第3部 第1話 §5
ローズが頭を痛めている頃、当の本人は、昼半ばで学校をエスケープし、他の仲間五人と町中を徘徊していた。別に何か法的な問題行動を起こしているわけではないが、ショップの前で座って話し込んだりする。今日もそのパターンである。
いや、学生が授業を放棄している時点で、十分に問題はあるのだが……。
「数学のリチャード……うざいね~。わざと難しい問題あててくるんだよ?」
悪友の一人が不平を漏らす。彼らの学校には制服がないため、街を徘徊していても、大人が関心を持たない限り、学生だとわかり辛いし、どの学校に通っているかも、判断できない。
「あは、だってウチ等頭わりーもん。嫌がらせだよ」
別の友人がまた、そう言って一言漏らす。
「アイツ、顔長い割に、性格わるすぎ!」
「顔の長いのと性格って、関係ないじゃん」
次々とそう言って、不満の連鎖を起始めるのだった。
リバティーは話に加わっているわけではないが、彼女の友人達は無意味で不毛な会話を続けている。
「なんか、刺激ないかなぁ~~」
ここで、初めてリバティーが、ため息をつきながら、ぼうっとそんなことを言い出す。
「過激~~……オトコ?」
リバティーのため息は深刻なものだったが、ませた彼女たちは、リバティーのそれに興味津々だった。
町中で座っていても、決して自分達に充実した人生が訪れる訳でもない。ただ、拘束感のある教室で学ぶ事も感じない授業よりマシなだけだと感じているのだ。だが、羽目を外しすぎると、ローズの耳にそれが届くことは、間違いない事実である。
「オトコ……ん~……」
リバティーは考え込む。正直あまり、ピンと来る話ではないのだ。周囲には男子が沢山いるが、彼女の目に留まる者は現れていない。それが何故なのか、彼女にも解らない。
「わかんない。でも、兎に角つまらないコトだらけだよ……」
周囲に注目されていたリバティーは、すっと立ち上がる。ここで座り込んでいることも飽きてきたのだ。
「ウチの兄貴、リバティーにキョーミシンシンだよ?昨日だって自慢のIHで、送って悦に浸ってたもん」
「シャーディーの兄貴いいよね。クラブで働いてんだっけ?」
一人の友人が言う。
シャーディーは、白金のブロンドで、ショートカットで、赤と白のストライプのタンクトップを着ていて、彼女らの中でも、露出度の高い服装をしている。彼女がいわば夜の遊び場の確保担当になっていた。
年齢にしては、目元が大人びていて、彫りが深くくっきりとした二重をしている。目尻は少々下がっているせいか、普段からウットリとしているように見られがちだ。
「うん。また、兄貴に奢ってもらおっか。今日暇だっていってたし」
「そうだね~。カラオケでもいこーよ」
彼女たちの行動は、真っ直ぐなものがない。その場しのぎの退屈しのぎで、毎日が過ぎている。
シャーディーの兄が、自分に気があることなど、どうでもいいことだ。今のところ彼の行為に何か困ったことがあるわけではない。彼の兄も、妹たちの交友関係に皹が入るような真似は、しないようにしているらしい。最も、今のところは……という意味だが。
そんな夜のことである。
彼女たちはまだ、街を徘徊している。楽しいがそれだけの毎日だ。得られるものが特別何かあるわけではない。今は街灯の明かりが灯された、少し薄暗い公園で座り込んでいる。そんな中リバティーは、オーディンの顔を思い出していた。実はぼうっとしている最中、絶えずちらついているのだった。
なぜ、その記憶ばかりが脳裏に過ぎるのか理解できない。
メインストリートで彼が警備に囲まれ、姿を見せたときに、観衆や野次馬の中にいた自分と、視線があったことが忘れられないでいる。
周囲の人間とは何かが違う。そんな予感がしてならない。だがそれが何かがわからない。
解っているようで解っていないこともある。コントロールできない不安感が、しばしば彼女をイライラさせるのだった。騒いでいてる時は忘れがちだったのに、、再びイライラが始まる。
挙げ句の果てに少々お酒が入っていて、少々理性の箍も外れ掛かっているし、意識も少し鈍くなっている。
「ごめんね~兄貴急に仕事入ってー」
彼女たちの姿がそこに在るのは、そのせいである。本来ならカラオケボックスなどで、尤賑やかに過ごしている筈だったのだ。
シャーディーはみんなに謝っているが、得をさせてもらっている彼女らからの不満はない。和気藹々としている時間が過ぎるのだった。
「のど乾いたから、飲み物かってくるけど?」
リバティーは、足をふらつかせながら、振り返って少し揺れながら、全員を見ている。
「リバティー大丈夫?代わりにいこっか?」
シャーディーが心配してくれるが、
「いい。大丈夫」
周囲から見て、あまりそうでもなさそうだが、リバティーは酔い覚ましのため、少し風を感じながら歩きたいのである。強めの言葉で言っている。
「ん~~。なんでもいいよ。テキトーにまかせる」
日が沈みかけている公園には、街灯が点り風も涼しくなっている。火照った身体には丁度よい。だが、足下が少々覚束ない。
その向かい側からである。
リバティーと同じようにできあがった一人の青年が歩いてきている。彼らは帯刀している。
この時代帯刀をしていると言うことは、資格があるということである。つまりそれだけの腕前を持っているということだ。
彼には四人の取り巻きがついており、男女ともに二人ずつである。彼らは全員帯刀している。
「イーサー!ふてんなよぉ……」
彼に声をかけたのは、ガッチリとした体格で、ドライを超える身長の男だった。瞳はグリーン。頭髪もブラウンで顔は四角く、頭も角刈りで、鷲鼻で少し老けて見えるタイプだが、細めでタレがちな目は、何故か何時も困ったような表情をしており、優しそうな面持ちである。ミリタリースタイルの服装が好みのようで、黒のタンクトップに、上下迷彩柄のシャツとパンツ、ミリタリーブーツといった様相だ。そしてバスタードソードを背中に背負っている。
イーサーは、百八十センチ程度あり、頭は金髪で、髪の毛はそれほど長くないが、ワックスで固められたように、幾つもの角がツンツン立っている。青い瞳を持った目は鷹のように鋭く、酔っているため尚鋭くなっている。服装は戦闘用皮ジャケット中心で、ブラウン中心の色合いである。ズボンは黒を好んでいる。
腰には、ロングソードを備えている。
他の仲間を順に紹介して行くと。
まず、ローズほどのではないにしても、少し茶色の混じった赤毛のロングヘアを持つフィア。
彼女はイーサーよりも身長が高く、百八十センチは楽に超えている。
サイドが刈り上げられた、ヘアスタイルをしており、下手をすれば、美形の男子と間違われそうな、風貌だった。
そのためか、ぽってりとした唇を強調するように、ルージュの口紅を好んで付けおり、角度によっては気怠い表情が色っぽい。
服装は、何時も白いスーツをラフに着こなすことを好んでおり、何時もホストのようにパリっとしており、はだけたスーツの中から、赤いアンダーウェアが見える、少し派手目の女性である。
レイピアを腰に下げており、其れが彼女の武器だ。
次に百七十五センチ程で、ローズより俄に身長が高く、絶えず冷めた感じで周囲を見ているのがエイル。服装は青と黒のコントラストを活かしたスーツ姿である。頭髪はシルバーより白髪に近く。髪質は、さらりとしており、瞳は深いブルーで、短めの眉が特徴的である。彼の剣はグレートソードだ。
グレートソードは、トゥハンドソードと同じ丈かそれ以上の長さを持っているが、重量はその比ではない。圧重ねであり、鎧ごと敵を叩き殺すことがその基本である。グリップはバスタードソードと同じように、両手剣としても片手剣としても使用できるものとなっている。この世に扱える人間は希少で、あまり実用的とは言いがたい。通常の人間では使用することすら不可能であるからだ。
彼は自分の身の丈と同じ刀を背中に背負っている、どうやら見かけによらず戦闘スタイルは、ドライに近いようである。
最後にミール。目は大きくチャーミングで、瞳は水色である。負けん気の強そうな顔をしている。つり上がった眉がそれを物語っている。ふわりとした天然パーマで、ショートヘアであり、その色は、灰色がかった白である。彼女もやはりロングソードの使い手のようだ。
「グラント!!なんで、俺等が出場停止なんだよ!!」
イーサーは、後ろから肩に手をかけようとしていたグラントの手を振り向きざまに弾き、優しい彼に向かって、吠えるように言葉を吐きかける。
「なんで……って言われても」
グラントも、特に思い当たる理由がないのである。生真面目な彼は、正しい答えを返そうとするのだった。
「ウチ等、素行が悪いんだってさ……」
上手く説明できないグラントを助けるように、それが残念そうに微笑みながらフィアが言う。
「違うでしょ?ドラモンドノの息子が大会に出るってんで、因縁つけられただけじゃん!」
火に油を注ぐのは、気の強そうなミールだった。
エイルは何も言わない。いつもの内輪もめだと思っている。
「イーサー……お酒飲み過ぎだって」
怒りが燻(くすぶ)っているイーサーに対して、グラントはどうにか宥めようよしているが、彼のイライラは募るばかりだ。酒が彼の精神の抑制を妨げていることも、理由の一つにあがる。
イーサーは、何かにつけて肩を抱くようにして宥めるグラントが鬱陶しくなり、肩で拒絶し、腕を強く振り回した瞬間だった。
その腕が、横を通り過ぎ様に、ふらついたたリバティーに当たり、彼女を弾いてしまった。本当ならグラントに当たる予定だったのだが、足下がふらついて、真っ直ぐ歩けていなかったのである。
お互いモヤモヤとした雰囲気のもっている者同士の衝突だった。
「いた!!どこみてんのよ!この唐変木!」
はじき飛ばされて、尻餅をついたリバティーの強気な一言が、イーサーをさらに苛立たせるのだった。
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