第3部 第2話 再会Ⅰ
第3部 第2話 §1
ドライ達の家にイーサー達が一泊を決めた日の夜、オーディン、シンプソン、レイオニー、サブジェイがホテルの一室で、顔を合わせていた。
招集の理由は、もちろんヨークスの街で起きた地震と魔物の件で、対処した人間のこともまた、話題に上っていた。
自分たち以外で、あれ程魔物を圧倒できる者は、この世界にそうはいないはずだ。
間違いのない事実としては、ヨークスの兵士達の中に、対処した者がいないということだけである。
しかしそれは、結果に連なり、発生した事象であり、根本的な問題は、誰が魔物を解放しようとしているのか?ということなのだ。
だが、事象における具体的な理由や目的は、彼らにも解っていない。
「レイオニー、状況を説明してくれないか?」
オーディンが現状解っている事の説明を求めるため、此処で一度話を仕切りなおすのだった。
彼らは、スイートルームの客間で、高級な銀製の脚部を持つ、ガラス天板のテーブルを挟んで、オーディンとシンプソン、サブジェイとレイオニーという組み合わせで、向かい合ってソファーに座っていた。
「簡潔に言うと、クーガのシステムを完全に上回ったということね。細かな要因をいくつか挙げるとすれば、出現期間の短縮の事実。専門的に言えば、デュアルチャンネルによる、マルチアクセスと、ブロッキング回避のタスク処理の向上、同時に可変暗号プログラムによる、解読の難易度アップ。以前のブロックが可能だったシングルタスクの比じゃなくなっていた……って所」
レイオニーは、少しウンザリした表情で溜息を吐くのだった。
魔界のゲート開放は以前からの課題だったのだが、その問題を解決する前に、先手を打たれてしまったことに、可成り自尊心を傷つけられている。
「ここ二ヶ月ほど、ずっと解放点をクーガで調べてたけど、その点は徐々にヨークスに近づいて、衛星地図で確認したら、間違いなくコントロールされつつある。前は、点がバラバラで、世界中飛び回ったけど」
サブジェイがレイオニーの呼吸の合間を縫って、説明を足す。そのゲートの解放は、ただ無造作に開けられているわけでもなく、徐々にコントロールされつつある事を裏付けるものだった。
「各国の要人が集まる、国際連盟協議会を狙っていたのか?」
「それだけでしょうか……?」
オーディンとシンプソンが互いの見解を出す。考えてみるが謎は深まる。
事象そのものは随分以前から続いているし、それ自体は世界連盟会議のために仕組まれた出来事とは考えにくい。あり得るとすれば、其れを利用したと言うことだが、それにしても魔物とは頂けない。
テロであってとしても、制御出来ない魔物を利用するなど、常軌を逸している。場所はヨークスであれば何処でも良かったのだろうか?
事態は、単純ではなさそうだ。
「ところでオーディン。誰が魔物を退治したか?なんだけど」
サブジェイは個人的な興味に話を切り替える。だが、それは全員の疑問点でもある。
オーディンは確証があるわけではなかった。
しかし、どうしても瞼の裏に焼き付いて離れない光景があった。
それは、彼が来訪した際に、視線があった少女の存在である。インスピレーションとでもいうのだろうか、多くの人が賑わっていたというのに、全ての雑音をすり抜けて、二人の視線は正しく焦点を交えたのだ。
あれから十六年も経っており、当時のリバティはまだ赤子で、彼女は自分の事を知らない。何よりドライは、運命に振り回されることに嫌気をさし、自分達の前から姿を消してしまったのだ。そう簡単に再開出来るとは、考えてもいなかった。だからオーディン自身も戸惑っているのだ。
彼はまず自分だけでそれを確認することにした。今ここで、ドライの存在を皆に話すと、一同に探したがるだろう。もしドライが、立ち直れないままだとしたら、その再会は、ドライもサブジェイも傷つけてしまうことになりかねない。
「いや、解らないな」
オーディンはそう答える。そして、話題を切り替えるために、こういった。
「どのみち協議会は、延期だ。安全が確保出来ない以上、この街で協議し続ける訳にも行かない」
公人として行うべき自分の仕事は、完結したとオーディンは言いたいのである。
「ええ、プロージャの大使は、あれから真っ先に、帰国しましたしね」
二人はため息をついてしまう。オーディン達はそのために、随分時間を割いてきたのだ。それだけに、精神的な疲れは隠せなかった。
「パパ達も、帰るの?」
レイオニーが、二人の今後の予定を訊く。今後の全体的な予定の把握のためだ、あまり個人的感情が含まれた意味合いではなかった。
「いや……私はもう少し、この街にいる。魔物がまだ出現する可能性もあるのだろう?」
それに対して、シンプソンも頷く。
「そうね。私もサブジェイも休養をかねてもう少しここにいるつもりよ。魔物の筋繊維反応から、精神状態も鑑定しておきたいし、解放点の空間に、再発プログラムが存在しているかどうかも、調査しないと……」
レイオニーの言うことは、相変わらず難しいと思うオーディンだった。それと同時にレイオニーらしく思い、笑いを堪えながら、それを聞いている。
「あ、シンプソンさん。ブラニーさんに、いい加減携帯電話持つようにいっといてくれないかな?」
サブジェイが一つ不平不満を思い出す。シンプソンは、その不満気なサブジェイの顔が面白くて、少し吹き出してしまう。だが、すぐに彼女という話題の共通点から、言わねばならないことを、思い出す。
「そうそう。そのブラニーですが、あなた達が家を空けっ放しにしているから、最近ご機嫌斜めですよ」
シンプソンは思い出し笑いをしながら、サブジェイにそれを言い渡す。ドライ達が居なくなった後、ブラニーは随分二人を可愛がった。もっとも、ブラニーの性格だ、それほど愛想がよかったり、ローズのように過剰な表現をするわけではない。さらっとした動作の中に、拗ねたり喜んだりが含まれていたりする。
ブラニーという人間を理解すれば、その喜怒哀楽は実によく解るのだが、本人はそういうのをあまり知られたがらず、また気がついていないと思っている。
「そう。後で家の方に電話入れとくよ。読書か入浴中じゃなければいいけど」
皮肉たっぷりのサブジェイだった。あの瞬間、どれだけ気を揉んだことかと、待ち受けに流れるブラニーのさらりとした声を思い出しては、少し腹を立てる。
「じゃぁ、そろそろ寝ますか?お互い明日があることですし……」
ブラニーがマイペースなことと、サブジェイがそれに何となく振り回されているのが、シンプソンにはおかしくてたまらなかった。軽く握った手を口元に宛がって、肩で笑いながら、解散を促す。
「そうする。俺もレイオも、一寸の間寝てないし」
まず席を立ったのは、サブジェイだった。其れに続いてレイオニーが席を立つ。それからオーディンがゆっくりと腰を上げるのだった。
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