第3部 第1話 §18
次に二人の位置を認識出来たのは、二人が激突瞬間のことだった。剣と剣がぶつかり合う、耳の奥が痛くなるような金属音がしたために、誰もがその方向に視線を向ける。
後は自然にその音のする方に、注意をすれば、二人の動きは追えるのだと、彼等は理解する。
ぶつかり合う瞬間に動作が止まるため、その時に二人の姿が確認出来るといった具合だ。
それでも、少しずつ目が慣れ始めると、彼等は、漸く二人の動きを理解することが出来るようになる。それでも気を抜くことが出来ない。
あまりに烈しい二人の戦いぶりに、イーサーもエイルも立ち上がり、前のめりになり、手に汗握り、思わず額にも、ひやりとした汗を浮かべるのだった。
高速のシックスティーンビート。二人の戦闘はまさにそんなイメージである。激しく強い高音と低音が鳴り響くような、息もつかせない連続技が続く。
よりアクティブに動くローズと、重く荒々しいドライの太刀筋から目を離すことが出来ない。
一瞬ローズが受けに回る。ドライの剣を真正面から受けてしまったためだ。
体格差と腕力差。それは埋めることが出来ないものである。
脇をしっかり固め、レッドスナイパーを十分に引きつけ、後方にステップを踏み、飛びつつその力を散らし、ドライの一撃を防ぎきる。
ローズの上手い部分は、ドライの振り払う剣の圧力を、そのまま退く力に変えてしまうところである。そして、退きつつもニードルレイの魔法を放つ。
赤く光る針のような先行が、数発放たれ、其れが詰め寄ろうとするドライの行く手を阻む。
ドライが直線で攻めるのを諦め、ニードルレイをを回避し、ローズの右横から攻めに入ろうとする間に、彼女は体勢を整え、大地に足をつけ、突っ込んできた瞬間のドライを紙一重で躱し、すれ違い様に、その背中に魔法を仕掛けようとした。
だがその瞬間。ドライは、ローズを叩き斬るために踏み込んだ足に、再度力を込め、さらに前方に走り抜ける。
ローズはそれでも、ニードルレイの魔法を、遠ざかるドライの背中に向かい放つ。
ドライは躱しきれないのを悟り、振り向き様にブラッドシャウトでニードルレイの魔法を剣で弾き返す。ただし、ローズのいる方向へ跳ね返す余裕はない。
ブラッドシャウトに弾かれた紅い閃光が、天空に散ってゆく。
その間に、ローズは振り返ったドライの懐に飛び込み。剣や魔法に続く、もう一つの武器である足技に移る。
まさにゼロ距離射程の攻撃だった。一度ドライの顎を掠める回し蹴りをしたかと思うと、背面を向けたまま、左足でドライのあごを蹴り上げにかかるのだ。漸く躱したドライの頬が軽く切れる。凄まじい切れ味である。
無駄に大きく躱さなかたのは、素早くローズの足を捕まえためだった。
ローズの足が伸びきると同時に、彼女の足首を掴み、遠くに放り投げる。
ゼロ距離射程の足技は、なかなかやっかいである。ローズよりも体躯が優れているが故に、一度内側に潜り込まれると、ドライには、非常に捕まえ辛いのだ。これ以上内側で暴れ回られるのを防ぐために、ギリギリの所で回避し、彼女を捉えるのが得策なのだが、だからといって、至近距離に置いておくと、彼女の魔法が放たれることになる。
何時までも、捕まえておくわけにはいかないのだ。彼女の動きを至近距離で止めることは、決してドライにとって有利になりうる状況とは言い難いのである。
「そこ!どいとけよ!」
ローズを投げ飛ばしたドライが、イーサーと横に並んでいるグラントを指さす。本当に一瞬のやりとりだ。高速戦闘の中、それは危ないことだが、それを言っておかなければもっと、危ないことになる。
ローズは飛ばされながら、剣を空中で薙ぎ、ソニックブームを作り出す。ドライがそれを躱すと、案の定、先ほどまでイーサーとグラントが座っていた位置のウッドデッキの床が、一枚砕けて飛ぶ。
ローズは、ドライを牽制し、再び着地すると、さらに速度を上げてドライに突っ込む。
彼は思わず垂直に剣を叩き下ろす。本当に反射的な行動だった。積み重ねた経験だけが、その動きを許すのだ。
リバティーはゾクリとし、叫びそうになってしまう。彼女はこの時点で、二人の行動を捕らえることが出来ている自分に気がついていないのだ。
ローズは振り下ろされた剣を寸前で躱し、空中にひらりと舞う。
ドライは大地に突き刺さって剣を引き起こし、横に薙ぐ。本当に、ローズ目掛けて遠慮無く剣を振るうのである。誰が見ても殺しあいとしか思えないような瞬間だった。
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