状況説明(さすがロボット。事務的だな)

 俺が見た光景はまるで、取り押さえられた暴漢に向かって『殺せ! 殺せ!!』と罵る野次馬にも見えた。集団ヒステリー状態って感じか。

 だから俺は、ハンドガンを空に向かってぶっ放した。ガーン! という衝撃音が空気を叩く。その瞬間、白いもふもふの生き物達はビクッと体を竦ませて黙ってしまった。そこに、もう一発。

 再びの衝撃音に、白いもふもふの生き物達は弾かれるように飛び散って、密林の中へと消えていった。

 後に残されたのは、俺と、エレクシアと、エレクシアの下で身動きが取れなくなっているじんと―――――

ひそか……」

 木の陰に隠れて不安そうにこちらを窺ってるひそかの四人だけだ。

「状況説明が必要でしょうか?」

 じんを組み伏せたまま、エレクシアがそう切り出す。「頼む」と応えた俺に、彼女は淡々と語りだした。

ひそかが残ったのは、群れからはじき出されてしまった為だと思われます」

 …なに?

「どういうことだ?」

 てっきり、じんについての状況説明だと思っていた俺は、思わぬ言葉に戸惑っていた。しかし、そんな俺には構わずエレクシアは続ける。

「私はじんの先回りに成功し、先にひそかとその仲間と思しき群れを確認することができました。しかしその時、ひそかは群れの仲間から明らかに迫害を受けていたのです」

「迫害だと?」

「はい。石や木の枝をぶつけられ、追い出されるところだったと推測されます」

 そこまで説明された時、俺の頭をよぎるものがあった。

「もしかして、俺の匂いがついてた、とかか…?」

 その問い掛けに、エレクシアが頷く。

「おそらくそうでしょう。ひそかはかなり匂いに敏感な種のようですから、マスターに何度も触れられたひそかに得体の知れない匂いが付いていると、仲間達は警戒したと考えるのが妥当です」

「それは申し訳ないことをしたな…」

 やはり木の陰から不安そうにこちらを窺っているひそかに視線を向けて俺は詫びていた。まあ、今さら詫びてもどうにもならないのは分かってるんだが、気持ち的にな。

 が、ひそかのことも気になるものの、今度はじんの方に視線を向けて俺は言った。

「もし大丈夫そうなら解放してやっていいぞ」

「承知しました」

 エレクシアはそう応えて、あっさりと、しかし警戒は怠らずにじんの拘束を解いた。

 飛び退いて逃げるかと思ったじんだったが、俺の予測に反して関節を極められていた腕を庇うようにしながらゆっくりとその場に立ち上がって、俺達に警戒しつつもじりじりと距離を取るだけだった。

「もう完全に敵対心を向ける気はないようですね。力の差をここまで見せ付けられてしまっては当然かも知れませんが。

 ひそかの仲間を狙ったのは、じんにとっては好物とも言える都合の良い獲物だったからだと推測されます。体が大きく、じんに比べれば動きが緩慢で強力な攻撃方法も持たない。そして数が多い。群れを作り数を増やすのは、力の弱い種に多く見られる生存戦略ですから。

 しかしこれで私達がひそかの仲間を守ると理解したとしたら、少なくともじんひそからを狙う可能性は下がったと見ていいかもしれません。リスクの低さがメリットだったとなれば、これでリスクは非常に高くなったわけですし」

 エレクシアのその推論には、俺も概ね納得したのだった。


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