第3部 第1話 §9

 ドライとイーサーが、対決しようとしていたころ、この町に向かっていた一機のマシンがあった。


 白い機体に赤いラインでデザインが入れられ、その機体の横には、「Cougar ― 空牙 ―」と書かれている。


 大陸を右に睨み、海上を走り波を切り裂く音速の走行。


 クーガの機体は現在、二つの構成からなっている。前部にある操縦機関、および動力機関からなるマシンと、後部にある貝殻の形状をした居住空間兼研究室そして、補助の推進エンジンが搭載されている、シェルと呼ばれるマシン。


 サブジェイはクーガ本体に乗り込み、険しい表情をして、額にかすかな汗を浮かべ操縦していた。レイオニーは、後部のシェルに乗っており、尋常ではない速度で、コンピュータのキーボードを叩いている。

 二人の会話は、インカムによって通信されている。


 「どうだ!レイオ!」

 「だめ!間に合わない!もっと飛ばして!」

 「シェルを連結してるんだ!これでギリだよ!更に陸地についたら、この速度じゃ飛ばせねぇ!!」


 二人は焦っていた。

 元々ヨークスの街には訪れる予定だったのだ。前回の調査結果から次は、間違い無くヨークスの何処かにゲートが開かれるであろうと予測したからだ。


 しかし、そこには一つ誤算があった。今までのケースならば、次のゲーとが開かれるまでには、一週間ほどの猶予があったはずだというのに、今回はその半分もない。余裕を持っていたわけでは無かったが、十分に対処出来る範囲に、自分達は進んでいるはずだった。


 しかし、問題はそれだけでは無かったのだ。

 期間が短いだけならば、妨害プログラムと解除プログラムの両方で対応出来るのだが……。


 「デュアルチャンネルでアクセスされてる!!クーガじゃ処理しきれない!」


 必死のレイオニーの声だが、それだけではどうにもならない。サブジェイは胸の内ポケットから、携帯電話を取り出し、短縮ボタンでコールする。


 「オーディン……出てくれよ!」


 オーディンは会議の途中だ。電話に出られるわけが無い。

 本来ならば、サブジェイとレイオニーで、殆どの事が処理できる。今の時代は、全員が戦闘態勢である必要の無い穏やかな時代である。彼等の行動も、政治中心になりつつあり、殆どの現場仕事は、二人の手に委ねられていた。それだけ二人が成長したという証であり、また信頼関係も築かれていた。


 「ブラニーさんは?だめなの!?」

 「あの人、携帯もってないだろ!」

 「自宅は!」

 「そうだった。と……えっと……」


 サブジェイは、運転しつつ、視線を携帯電話に目を配り、ルークの自宅を 番号を検索すし、素早く電話をかける。十五回ほどのコールが続くが、出る様子はない。サブジェイがイライラし始めた時だったその時だった。


 「はい……アロウィンです」


 ブラニーの声である。アロウィンは、ルークの苗字である。やっと出た。サブジェイがそう思って、彼女の声に話しかけようとしたときだった。


 「今は、誰もいないわ。ルークもいないわ。私は買い物か……読書か……、急ぎの用があるなら、メッセージを残しておいてね」


 その後に、「ピー」という、メッセージ録音スタートの合図がなる。

 サブジェイは、腹が立って電話を切り、一瞬フロントガラスにそれを投げてしまいそうになった。


 自分達はこんな状況だというのに、ブラニーの声は、サラリとして淡々としていて、その声は、まるで対岸の火事を見るような雰囲気だったのが、余計に腹が立った。世間に無関心なブラニーを知っているだけに、尚のことその姿を想像してしまう。


 「いねぇ!だめだ!」

 「こっちもダメ!コンプリートされる!!」


 レイオニーが、そう叫んだ瞬間、サブジェイのイヤホンにけたたましい警戒のサイレンが鳴る。


 「ちぃ!オーディンさんが、間に合ってくれることを、祈るしかねぇ!!」


 サブジェイは、最悪の事態を考えながら、ヨークスの街へと、クーガを走らせるのだった。

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