第2部 第8話 §7

 ドライは、オーディンの顔を見るが、オーディンにもレイオニーの意とすることが解らない。仕方がなく手紙を読むことにする。


 「ん~と……」


 ドライはうめきながら、周囲を見渡す。

 エピオニアの街は、復興に向けて大きく動いている。今まで放置されていた建物を改修しようと、活気のある人々が、町中に建築材料を広げているのだ。

 ドライは、改修のために、撤去された石材などが積み上げられている場所を見つける。そこにちょうど石の柱が、横倒しになっている場所を見つけたのだ。建物の前にブルーシートがおかれ石柱はその前にある。後方の建物は、赤煉瓦で構成されている。


 「あそこにしようぜ」


 レイオニーは、ドライとオーディンの間に座り、ブラニーはドライの左に彼のジャケットを敷いて座っている。


 「マリーは……まぁ学者って今では、そう言われる事の方が多いんだが、当時の奴さんは、学者の卵って言う方が正確だったな。マリーが当時でも有名だったのは、違いない事実だが……」


 ドライは、どこから話していいのか解らなそうに、両手の平を自分に向け、目の前の空気の重さを確かめるような感じで、中におき、少しやり場無く、そこでかき混ぜる。


 「なんで有名か?って言われると、やっぱ他の学者が手こずって開くことの出来ない遺跡の封印を簡単にといちまうからだ。なんでそれが出来たのか……って言われると、彼奴の持ってた妙な道具が、その原因だけど、それがマリーのハンドメイドで……。エンジニアとしても優秀だった……からかな」


 ここで、一度レイオニーの顔を見る。話し始めに興味を引かれるレイオニーがいるのを確認すると、ドライは再び話を初める。


 「有名なのは、マリー=ヴェルヴェット理論だが、他にもあるんだぜ。メディアとか媒体とかディスクとかの、解析技術とか。それまでディスクってのも正直なにか訳わかんねぇで、って今でもディスクをまともに読めるのは遺跡だけだな。けどそのディスクにも封印があってよ。今でも殆ど解析出来ずにいるってのが、現状だ。価値のわからねぇ学者共は、七色に輝く銀色の円盤の珍しさにだけとらわれて、貴族なんかへの、献上品にしたりとか、してたみてぇだけどな」


 ドライは正直、今話している事柄が、レイオニーが知りたいものかどうかは解らなかった。だが、レイオニーのためにマリーのことを話してやれと、バハムートの手紙に書かれていたのだから、自分の知っている事柄を断片的に話している。レイオニーはじっとドライを見ている。彼の話の中から、答えを探そうとしてるのだろう。


 レイオニーの目的は、自分の構想を形にすることである。IHアイアンホースが開発された過程は解らないが、少なくともそこには、マリーの理論が使われている事は確かで、彼女にもその発想があった。


 ドライは再度話し始める。


 「実はそのディスクってのに、マリーヴェルヴェット理論より、もっと強烈な技術が封印されてるものもあるらしいが……。何がどこに納められているのかってのは、マリーでも解らなかったらしい。あ、そいつはジジイのスタッフが、一寸ばかりは回収してるしてるはずだぜ。外れか当たりは、べっこだけどな」


 ドライがひとしきり、話し終えても、レイオニーの表情が晴れることはなかった。


 「レイオ。おまえが思っているほど、情報というものは、開かれたものじゃない。虎穴に入らずんば、虎児を得ず。今はきちんと学校を卒業することを考えていればいいのではないかな?」

 オーディンはそう言いながら、レイオニーの頭をなでる。


 「そうだぜ、お嬢ちゃん。人生長いんだ。今からそんなに行き詰まってどうするよ?」


 ザインが、前に姿勢を倒し、オーディンの横から、レイオニーの顔をのぞき込んだ、そのときだった。


 「そんなんじゃだめだもん!サブジェイだって毎日頑張ってるのに、私だけ、のんびりしてられないもん!」


 ストレスの溜まったレイオニーが天に向かって大声を張り上げる。一瞬大人達が両脇に飛び退いてしまいそうになった。

 レオいニーは、握っていた新聞をその場に広げて、全員にその記事が見えるように、少し遠くに持つ。


 「これだって。理論さえわかってれば、自信あったもん」


 オーディンは、その記事の内容を熟読するようにして読むが、ドライは眼を細めて、そこに意識を集中し、さらりと流して読む。


 「飛空船を見たときに、すぐに思ったんだよ。中を見せてもらったときに、何となくだけど解ったような気がしてた。パパの言うとおり、しっかり卒業してからにしようと思ってたんだよ?でも、ゆっくりしてたら、自分と同じように考えてる人に、どんどん追い越されちゃうんだ!って思ったら、イライラが収まらなくなって……」


 今度は前屈み気味にシュンと落ち込み気味になってしまう。

 少しして、つまらなそうに新聞を眺めているドライが口を開く。


 「ま、マリーの財産をアカデミーだけが、牛耳ってるってのは、アンフェアだよな」


 瞬間、ブラニーと、オーディンの視線が、少ししらけて、ドライを捉える。


 「ん?なんだよ」

 「似合わんな……」


 オーディンが、ボソリと呟く。口をとがらせたドライが、反論したな視線でオーディンを軽く睨む。


 「てめぇも、人のこといえねぇだろ?」


 オーディンを牽制した後、ブラニーにも、すねた態度であたるドライだった。

 確かにこれにはブラニーもぐうの音が出ない。やぶ蛇だった。胸に矢が刺さった感じがする。ブラニーはふん!と一度そっぽを向く。

 基。


 「レイオ、手紙の内容しってんのか?」


 ドライは、バハムートの手紙をちらつかせるが、レイオニーは首を横に数度振る。マリーのことに関してドライ達に聴きに来ることは、前提だったようだが、マリーの手帳を譲る件に関しては、まったく知らないようだ。


 「そう言えばローズ=ヴェルヴェットはイエスだと、ドライにいってほしいっていってたけど?何のことかしら?」


 ブラニーがピンと、そのことを思い出す。ブラニーも手紙の内容を見ていない。ドライは、封筒から手紙を取り出し、わざとレイオニーに見えないように、彼女にそっと、それを見せる。


 と、ブラニーは「なるほど」と 頷くのだった。

 そして、ドライはその手紙をそのまま、内ポケットにしまい込んでしまうのだった。


 「レイオ。俺の話は参考にならなかったもしんねぇが。帰ったらジジイにイエスだといってくれ」


 ドライは、すっと立ち上がる。それと同時に、全員腰を上げるのだが、レイオニーだけは、少し取り残されたよに、ぽつんと座ったままになっている。そして、立ち上がった大人達の顔をきょろきょろと見回すのだった。


 「さ、のんびりしては、いられないんでしょ?」


 ブラニーがすっと手を差し出す。いつも通りのクールな様子だが、実情を知っている彼女には、退屈さは消えていた。

 レイオニーがブラニーの手を取ると、彼女は挨拶もなく姿を消してしまうのだった。


 そこには、再び男三人が取り残される。


 「あの手紙には、なにが書かれてあったんだ?」


 オーディンも手紙の内容を知らないうちの一人だった。興味深げに、横目でドライの表情を探るが、把握するには、判断材料が少なすぎる。


 「あん?まぁ、プレゼントは、秘密が多いほど、後々喜びが倍増するって、こったよ」


 オーディンへの回答としては、あまりにも会話がかみ合わないが、ドライはわざとそうすることにした。そして、さっさと一人で歩き始めるのだった。

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