第3部 第1話 §2

 サブジェイ達が向かう目的地であるヨークスは、東バルモアの東海岸に位置する、この大陸一番の街である。


 人口は二百万人近くに上り、7大都市の一つでもあった。七大都市には、ホーリーシティーや、ヨハネスブルグが含まれており、人口では及ばないものの、エピオニアも七大都市に含まれている。

 シンプソンの納めているホーリーシティーのある西バルモア大陸の東隣の大陸になる。


 世界中の国家間の政治的距離が近づくにつれ、表面的な友好関係とは裏腹に、絶えず裏側での駆け引きが横行する時代でもあった。

 オーディンがエピオニアの大使として、その街に会議のために出向く事になったのである。


 エピオニアは色濃く魔法文明が残されており、魔法都市とも呼ばれており、常に世界をリードする国家となっていた。その力は、領土拡大を睨む第三国をまったく寄せ付けないものだった。


 ホーリーシティにもまた、同じ事が言える。

 現在ホーリーシティー、エピオニアは姉妹都市の関係にあり、もちろんオーディンやシンプソン達の影響が多大に影響していることは言うまでもない。


 通信技術が広く世界に伝わった現在、世界にその地位を示そうとする国が多く、オーディンはその調整に回っているのだ。

 簡単に言えば、同盟関係の確立である。


 ヨークスの街は広い。階層が十を超える建物が並び立つ中央から、文明の音が遠ざかる農地まで多種多様な地形が広がっている。

 

 都市中央の建物が霞む、耕地が広がる景色の中に点在する家屋の一つに、場所は移る。


 割と大きな木造二階建ての、庭先のウッドデッキにある、白いテーブルの上に、素足を投げ出すようにして、スナックをつまみながらテレビを見ている一人の女性がいた。


 ジーンズに、ラフに着こなされた白いブラウス。ブルーの瞳に、世界で唯一の赤く靡くセミロングのストレートヘアという風貌であり、軽い質感の髪がふわりと風に靡く。

 ローズである。


 「じれったいわね!さっさとエッチしちゃいなさいよ……男だったら」

 テレビに映し出されたドラマを見ながら、彼女は冷やかしつつ、スナック菓子を頬張る。


 この時代のテレビは、ブラウン管仕様ではなく、投影式や液晶であり、天井から投影装置が天井からぶら下げられていた。ポータブルなものではなく、それだけのために、備え付けられている。


 そこで、コマーシャルが入り、洗剤などの宣伝が流されるのは、どの時代も変わらないようだ。

 ローズはふと、室内の時計に目が行く。


 「と、お弁当もっていかなきゃ」


 テーブルから足を下ろし、側に置いていたウェスタンブーツに乱暴に足を突っ込み、ファスナーでを閉じ、隣の椅子に置いていた、ピンクの布で包まれた弁当をつかみ取り、リュックに入れ、それを背負い、目と鼻の先に止められているIHにまたがり、ポケットから取り出したキーを差し込む。


 車体はローズの髪の色に合わせて赤を基調としたネイキッドタイプのIHだ。

 特徴としては、浮揚式が一般的であるに対して、車輪があり、エネルギーが推進力に集められている。


 路面の影響を受けやすい欠点を持つが、浮揚式のように、バランサーや揚力にエネルギーをとられないことと、直接地面に接しているために、より直進性の高いエネルギーを得ることができるのだ。


 何より彼女はこの方が落ち着くらしい。走っている感じがするのだ。

 ローズはキーを回すとほぼ同時に、アクセル全開でバイクを走らせる。


 シフトチェンジも可能になっており、エネルギーの流量も細かくコントロールするとが、可能となっている。

 揮発性燃料を爆発させて動力に変えているわけではないので、排気音は全く無く、エンジンの起こす振動もない。


 一般のIHよりも、高速走行が可能だったが、この時は、ドライに弁当を届けるだけだったため、鼻歌気分で、バイクを走らせるローズだった。

 十五分ほど走ると、舗装されていない道に近い耕地に人影が見え始める。


 ローズの姿が向こうにも見えたようだ。

 男性である。身長は百九十センチメートルを超し、恵まれた体躯で、白いタンクトップに、ローズと同じようにブルージーンズを穿き、輝く銀の髪をもち、赤い瞳をしている。


 ドライである。


 片手に鍬を担いでいる。それが今の彼だ。


 「腹減ってんだぜ!」


 彼は勇ましく走ってきたローズに対して、道路に近づきながら、大声で呼びかけるが、顔は穏やかである。

 ローズは、バイクを止めて、背負っていたリュックをさらりと、はずし、それごとドライに投げる。


 「煩い!ドラマいいとこだったのよ」


 慌ててリュックを受け止めたドライに、ローズは強めの言葉で、それでいて優しく目を細めながら、すっきりした笑いを浮かべている。それを見たドライも、ふっと微笑みたくなるのだ。

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