第2部 第7話 最終セクション
サブジェイは大人達の強さに、父親達の憧れてここまで来た。だが、サブジェイには力を競い合える均衡した力を持つ友がいない。ドライはルークに追いつくことが出来たが、サブジェイにはそれが出来ずにいる。
このことは、当分彼のもやもやになりそうだ。
「レイオ、サブジェイに付いていてやれ」
オーディンは、そっとレイオニーの背を押し、サブジェイの元へ走らせる。
レイオニーが走り寄ると、サブジェイは、その手を引き寄せて握る。サブジェイの心中はいろいろな感情が整理できずに、気が滅入りそうなほどにぐるぐる回っている。だがその手は自分が守って行くべきものだとわかっていた。
再び、大人達だけになる。
「ドライ……」
シンプソンが、声をかける。シンプソンは心底心配そうな顔をしている。まるで自分の痛みのように、顔を苦痛にゆがめている。
「結局、俺は彼奴に、なんにもしてやれえぇ……。俺がこの手に出来るのは、ローズが精一杯だ」
ドライは太陽に向かって腕を伸ばし、それを掌の上に納めると、ぐっと握り拳を作る。
「何をするかは、自分で見つけるもんだぜ。あの子にはただ、その山がデカイだけさ」
ザインがドライの肩をぽんと叩く。
サブジェイは王城内に引き返す。その出入り口で待ちかまえていたのは、ルークだった。
「様ぁねぇな」
ルークは、入り口の前に立ちはだかり、サブジェイの行く手を阻む。
「悪かったな。どうせ、俺はよえぇよ」
それでもサブジェイは、覇気もなくルークの横を通り過ぎようとする。消化しきれないモヤモヤを抱えたまま、無くした戦意を取り戻せないでいる。
「弱虫は、そこで指加えて、ずっと泣いてろ」
ルークは、柄に手を添えて、ドライの方を見据える。
そして、一歩ずつ歩き始め、サブジェイの横を通り過ぎる。
彼の視線がまっすぐにドライの方へと向いている。サブジェイがそれに気が付き、振り返ると同時にルークは走り出してた。
「ドライ!」
ルークは、叫びながら、剣を抜き様一閃、真上から飛びかかる。
ドライは反射的に、ブラッドシャウトをかざし、ルークの攻撃を防ぎ、素早くそれをはじき飛ばす。
はじき飛ばされたルークは、上空で二回後方宙返りをして、着地と同時に、真正面からドライに斬りかかる。
真っ直ぐ向かってくるルークに、憎しみや怒り、あざけり、挑発など一切感じないドライだった。何かそれ以上の目的を感じた。
そして、すぐにルークの動作にデジャヴする。だが、それはデジャヴなのではなく、先ほどの現実なのだ。
そう、サブジェイと同じ動作なのである。ドライは一瞬気後れたが、身体が反応する。ルークの攻撃を断ち切るために、真正面から剣でそれを受ける。
そして、サブジェイと同じようにルークをはじき飛ばす。
先ほどと同じだ。サブジェイは、ルークがなにをしたいのかがわからない。
だが、サブジェイと違うのは、ルークはいったんとばされた勢いを殺さずに、片手でバク転をして、さらにドライとの間合いを明けるのだった。
たった一つの動作である。それで戦いの流れのすべてが変化するのだ。だからこそ全く同じ戦闘などあり得ないのだ。
ルークは回転をしながらも、周囲をよく見ている。先日のオーディンとの戦いもサブジェイは、恐らくそれに近い状態で、彼を観察していたはずだ。ルークは絶えずそれを怠らない。恐らくローズとの一戦が唯一例外だろう。
ルークは、ドライとの距離を開けた場所で、地に足をつけ踏ん張る。その間もドライは間合いを縮め、もうすでに、彼の眼前までたどり着いている。
ドライが真上から剣を振り下ろした瞬間だった。
本来ならば、ルークですらそれを躱すだろうが、彼をそれをせず、剣の面を振り下ろされるブラッドシャウトに向け、さらに左手で面を支えて、受け止める。
ぶつかり合った金属のエネルギーが、火花に変わり、一瞬に散る。
「ぬぅぅぁああ!」
すべての筋組織が断裂しそうなほどに悲鳴を上げる。上半身を目一杯に伸ばし、下半身は深く沈み込み、大地に食い込む。
自分の攻撃をかわし、ルークは次の手を狙うだろうと思っていたドライだった。振り下ろされた剣に手加減はない。
ドライ自身それに驚いている。
ルークの下半身が沈みきり、片膝を付き、漸くすべてを支えきることが出来る。
ドライの身体は勝手に反応し、自然に剣を引き上げ、がら空きになった胴体めがけて、横凪ぎにそれを振るう。
ルークは痺れた右腕一本で剣を振るい、左側に立て、再度その面に身体を寄せ、左腕を添える。
二度目の直撃。
ルークは剣ごとはじき飛ばされ。今度はそれを立て直すことも出来ずに、大地の上を無様に転がる。
本来ドライの力を知っているルークが、このような戦い方をすること自体おかしいのだ。
受け止めるにしても、もっと往すように受け止めるはずだ。往した直後攻撃をしかけ、隙を作り、攻撃を組み立てて行く。
ドライの動きが止まる。
大地に転がったルークは、素早く起きあがり構え直すが、平衡感覚と身体そのものに、来ている。すぐに膝を崩し、片膝を付く。だが、揺らぐ視界の中に、ドライを捉えようとその目は、ずっと彼を見続けているのだ。
「なに、してんだ?来いよ!!」
ルークが挑発するが、彼のそれは彼自身の挑戦や欲求などは感じられない。それは勝負ではないのだと、ドライは気が付く。
遠くで、それを見入っているサブジェイの姿が視界に入る。
剣を封じだれたサブジェイと、漸くながらも二度もそれを凌ぎきったルーク。そのやり回しの上手さは、オーディンも舌を巻く。
ドライは、ルークに歩み寄る。
「あんたらしくねぇけど、あんたらしいな」
当分自分との決闘も避けるだろうと思っていたルークの心境を、ドライは知る。そして、手を差し伸べる。だが、ルークは手を借りない、剣を支えに立ち上がり、蹌踉めきながら漸くバランスを取る。
「どうしようもねぇ甘やかされたガキがいてよ。親の面がみてぇぜ!」
ルークはドライを一睨みする。
ルークの叱咤は、昔のドライには、煙たすぎる言葉だった。だが、今は反抗する気がおこらない。
大人になったのだから、そうなのかもしれないが。お節介さが伺える。心の中が少しだけ熱くなる。
ルークは、剣を納める。
「け……」
そして、ドライを横目で睨みながら、足を引きずりながら、その場を去り、再びサブジェイの前に現れる。
「アマちゃんが……」
ルークはそう吐き捨てて、再び城内に姿を消す。
サブジェイは言葉が出ない。だが、モヤモヤが消える。彼は思い出す。確かに強くなりたくて、剣を握り続け、ドライ達に難度も挑戦している。だが、なぜ剣を握ったのか?それは、彼らのようになりたいからである。彼らを打ち負かす事ではないのだ。確かにそれも目標に含まれているが。ルークの凄まじい気迫は心地よかった。
二度もドライの攻撃を受け止めたのである。
サブジェイの前から去りゆくその背中は、かつて世界に名を轟かせた、帝王黒獅子の気高さが漂っていた。街を守るために、戦っていたドライの見せた、ドライの大きな背中とは違い、そこからは暖かさは無かったが、サブジェイが引きつけられるには、十分なものがあった。
そして、その背中がドライ=サヴァラスティアを育てたのである。
「おら!俺がみっちり鍛え直してやる!!」
サブジェイの足が少しずつ前に動き出す。
「レイオ……俺、学校卒業まで、もっと踠いてみるよ……」
「サブジェイ……」
サブジェイが期限を打った理由。それはレイオニーとの約束のためだ。
この日、サブジェイは、皆に先んじて、故郷へ帰る決断をするのだった。
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