第2部 第6話 §11

 ドライに新たな変化が現れた頃―――。

 オーディン達は、サブジェイの放ったサテライトガンナーのあらゆるエネルギーから身を魔も得るために、シンプソンの張った結界の中に飛び込んでいた。遠い距離にいたルークとザインも、冷や汗をかきながら、神村の真横にいる。サブジェイはレッドシールドで魔法の威力から、自分のみを守っている。最も着弾に近い一にいた、ジャスティンとシードだが、彼の防御によって難を免れている。


 大地はセシルの張った鋼鉄の地面すら焼き払っている。

 そしてその地面の下からは、陶器のような質感の白い平坦な物体が見えている。サテライトガンナーの威力でも全く傷つくことなく存在しているのだ。


 それを最初に発見したのは、シードとジャスティンだった。

 周囲の空気が晴れ上がると共に、次にそれを目にしたのはサブジェイだった。

 そして、最後部にいるセシルが遠方のそれを目にする。


 「遺跡……だわ」


 彼等の中で、すぐにそれをそうと理解できるのは、彼女しか居なかった。もし、過去を通して、すぐに認識できる人間がいるとすれば、マリーだろう。そして、ドライ。最も若い人間で言うなら、マリーにあこがれを抱いているレイオニーだ。

 やがて全ての空気が晴れ上がると、遺跡の中心に一人の男が、玉座の椅子に腰掛けている。


 「クルセイド王……」


 王は、やせ形の余り頬に肉のない、白髪交じりの初老の男性だ。頭にかぶられた王冠が、自棄に重そうに見え、現に彼はうなだれた状態でいる。ザインの位置からは表情は確認できなかったが、彼はうつろに目を開き、白い地面を眺めていた。


 「シード?」


 ここに来て3度目の静けさだった。異様な静けさに、ジャスティンは緊張が解けない。きっと気を抜いた瞬間何かが起こると、彼女は感じている。


 「まだだ……。そのまま持続して。セシルもまだ、術を解いていない」


 他に気を取られたジャスティンに対して、シードは、玉座に座った立派な衣服を纏った男から、目を離すことはなかった。

 サブジェイが防御の構えを解く。油断ではない。次の先頭に移るための準備だ。


 「なぜだ……」


 玉座の国王は、悲しそうに声を震わせ高ぶらせてそう言う。


 「私は、王としてこの国の安泰を望んだだけだ。なのにどうしてだ!」

 王は握り拳を作り、重厚な大理石で出来た椅子の手すり作った握り拳の内側で叩いた。

 「ザインバーム君!君のような男がいると、国が割れるのだよ!!それが判らぬのか!」


 彼は地面に声を吐き捨てた。報われぬ想いが悲痛に空気を振るわせる。そしてそれが波動となり、一気に押し寄せる。

 まず吹き飛ばされたのは、サブジェイである。

 次に震撼したのはシンプソンのシールドである。他の面々はその内側にいたので、被害はない。


 「てめぇ、随分嫌われてんな」


 ルークは哀れみの言葉を持って言う。ザインを哀れんでいるのではない。言葉はザインにだが、皮肉は彼に波動を向けた人間に対しての言葉だ。滑稽で仕方がないと、言いたげだ。


 「彼はもう俺達の王じゃない。邪に心を奪われた哀れな残留思念だ」


 ザインは立つ。舞台はそろった。後はむき出しになった王の思念を打ち砕くだけだ。


 「じゃぁ、奴をぶった切れば、終わりってことだな?」


 ルークも立ち上がる。何となくだが倒すイメージが沸いてきた。


 「そう簡単にはいかないわよ」


 セシルが言う。

 波動に吹き飛ばされたサブジェイが起きあがる頃、そこに集まっている面々が、セシルに釘付けになる。


 「王の足下にあるのは遺跡だわ。見て、半径10メートル以上吹き飛ばされているのに、その下には一面白い地面が見えている。あれが全て天井部分なら、大きいわ。今居るのが彼の残留思念なら、あの玉座は?今までの出来事は?あれだけの質量を生み出したのは、意志の強さじゃない。彼の足下にある、地場のせいだわ」


 「では、もし上物をつぶしたとしても?」


 オーディンが、当たり前の疑問をあえてセシルに問う。


 「ええ、遺跡にリンクした彼の思念が残っている限り……堂々巡りね」

 「待ってください!このままどうすることも出来ないんですか?貴方なら、遺跡を攻略できるでしょ?」


 不安ばかりが膨れあがるのを、シンプソンは嫌った。声を大きく張り上げ、それに救いを求めた。


 「今あなたがそこを動けば、ゾンビの群れが、わんさかね。残念ながら私には、物質変換をすることは出来ないし、相手より早く、元素の再配列することは出来ないわ。悔しいけど、貴方を認めるわ」


 ブラニーは、シンプソンの肩に手を置き、彼の苛立ちを押さえつつ、打開策が一つ消えたことを、皆に教える。


 「どーすんねん?こっちの攻略だけやったら、また出来るけど……」

 「そうだな……、到達できているし。今度は瞬間移動でもこれる」


 オーディンは体勢を立て直すことを先決と考える。


 「冗談じゃない!国王を縛る結界はもうない!島が壊れてしまう!」


 ザインが、無念を浮かべ、オーディンの胸ぐらを吊り上げる。


 「みんな、なにうだうだやってるんだよ!あいつ立ったぞ!」


 シンプソンの結界近くまで吹き飛ばされていたサブジェイが、中心から動き始めた国王を指さす。


 「国民が敬い慕う人間が、国内に何人もいてはいかんのだ。やがて誰かが煽り、乗せられ分裂し、国民の思想を分け対立し、やがて、戦争を引き起こしてしまう。君たちは、駒になるには力がありすぎる!」


 王は彷徨い歩くように、そして鬱に入ったように呟きながら、一歩一歩前に出る。

 「みんな、もたもたするなら、俺が決める!!」


 サブジェイは、威勢よくまっすぐに前に走り出す。格段に速いスピードだった。切れもある。そして正面から、王をまっぷたつに斬る。しかしサブジェイの剣が王の肉体を両断すると同時に再生が始まり、二つになる前に元に戻ってしまう。


 サブジェイは、国王の右側に抜けながら、振り抜いた剣を力ずくで引き留め、踏ん張り今度は真横に振りながら、国王の背中に剣を叩き付けようとするが、今度は紙一重のところで、剣が弾かれ、貫通することすら出来ない。


 剣が通らないことをサブジェイは知ると、一端間合いを開けるため、進行方向にダッシュをかけ、振り向き、体勢を整え直す。そして、左腕を前に突き出し、魔法と唱える。


 「ガトリングレイ!!」


 サブジェイの左手首をいくつもの丸い一センチほどの球体が回転し始め、次々と目標物に向かって飛び始めるが、またしても国王の体に当たる直前で、はじけて消えてしまう。


 「ねぇ!ジャスティンさんの魔法効いてねぇんじゃねぇの?!」


 サブジェイは、いつの間にか自分の真横の位置になっている、両名に対して、自分の攻撃が効かない原因をそちらの方に責任転換してみる。


 「いや!効いてる!多分触手の再生なんかに、使ってた力を、自分に向けているんだ!」


 ジャスティンは、国王の力の源になっている、一つの鍵を封じたに過ぎないのだ。


 「いろいろ説明してあげたいけど、予想に過ぎないし、不確定要素も多いわ。遺跡を攻略出来る人間がいれば……」

 窮屈な体勢のセシルが、歩み寄りつつあるクルセイド王を睨みつつ、策を探る。


 「やったら、レイオがおるやないけ」


 と、ドーヴァの一言に、全員彼を指さす。ゆとりがあったわけではないが、ひょうひょうと答えるドーヴァに、みんな、妙な関心を覚える。

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