第3部 第1話 §12
グラントが何かを言おうとしたとき、信号は青に変わり、ドライは走り出す。
「パパ……、彼奴等ついてくるよ」
迷惑な行動に声を歪ませながら、リバティーは幾度か後方を振り返る。
「ふん……好きにさせるさ」
ドライもため息がちになる。振り払えないこともないが、それすら面倒に思えるほど気が滅入っていた。今は家に戻ってローズと話がしたい。それだけだ。
それに、今引き離して、街中に色々自分のことを探し回られるのも迷惑だ。今の生活を続ける限り、必ず彼らと出くわすし、それを避けるためには、今の生活を変えなければならない。この時は、説得するか、納得して引き取って貰うのが、一番良策だと思ったのだ。
「えー!」
「ブゥたれるな」
不平を聞くだけ、時間の無駄だし言っても無駄だ。ドライは簡単にリバティーをなだめるようにして、言葉を柔らかくして、そういう。
そのリバティーは、もう一度後ろに振り返って、舌をべーっとだして、顰めっ面をする。
「嫌われたわねぇー」
と、フィア。
またもや、ぐさりとイーサーの胸に楔が打ち込まれる。一瞬イーサーのバイクがふらつきそうになる。
バイク一同は、市街地を抜け、家が点在し始める場所に姿を移し、向こうには畑が見え始める。農地だ。
「あ~知ってるぅ。この向こうにデッカイ農園あるんだよ!」
唐突に言ったのは、またもやフィアだ。彼女はぽかんとした表情をしながら、遙か向こうを指さす。ファイアはどことなくマイペースな部分がある。女性として大柄な彼女は、心にも大きな部分があるようだ。同じ大柄な人間でも、心配性なグラントとは、大きく違う。
「知ってる知ってる!確か……サヴァラスティア農園……だっけ?」
ミールが、フィアを指さしながら、思い出したように声を張り上げた。
「二人とも、町はずれで、なにしてるんだよ……」
エイルは、此処にも頭痛の種が転がっているのだと言いたげに、頭を押さえ、正気を保つために、頭を左右に振る。間違い無くなにかやらかしたからこそ、そんなところにいるのだというのが、何となく想像出来る。
街にいれば退屈をすることがない彼らだ。農地ばかりの場所に、姿を見せることなど、あまり無いことだった。
「あはは!どっちのIHが、速いかレースしたのよ。この先車も殆どないし、まっすぐだし」
ミールがカラカラと高い声で、笑いながら答える。
グラントは、無茶をする二人に、頭を悩ませながら、項垂れる。なぜこんな連中と一緒にいるのだろうと、ほとほと考えてしまうのだった。だが、それにはそれなりの理由がある。そしてそれは、ずっと昔からなのである。
そんなグラントが、再び正面を見ると、向こうの方から土煙を立てて、何かが向かってくる。
当然ドライもそれに気がつく。それにしても、凄いスピードだ。相対的なものあるが、可成りの速度であることは、間違いないことだった。
ドライ赤く靡く髪を確認する。間違いない、最愛のローズである。なぜ彼女が爆進しているのか?
次第にこちらに近づいてきたローズのバイクは、ドライの横を一度通り過ぎる。
予想以上の速度だ。一同サングラスをかけて、赤い髪を靡かせたウェスタンブーツとブルージーンズと白いブラウスの女性を見る。完全に脇見運転の一同だ。その中で、ドライだけは前に向き直している。
ローズは、オーバーランすると、ブレーキとアクセルを駆使し、大地を滑りながら、一八〇度ターンをして 、次に一度ウィリーをして、今度は後方からイーサー達を追い抜き、ドライの横に並ぶ。
その時、サヴァラスティア農園の看板を通過する一行だった。
「ニュース見たわよ!二人とも怪我はない?」
それがローズが爆進していた理由だった。
「ヒュー……」
ローズの渋さに口笛を吹いてしまうミール。まるで荒馬を乗りこなすような、ドライビングテクニックは、女でも惚れてしまうものがある。
「ああ」
ドライは簡単な返事だった。
「うん。でもね!学校の裏に、怪物が現れたのよ!一寸しか見えなかったけど、そしたら次にもう一回大きな揺れがきて光って、爆発して……パパがどこにいるか、気になって……、大変だったんだよ!」
リバティーは、興奮して一気に自分の心境を説明し始める。
「パパが、巻き込まれてなくて、よかった」
リバティーは、ドライの背中にピタリと頬をつける。一気に自慢の父親に昇格したドライは、過保護なまでのリバティーの愛情を背中に感じる。
ローズは、リバティーの説明に一瞬神経を尖らせが、状況までは把握出来ているわけでは無かった。それでも、ドライの様子から、彼が何らかの方法で、それに対する始末を付けたのだろうと言うことは、うっすらと理解する。
ドライは、その瞳の色ゆえに、昔から街ではサングラスを掛ける癖がある。唯一ホーリーシティーと、自分の素性を知らないエピオニアは、別においてだ。
彼はこの街で生活をしているが、その癖は治っていない。掛けていた方が落ち着くのだろう。
そのドライが、サングラスを掛けていない。掛けられなくなる事情があるのだと、すぐに勘が働く。無くすか、壊れるかである。其れが判断に至る決めてだ。
「そう、大変だったわね。それで、後ろの連中は?」
「ん?ああ。序でだ、飯でも食わせてやってくれ」
「えー!!」
リバティーは大ブーイングであるが、ローズはすぐに、彼等が目撃者である事を知る。騒がれる前に、どうにかしたいとドライが思っている事も理解する。
そして、もう一つドライが何か考え事をしているのが、ローズには解った。ぼんやりとしているようで、何かをずっと思い込んでいるかのようなドライの表情が、ローズは気になった。
だが、ここでは訊かないことにする。
今は、帰り道を共にしてやることにするのだった。
ドライが気になっていること。それは、シルベスターモードである。正しくは気になっているのではなく、確信してしまったのだ。
〈十秒が限界だったはずだ。五秒でも疲労する。意識を集中して剣にエネルギーを蓄えて、ぶった切るまで、五秒はかかってる。身体が疲れてねぇ……〉
ドライは心の中で、呟く。落胆や恐怖などの感情はない。戦いから手を引いても、その結果なのだと、気がついたのだ。
「熟成……か。ワインだな……まるで」
ドライらしくない言いまわしだが、ふと笑いながら、そんなことを言ってしまうのだった。
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