第2部 第4話 戦士の心
第2部 第4話 §1
エピオニア城内部に入ったドライ達は、それぞれ部屋をあてがわれる。サブジェイとレイオニーは、オーディンの希望により、別々の部屋にされてしまう。親心ということだ。窓から見上げる空には、禍々しい生物が飛び交っているが、結界内にいる自分たちに危害を加えることは出来ない。静かに思える空気とは裏腹に、遠くの危険が目に見えている。
その日の午後は、それぞれの時間を過ごすことにする彼等だった。エピオニアからクルセイド城まで、馬を走らせて六日ほどかかる。駿馬で夜通し駆けても、とうてい一日で終えることの出来ない道のりだ。その難題をクリアしなければならない。しかし、そのことを考えるのは、少し伸ばすことにした。リフレッシュも必要なのだ。
ドライとルークは、久しぶりに肩を並べる。沈んだ空気の町並みを歩いても仕方がないので、仕方なく芝生の多い城壁内を二人は、ブラブラし始める。
「死ぬぜ、ありゃ……」
何を言いたいのか、すぐにピンと来るドライだった。恐らくサブジェイのことだろう。だが、腹の立てることなど一つもない。実戦経験が浅いのだから、それは仕方がない。彼等の言う実戦経験は、人間の力を逸した戦闘のことだ。ドライや、オーディンのしごきは、戦闘経験に入れることは出来ない。
「ま、本番まで数日あるさ」
くすくすと笑い出すドライ。昔のルークなら、全くどうでも良いようなことだろう。ましてや、他人の子どもだ。それを口に出していうことが、妙におかしく思えてならなかった。しかし、ドライには、ルークに拾われ戦士として育てられたのだ。それがルークの天性なのかもしれない。冷たく言い放す外見と、ギャップがあるものだ。
「けっ……」
ルークは、面白くなさそうに、舌打ちをする。焼きが回った。彼はそう思ったのだ。
そのルークに、あしらわれるように鼻で笑われたサブジェイは、とんでもない暴挙に出る。ルークとドライの歩いている城の反対側の城壁の芝地で、オーディンとドーヴァをかり出していた。
もっとも、特訓だからと言われれば、二人とも快く協力してくれるのである。だが、この時は……である。
「なんやて?二人同時に、かかってこいやと?」
ドーヴァがイントネーションごとに声を裏返しながら、首だけを前に突き出すような格好で、しかめっ面で、疑問いっぱいである。
オーディンは、すぐにルークと対峙していたあの時に、何かあったに違いないと、ピンと来る。
「サブジェイに、考えがあってのことだろう」
と、スラリと剣を抜き、力を抜いた状態で構える。
オーディンにそう言われてしまうと、そうかいな?と、思うドーヴァだった。気も充実しないうちに、何気に剣を抜くのだった。
「いくぞ」
オーディンの軽い、かけ声と共に、サブジェイが剣を抜き、サブジェイの魂胆を確かめるように、ドーヴァはその間合いを詰めてゆく。
最初は、オーディンに正面を向けていたサブジェイだったが、ドーヴァの気配を感じると、彼を右側に置くように姿勢を整える。
オーディンもドーヴァも、先日集中し始めていたサブジェイの気配が、右左に揺れている事に気が付く。均等さがない。恐らくサブジェイが学んだことだろう。今以上に強くなるためには、一つも二つも上の経験をこなさなければならないのだ。正面以外にも今以上に気を配らなければ、ならないのである。普通の相手なら問題はないが、自分の実力以上の相手をしなければならないのだ、その状況を知らなければならない。当然だが、簡単に隙が生まれる。
ドーヴァがサブジェイの視界に剣をちらつかせる。サブジェイは視線で、警戒を促しながら、左手はいつでも魔法を放てるように、気を集中している。
その刹那、ドーヴァは一滑りで、サブジェイの背後に回り込み、真上から剣を振りおろす。
サブジェイは、身体をひねり、倒れ込みながら、ドーヴァを視界に入れつつ、これを剣で防ぎ、左手から放たれた、赤く光る光の針の魔法、「ニードルレイ」で、隙をつこうとするオーディンに向かい、彼との間合いを広げる。ニードルレイは、赤い光の貫通性のある連続射出可能な魔法である。通常の人間ならば、それだけで十分傷つけられる。
そして、オーディンと間合いを空けると同時に、瞬時に左手を大地につき、そのまま立てた左腕を軸にして、ドーヴァの足を払いにかかるのだった。
ひょいと、これを躱し、軽く後方に飛んだドーヴァを追いかけ、詰め寄るサブジェイだが、すぐにオーディンの気配に気が付き、するりと大地を滑るように動き、オーディンの背後を取る。
この、大地を滑るような動きは、ドーヴァの使う刃導剣独特の動きである。移動の際に、塵一つ立たないのだ。目で動きを読むようでは、この動きについてゆくことが出来ない。両サイドを取られ、不利な状態だったサブジェイだったが、コレで二人を一方向に集めることが出来る。もちろん、オーディンもドーヴァも本気を出している訳ではない。徐々にスピードをつり上げていくのが、この二入だ。
こんなコトが、2時間ほど続く。サブジェイはすっかり息が上がってしまう。オーディンもドーヴァもあまり息を乱していない。サブジェイが負けないように、きわどいところで動いていたが、コレが限界だろう。
へたり込んで、立てなくなってしまっている。
「ハァハァ……」
「いうとくけど、俺もこんな連中相手に、二対一で、やろうなんてもわんで?」
要するに、こんなコトをすれば、自分ですら息が上がるのだということだ。それをサブジェイがやったのだから、一寸呆れている。
「ルークさんは、俺と向き合ってるのに、シードさんの攻撃を平然と受け止めたんだ……、俺はシードさんに、全然気が付いてなかったのに……」
と、息も絶え絶えに、そう言ったサブジェイに、何となく納得する二人だった。よほど悔しかったのだろうと、二人とも、くすくすと息を殺しながら、笑い出してしまうのだった。だが、その内に息を殺しきれなくなり、次第に声にして、笑ってしまった。一丁前に張り合う気持ちなのである。
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