第3部 第1話 §13

 ドライ達が街から離れてから、半時ほどが経っていた。そして、その現場に訪れいていた者達がいる。オーディン=ブライトン、シンプソン=セガレイである。


 そして、二人の周囲をこの街の軍隊が囲んでいた。

 軍隊は剣を装備しており、鎧とコマンドスーツの融合した風体をしている。服装全体は枯れたグリーンで統一されており、ヘルメットもやはり、騎士の兜に近い形状をしている。


 オーディンは、相も変わらず貴族風の騎士を思わせる出で立ちをしていた。この中では浮いた服装にななっている。

 シンプソンは黒のタキシードに白いシャツ、黒く細いネックタイを蝶結びにしている。以前の袈裟懸けの宗教的な服装ではない。これならば、市長と呼ばれても、何ら違和感はない。


 「すごい斬撃だな……」


 オーディンは、アスファルトを抉っている斬撃に直接手を触れて、状況を確認する。彼の興味は、単なる現場検証だけに尽きず、技の使い手のことを想像していた。


 「ええ、それにしても、魔物だなんて……」


 シンプソンは特に直接触れることは無かったが、周りを見るだけで、其れがただの人間の仕業出ない事を理解する。

 二人は事態を慎重に受け止めていた。周囲には魔物の肉片が飛び散っており、この場で起きたことを想像するが、何が起こればこんな破壊的な状況になるのかが、想像出来ないでいる。


 よもやドライがそこにいたとは、思いもよらない。

 その時オーディンの携帯が鳴る。音は普通のベルだ。これが、一番落ち着くらしい。


 「オーディンなにしてんだよ!!魔物は!街は!!」


 通話を開始するなり、サブジェイの大きい声が、オーディンの耳に刺さる。興奮状態にあるようだ。当然のことだ。彼には全てが後手に回った焦りがある。


 「済まない。会議中だった。電源を落としていたんだ。魔物はいない。既に片づけられていた」

 「どうやって!なにが起こったんだ?」


 サブジェイは結果を知りたがる。見えない状況をより把握しようとするための苛立ちが現れている。


 「落ち着け。街が安全になったことは確かだ。どうなったのか今から調べるところだ。お前達のことだ。こっちに向かっているのだろう?それから話をしよう」

 「…………解った」


 サブジェイは一応落ち着き、携帯を切る。オーディンも携帯電話をズボンの後ろポケットにしまい込む。


 「オーディン……どうしますか?」

 「サブジェイ達が着てからにしよう。議会の方も騒ぎが落ち着くまで、中止だな。魔物が現れたとなっては、のんびり、テーブルを囲んでいる訳にも行くまい」


 シンプソンは、その現場主義がオーディンらしいと、こんな状況にもかかわらずクスリと笑ってしまうのだった。


 「おやおや……エピオニアの大使殿は、ずいぶんと勇ましいですなぁ」


 そこに現れたのは、北限の強国と謳われるプロージャの大使だった。


 プロージャのは身長はオーディンと同じ程度あり、体格もがっしりとしている。トレードマークは、フワリとした毛並みの低い円筒形の帽子、グレーのウシャンカである。スーツ姿が少しマフィアっぽい。


 会議中に地震が起こり、オーディンは知らせを受け、すぐに駆けつけた。彼はそこが安全だと解った後にやって来たのだろう。

 政治に携わる者は、配下をいかに効率よく使いこなすかが、彼の持論である。


 確かに、其れには一理あり、先頭に立つ者が動的であれば、配下はそれに振り回されることになる。

 そういう点では、オーディンの下にいる人間は、大変なのかもしれない。彼は誰よりも先に動く性分である。


 「貴殿は無理をなさらない方がよろしいのでは?まだ、魔物が潜んでいるかもしれぬ」


 オーディンは、安い挑発には乗らないよに心がけているが、気に入らない人間は気に入らない。言葉には、冷静になろうとしているため少々無感情な様子が出ている。


 「なぁに。儂にはこれがあるさ」


 物騒だが、プロージャの大使は、懐から拳銃を取り出す。実際にはレーザーガンに似ており、光線が発射される。まさに文明の利器だ。

 技術の発達進歩は、考古学会、またはアカデミーと呼ばれている組織が深く関わっている。実はアカデミー内部でも抗争があり、あまり穏やかな状態ではない。技術革新を世界統一に持ち込む右派、世界の発展を望む左派があるが、両者とも少々無秩序に技術を世界に広げてしまった感がある。


 IHや、AMCを広げたのは左派だが、軍事目的に流用を始めた国家に荷担したのは、右派である。レイオニーは、一時左派に属していたが、彼女は技術論や理想論、国歌論ばかりを唱える両者から離れ、個人で活動している。


 レイオニーが左派に在籍していた際に、SCSを開発した。開発といっても元は、昔に存在した技術だ。この時代の開発は、その手のものが多い。魔法との融合が、その中心である。


 「いつまでも剣を振りかざす時代ではありませんぞ」


 彼は自慢げに、それをちらつかせるのだった。個人がそれを持つということは、そこに財をつぎ込んだということである。つまり、彼は資金援助をしていると言うことだ。


 時代は流れる。それは確かに認めなければならない。人が歩くことをやめ、車に乗り、遠い距離を行き来するようになったことと、それほど変わらないのかもしれない。だが、それを振りかざすことは、また話が異なる。


 時代の流れか、無責任に武器を振りかざす者達が増えているのだ。力に責任と重みを感じずに、見せつけて振りかざして、満足しているその姿に、オーディンとシンプソンは、少々嫌気が差している。


 

 その時だった。焼けこげている魔物の破片がうごめき出す。

 


 どうやら、細胞が生きているようだ。オーディン達は、プロージャの大使との会話のため、少々それに気がつくのが、遅れた。


 「今動いたぞ!!」


 周囲を捜査している兵士が声を上げた。偶然それを見つけたのである。

 彼らはあまりなれない事態に、対処しきれず。恐怖心に心が揺らぎ、その処分を忘れてしまい、数歩退いてしまう。何せ魔物の破片なのだ、下手に近づくと、自分が其れに取り込まれかねないと思ったのだ。


 動き始めた破片の動作は速い。

 あっというまに、言いようのない一つの生物となり、グロテスクな恨み辛みのある表情を浮かべ、一直線にプロージャの大使の方へと飛んだ。真っ黒なお玉杓子のようだが、頭部はバスケットボールほどもある。


 「ひい!」


 銃を持った彼の手は、震えて目標も定まらない、しかも一秒程度の出来事だ。心の準備も出来るはずもない。

 だが、オーディンは冷たい視線のまま、瞬時に剣を抜き横に振り払い、それを両断する。


 振り抜かれた剣は銀色に輝いていた。其れは本来のハート・ザ・ブルーの色合いではない。

 物理的な物以外も切り裂くことの出来る次元刀の力である。

 その剣は、魔物に反応し自らの意志を持ったように、銀色に染まるのである。


 オーディンが切り裂くと同時に、何かに握りつぶされたように拉げた。シンプソンの魔法である。

 互いに反応してしまったようだ。

 オーディンは、さっと剣を腰の鞘に収める。


 「技術の賜も、使えなければ意味がないな」


 オーディンは腰を抜かしたプロージャの大使の横を通り去る。


 「オーディン、一寸待ってください。封印を施しておきます。レイオニーが何かを見つけてくれるかもしれませんから」

 「ああ」


 オーディンは、迎えの車の前で待ち、シンプソンが周囲にサラリと手を流すようにして、肉片に封印を施す。それは魔物の組織が活動しないようにするたものものだった。


 シンプソンが仕事を終えると、オーディンは先に車に乗り込む。

 彼はこの手の乗り物の運転は一切しない。それはシンプソンも同じだ。


 「あれが、オーディン大使……、ホーリーシティーのシンプソン市長……」


 ヨークスの兵士達がそ呟く。魔物にすら動じないその強さに、感服してしまうのだった。

 

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