関係(親密度が上がるのはいいんだが)

 取り敢えずひそかに仲間がいることは確認できたわけで、今回の調査はここまでにすることとした。

ひそか、一緒に来るか?」

 俺が手を差し出し微笑みながらそう言うと、彼女はじんのことを警戒しつつもゆっくりと俺に近付いてきて、ギュッと抱き付いてきた。さすがに木の枝とかを自在に使ってこの密林の中を立体的に行動できるだけの身体能力があるから力が強い。一瞬、息ができなくなる程に抱き締められて俺が「ぐ…っ」と声を漏らすと、慌てて力を緩めてきた。加減を考える程度の知能はあるのが分かる。当然か。でなければ自分達の赤ん坊を握り潰してしまうことにもなるだろうからな。

「あ~、うぁ~…」

 初めて聞いたひそかの声は、まるで力加減を間違えたことを謝っているかのようにも思えた。

「ありがと。大丈夫だ」

 俺はそっと頭を撫でながらそう応えた。すると彼女も安心したのか、俺の胸に頭をうずめてくる。普通に、子供が親に甘える感じの仕草だった。それが何だかたまらなくて、俺もひそかを抱き締めた。

 だが同時に、刺すような視線を感じ、恐る恐るそちらに顔を向けていた。

『怖……っ!』

 そこには、表情までは読み取れないものの間違いなく俺とひそかを睨み付けてるじんの姿があった。

「発汗、体温の上昇、神経の緊張、対象に固定された視線。ほぼ間違いなく嫉妬ですね、これは」

「だよな~……」

 エレクシアに言われるまでもなく、俺もそれを強く感じてた。しかし、なんでだ? じんはいったい、何に対して嫉妬してるんだ?

 そんな俺の疑問に答えるようにエレクシアが語り始める。

じんはおそらく単独で行動するタイプの生物だと思われます。また、じんのように攻撃性の高い生物にとっては<強さ>が大きな意味を持つでしょう。その意味ではこの場にいる者の中で私が最も強いですが、女性を模した外見をしている上に生物ですらありません。

 となれば、彼女を退けてみせたマスターに対して興味を抱くようになっても無理はないでしょう。唯一の雄ですし」

「まあ、そうだよな~」

 何となく想像はついてたのだができればあまり考えたくなかったことをズバリ突かれて、俺は頭を抱えそうになった。

 とは言え、ここまで関わってしまうと無下にするのも忍びない。が、じんに対してはどう接するのが正解なんだ? 

「エレクシア、この場合、どうするのが正解だとお前は推測する?」

「そうですね。外見上は昆虫の特徴を持つじんですが、肉体的な構造は人間とほぼ変わりません。痛覚や触覚などの五感もかなり近いと思われます。となればやはり、肌を触れ合わせることが一番かと」

「やっぱり、そう思うか」

 想像した通りの答えが返ってきて、俺は覚悟を決めるしかないと思った。良好な関係を築くには、必要なことだと割り切るしかないと思った。

「エレクシア…ヤバいと思ったら助けてくれよな」

「もちろんです、マスター。私はその為にいるのですから。心配ありません。じんが十センチ動く間に私は二メートル動けます。今の位置でコンタクトを行っていただけるのでしたら、マスターの喉笛に噛み付く前に止めることができます」

「そりゃどうも……」



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