接触(やはり野生だけに直接的だな)

 後で詳しく調べて分かったことだが、じんの首筋にはフェロモンを分泌する部分があり、この時の行動は、自分のフェロモンを俺に付けて自分のものだと主張する為のものだったようだ。

 この時点ではまだそこまで分からなかったものの、俺の手を自分の首筋に擦り付けるじんの姿も、親に甘える子供のように見えて、可愛らしいと思ってしまったのだった。


「じゃ、取り敢えずいったん帰るか」

 ひそかじんがほぼ<俺のもの>なったらしいことを確認できたことで、今回の調査は終了ということにした。宇宙船まで戻り、状況の整理と態勢の立て直しを図る。

 とは言え、ひそかじんの仲が良くなったとかそういう訳じゃない。相変わらずお互いに警戒し合って、かつ俺を間にして互いに何かを主張し合ってるかのようにそれぞれ相手を牽制する仕草を見せる。

 石を手にしてそれを投げつけるようなふりをするひそかに対して、じんはカマを振り上げて威嚇していた。

「喧嘩になるようなら止めてくれ」

 エレクシアにそう指示を出しているから大丈夫だとは思うが、やれやれだ。まあ、どちらも野生の動物同士、『話し合いで解決』とはいかないよな。

 この辺りの不測の事態に備えてしばらくは慎重に様子を見ることにした。調査についても当面はお預けだ。その間に二匹、いや二人の様子を観察するとともに、次の調査の大まかな計画を練る。

 そんな俺に、ひそかは積極的に俺に抱き付いてきた。元々の習性がこうやってスキンシップを取る種族だからだろう。

 一方、じんの方はと言えば、こちらはひそかに比べると控えめというか、群れで守ってもらえる訳じゃないという前提の違いがあるからか、行為に没入するという感じじゃなかった。俺に体を寄せて自分の首筋を擦り付けてても、完全には油断はしていない。俺に対しては気を許してても、周囲に対する警戒は怠っていないって言うべきか。

 こうして見るだけでもそれぞれの違いが分かって面白かった。

 ちなみに俺はというと、悪い気はしないんだがやっぱりもっと大人な感じの女性の方が好みだな。ひそかの濃密な接触にはそそられもするが、理性を失うほどじゃなかった。

「その割には随分とお元気なようですが?」

 俺の肉体的な反応に対し、エレクシアの冷静なツッコミが。

「これはただの生理現象だ! ほっとけ!!」

 外見だけならエレクシアが一番好みに近いんだが、残念ながら彼女にそういう機能はない。メイトギアはあくまで家事などのサポートがメインで、そっち方面の目的で運用するロボットじゃないんだ。そういう機能に特化したロボットも別にあるんだが、さすがに二体も買う余裕はなかったんだよなあ。


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