第1部 第2話 §3  竜の襲撃

 その状態が何時間続いただろうか、気が付けば、乱れた二人が、うっとりとしながら、肩を寄せ合っている。


 「結婚、しよう」


 「え?」


 ニーネは、今までオーディンにその事だけは、拒み続けられてきた。もちろん肉体関係も含めてである。よってこれが彼女にとって、初めて女になった夜でもあった。その幸せで、胸が張り裂けんばかりだと言うのに、今度は、結婚話だ。彼が、彼女を拒んでいた理由も知っている。


 しかし、あまりに急すぎる。勿論其れが嫌だというわけではない。たった数分でオーディンに何があったかということである。


 「明日?来月?日取りは君が決めると良い。私はいつでも良い。君が、側にいてくれれば」


 「オーディン様……、嬉しい」


 二人、ヒシヒシと抱き合う。もう心を濁さない、オーディンは、そう決めた。ニーネが居てくれるだけで、自分は変われるしれない。セルフィーの言葉が強く彼を押していた。何時までも親友に心配をかける続けるわけにはいかない。そしてニーネを待たせ続けるわけにもいかない。


 二人が互いの感情に酔いしれている。そんな朝だった。すると、いきなりである。外の方で、激しい轟音がする。それと同時に、可成りの揺れが、感じられる。


 「きゃあ!」


 「何事だ!!」


 いきなりの出来事だったので、ニーネが、より強く、オーディンに抱きついた。吊り下がられているシャンデリアが、大きく揺れる。今にも落ちそうだ。取り敢えず彼女に危険があってはいけないので、上に被さり、その身の安全を確保した。


 「私……、恐い……」


 「大丈夫、私がついている。しかしこの揺れの感じどこかで……」


 ただ事ではないことは、オーディンには、すぐ分かった。揺れは断続的に続く。轟音もだ。突然部屋の扉が、激しく叩かれる。それから誰かが叫ぶ声もだ。


 「オーディン!!居るのだろう。大変だ。早く装備を調えて街へ!!」


 それは、セルフィーの声だ。彼は、二人の行動を、一応にお見通しのようだ。さすがに二人とも赤面したが、今はそれどころではない。オーディンは、仮面を付け、服装を整え、愛刀、ハート・ザ・ブルーを腰に帯刀する。そして、真っ白なマントを纏った。


 「お怪我、なさらないでね」


 「ああ、帰ってくるよ」


 熱いキスを、もう一度交わす。ニーネの方も、外で騒がしいセルフィーの様子で、ただ事でないことを察知した。最後に、勇ましく去る、オーディンの姿が見えた。


 戦友二人が、廊下を走る。


 「で、セルフィー、何があったのだ?」


 「ドラゴンだ」


 「ドラゴンだと?!まさか!!」


 「いや、間違いない。誰かが召喚したらしい……」


 この世界でのドラゴンとは、爬虫類の大型亜種であり、まさに生物の長たる存在だった。大翼で天空を舞うモノもいれば、悠々と地上を歩き回るタイプもいる。ただ、存在している世界が違うのである。それは、超獣界と呼ばれる魔法を含め、超常的な力を持つ生物が蠢く、法も秩序もない、人間は踏み入れたことのない世界だった。


 ただ、魔法論理学上、存在の確認だけはされており、ドラゴンの存在も、事実と認められている。


 時に時空の捻れに迷い込んで、人間界に現れることがある。


 この場合、ドラゴンは、その知能の高さ故、むやみやたらに、破壊活動は行わず塒を形成し、障害をそこで終えるのが常だ。


 希に帰界する事もあるが、人間による召喚を受けた場合、ドラゴンは、それをマスターと認め、その者の命令を忠実に実行する。


 人間の言葉を理解できるのだ。


 希に精神同調によるコントロールも行われるが、この場合は、遠隔操作によるものなのでマスターを見つけることは、極めて難しい。精神同調を行うためには、術者とドラゴンは極めて近い位置にいることが、条件となる。極端に言えば、接点を持っていることがその条件なのである。


 だが遠隔操作と言っても、命令を下せる位置に居なければ意味がない。言い換えれば、大抵、術者はドラゴンの近辺にいるという事だ。


 ただし、余りにも雑な召喚を行った場合、ドラゴンは、精神異常をきたし、ほぼ100パーセント暴走する。ただし、どのみちドラゴンを呼び出せる者は、かなり魔法に長けた者だということになる。そんな術者は、限られているはずで、殆どが国に仕えている。


 そんな術者が秩序を乱すだけでも、十分にやっかいごとである。彼等ドラゴンの種族としては、地(グリーンや茶系)・水(青系統)・火(赤系統)・風(白系統)の四元素に、基づく種族と、この混合種などがある。そのほかに、魔力を持たない、プレーンドラゴンなるものも存在する。プレーンドラゴンは、二足歩行で、ずんぐりとした体型で、前足はあまり大きくなく、発達した両足と、退化した翼を持っており、空を飛ぶことは出来ない。

 

 超獣界について少し語るが、ゴブリンやオーク、高等なる種族は、エルフまでいる。エルフ、ドラゴンに至っては、人間界についての存在は、知られているようだが、下等な文化しか持たぬオークなどまでに、知られているかは、定かではない。


 ただ電気によると、人間に対する補色本能が非常に強いことから、数千年前においては、お互いに接点があったことだけは、確かである。

 

 「そうか……、大魔導戦争以来だな……」


 二人は王城を飛び出す。とにかく轟音のする方角へ走った。轟音とは、ドラゴンの暴れる音だ。オーディン達がいる位置でも、ドラゴンの頭部が確認できるほど、かなりの大きさのモノだ。きっと成獣だろう。それも一匹や二匹の騒ぎではなかった。確認できるだけで、四匹は、いる。


 「なんと言うことだ……、これは悪夢か……」


 額から汗が出る。見る限り、彼等の本領を発揮した破壊活動は、していない。


 「ヒートドラゴン……二匹、プレーンが、二匹……」


 走りながらも、戦略を練るオーディン。セルフィーは、死を覚悟した顔をしている。もはや余裕など無い。それでも、相手の様子を観察している。ヒートドラゴンは、身体が長く、いわゆる翼竜だ。プレーンドラゴンは、体型がずんぐりとしていて、飛ぶには不向きだ。それにヒートドラゴンほど、強くもない。


 「見ろ!オーディン!!奴等の目を、焦点がない……、もしかして奴等は……」


 「暴走している!なんと言うことを、一刻も早く、始末しなければ」


 ドラゴンに更に近づく二人、それでも、可成りの距離がある。だが、可成り近づいた錯覚を起こすほど、彼等は巨大だ。


 「行くぞぁぁぁ!!」


 オーディンは、剣を抜き、地を一蹴りする。剣は、古代神秘を思わせる細かい装飾と、全身が光を放つ青をしている。彼の跳躍力は、一瞬で十数メートルの高さに身を浮かせるほどのモノだった。ドラゴンの頭上に出る。下には、必死で戦っている戦士団と、騎士団がいる。魔術隊もいる。必死で攻撃しているようだが、歯が立たない様子だ。


 「飛天鳳凰剣奥義天翔遊舞!」


 オーディンは、体を捻り、ヒートドラゴンの背面を、優雅に飛ぶ。その時に、彼は、剣に魔力を付与した。剣は青白く光り、白い尾を引く。彼は、冷却系の魔力を剣に付与したのだ。オーディンが天を舞い、地に降りる。まるで鳳凰の羽ばたきだ。着地と同時に、ヒートドラゴンは、輪切りになり、一瞬にして崩れさった。ドラゴンをも、凌駕する強さ、それがオーディンの強さだ。


 鳳凰というなの由来から、炎を得意とする錯覚を起こさせるが、由来はあくまでもその優美な跳躍から生まれており、特に属性との因果関係はない。オーディンはエンチャンターであり、様々な魔法を剣に付与することで、その技を放つことが出来るのだ。


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