくれよ」
ドライが唐突にこんな事を言い出す。
「一筆?」
唐突すぎる、オーディンは霞の向こうを覗き、確かめるようにドライを見つめ、不可解なものの正体を確かめようと、少し前のめりになって、ドライを見る。
「ああ、この街の名工に、グレートソード一本、ロングソード一本オーダーメイドの依頼だ。二通な」
「何のためにだ?」
「ああ、俺が砕いたんだよ此奴等の剣をな。魔物退治の際によ」
ドライは軽く言い放つ。つい昨日まで禁句だった言葉だ。エイルが口を滑らせたが、あの時はオーディンの登場で、有耶無耶になってしまった。
ドライが農夫と生活をしていた以上、剣を持ち歩かずにいたことは、何となく解るオーディンだった。それに、身分の発揮していないドライが剣を持つということは、帯刀許可証を所持しなければならない。しかし、それは辻褄に合わない。土壇場で彼等の剣を使ったのだろう。
「なんだよ……その面ぁ」
あからさまに、世話の焼ける男だと言い足そうなオーディンの顔を見て、逆にむくれるドライだった。
「良かろう……世界一の名工を紹介してやる……」
ヤケクソ気味なオーディンの表情。一七年ぶりに会ったと思えば、畑仕事はさせられるし、尻ぬぐいはさせられる、おまけにサブジェイ達には、連絡するなと言う。だが、シンプソンとの会話に割り込んで、彼を驚かせる。やりたい放題だ。
多少鬱憤を晴らしたい気分になる。
「マジっすか?!」
ウキウキし出すのはイーサーである。
「世界一の……名工?」
エピオニア十五傑が関わるほどの名工、そんな人物に剣を打ってもらえるなど、まさに一生に一度のことだ。エイルはその意味を知ると、震えて冷や汗すら出てしまう。
「パパぁ……」
と、どんどん話が関係のない方にそれてゆくことに、リバティーが少々じれ始める。眉毛をハの字にして、困り切った様子だ。
「ああ、わりぃ。もうチョイまってくれ。どうも此奴がいまいち、俺が気にいらねぇらしくてな」
ドライは、一度立ち上がって、エイルの頭を撫で、肩を組み、体重を掛けて無理矢理自分の横に座らせてしまう。完全に子供扱いだ。
ドライの正面で、オーディンが電話をかけ始める。どうやら心当たりがあるらしい、相手方が電話に出るのをしばし待つ。
そして……。
「あぁ私だ。そうだな……大丈夫だ。ところで一つ無理な願いがあるのだが、きいて貰えると、有り難いが……。用件は……そうだな……。依頼主に直接話して貰った方が、良さそうだ」
と、目で少々怒りながらも、不敵な笑みを浮かべて、妙な勝利宣言をするように、自分の携帯電話をドライにつきだした。
ドライも、なにもそこまで怒らなくても良いだろうと思いつつも、その不敵な笑みが解らない。だが、一つ貸しを作ることになるのだ、ここは素直にオーディンに従い、用件を伝える事にする。
ドライは、エイルの肩を押さえ込むのよやめて、オーディンの電話を手にとり、対話に応じる準備をする。
「あ~、ドライってもんだけど……実は……」
「兄さん!!?兄さんなの?」
と電話の向こうから、興奮を抑えきれない、最愛の妹の声が聞こえてくる。その声は、電話口の外まで漏れ出す。
「な!セ……セシル!オーディンテメェ!!計りやがったな!」
「世界一の名工だ!文句はないだろう!!」
ドライは電話口を押さえて、焦ってオーディンを責め立てるが、動揺しきった表情は隠せない、電話を持っている手が、宙でウロウロしている。一方オーディンは、勝利の笑みを浮かべつつ、顔をぷいっと逸らして、腕組みをして、ドライを見捨ててしまう。
しかし、その声は電話の向こうまで筒抜けだ。
正知るに耳に、楽しそうなドライの声が聞こえる。いや、ドライとしては楽しくはない。心の準備が何も出来ていないのだ。
エイルは、セシルが叫んだ「兄さん」の言葉を聞き逃していなかった。
「え~~あ~~、なんだ……元気にしてっか?」
「ええ、元気よ。兄さんも、元気そうね……」
セシルは、ホーリーシティにある、研究所に身を置いている、そこには、様々な研究施設がならんでおり、その設備は世界一である。彼女はその所内の一室にいて、研究者のような白衣を身に纏っている。
「ん……ま、ぼちぼちなっとてか、スマねぇ、その話はまた今度でよ……、実はよそ様の剣をぶち壊してな」
「そう。それじゃぁそっちへ行くわ。よほどお世話になった人でしょうから……」
「おう、すまねぇな、愛してるぜ……あ、場所……」
「大丈夫オーディンさんの携帯の電波の位置をコンファームしたから」
セシルは、戸惑ってぎこちないドライの声を聞きながら、くすくすと懸命に笑いを堪えている。
「そっか……、それとまだサブジェイには言うなよ」
とドライとセシルの会話が、なかなか終わらないでいると、リバティーが苛立ち始める。どんな話しでも聞いておきたいと思っていた気持ちにぐらつきが出るのだ。
「もういいよ……」
リバティーは、すっと立ち上がり、ドライの横を通り過ぎようとする。
「ああ!待った待った!もう終わるって、……んじゃな!あ、娘だよ。ああ……わりぃな、愛してるぜ」
と、ドライは通り過ぎようとするリバティーの腕を掴み、制止しながら、口早にセシルとの電話を終える。そして、リバティーの腕を引っ張り、胡座をかいだ自分の膝元に、彼女を収めてしまうのだ。
「悪かったな……妹なんだよ……セシルは……」
ドライはまるで、恋人にささやくように、リバティーの耳元で軽く声を掠れさせて、甘く謝ってみせる。
「パパの?」
「ああ、俺の大事な妹だ」
電話で話していた人物が、それほど重要な人間だと知ると、リバティーの苛立ちはすっと治まってしまうのだった。何より、ドライが悪びれず甘えるように謝ってくるのだ。こんな経験は記憶にある限りない。引き込んだときは、少々強引だったが、ドライの抱擁は、大事と言っているセシルか、それ以上に丁寧に自分を扱っている。
「さて……長引かせちまったな」
ドライは、リバティーの耳元から顔を話すと、正面に居るオーディンを見る。別にオーディンを見る必要はないのだが、一番見やすい位置にいたことで、自然と視線がそこに行ってしまったのだ。
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